第1話
走行し始めて40分程経った。
あまりこちら側に人々は避難してこなかったのか、車両もなくゾンビらしき姿もない。田園風景が続いていて平和そのものだ。
転移した先は山の近くの郊外だったらしく、これなら移動しなくて良かったんじゃ……! と少し後悔しつつも車を走らせていく。
都市部がダメだったり面倒になったら戻って来ようと決め、ナビには登録しておいた。
憎らしいぐらい天気は快晴で、日差しがとても眩しい限り。
ポチも日向ぼっこしてるからか、フカフカの毛がもっと柔らかそうになって誘惑してくる。が、首を振って運転に集中。
ナビの表示だとそろそろ主要道路に出るはず。迂回して進みたいが
然程スピードを出さずに気を付けて車を進めてきたが……、この辺りで一旦停車する。
片側三車線の道路に惨状が広がっていた。乗り捨てられ置き去りにされた車達、事故なのか燃えて黒焦げになっている物もある。地面には黒く広がり乾いた血痕や、人体の一部、そして損壊した遺体。
何両か車が揺れているのは、中にいるからか。
車両の間に立ってフラフラして歩いているのがゾンビなのだろう。
「うっぷ……、くそ、地獄絵図じゃないか、ふざけんなよ。……やっぱり、放置車両だらけだよな。どけるのにはドーザブレードあるからいいけれど。 衝突音がするから、ゾンビが反応するか問題か。 見たくない……、見たくないが双眼鏡で確認せねば」
背後にある
ピントを合わせつつ、周辺を探る。
「うわぁ、結構いるじゃんか……。 あぁー、アップで見るとよりグロいし、もうキッツいなぁ……。 ふぅぅ、どうすっかなぁ」
運転席にもたれかかりながら考える。脳裏に浮かぶのはさっきの惨状。
双眼鏡はその性能を遺憾なく発揮して、ゾンビ物の現実を否が応でも突き付けてくる。
体の所々がなかったり、内臓がはみ出てたり、なんか変な液体が流れてたりと、無残さに正直見るに堪えない。やはり
だがしかし、ここで怖気づいても先には進めないし、慣れたくはないが何とかヤるしかない。
乖離している感じがある
「ふぅ、もう帰りたいけど装備を決めますかー……。 絶対に、近接戦はしたくないので遠距離系、まあ銃にするとして。
運転席からリビングに戻りながら自分のちぐはぐな思考に苦笑い。いつの間にかポチが右足の横に来てくれていた、
ソファーに座りながらタブレットを取り出し、装備品フォルダを眺める。
まずは銃や消音機能がゲーム仕様か試してみてから、次に防犯ブザーも投げてゾンビの反応を確かめることにしよう。
おかげで選択肢はたくさん……。
「いや、多いし選びづらい……、
ガンロッカーに模した収納ボックスから今回の装備を取り出す。
まずは
この300
亜音速弾はサプレッサーと相性が良く、それでいて
仕組みとしては亜音速で発射されるとソニックブームの衝撃音がなく、音を抑制出来るので減音するということらしい。
そしてこれらに各種アクセサリーを取り付けてカスタムしてある。
後はナイフにマガジンポーチ、ダンプポーチに防弾ベスト、チェストリグ、タクティカルグローブにブーツ。
射撃用イヤーマフに軍用ヘルメット、軍用ゴーグルにニーパッド付カーゴパンツ。
予備のマガジンをチェストリグやポーチに差し込みつつ、取り出しやすいか確認しておく。
最後に防犯ブザーをポケットに数個入れておく。
全部装備してみれば完全に
「すぅー、はぁー。 すぅー、はぁー。 よし! 行くか」
マガジンを外して装弾確認し装填する、コッキングハンドルを引き、薬室に弾を送る。
少しだけコッキングハンドルを引いて薬室内に弾がちゃんと装填されているか確認。
セーフティをかけてから
「確認終了っと。うん、さすがはプレイヤーキャラだね、動作に淀みがない。これなら戦闘も安心できるかな」
窓は全部カーテンを閉めてゾンビから視線を通さないようにしているので、玄関ドアの小窓から外を伺う。音も声もしないので近くにはいなさそうである。
「あっ、ポチはお留守番しててね。すぐ帰ってくるから」
お座りして見つめてくるポチの頭を撫でて言い含めておく。かすかに悲しい鳴き声を出したが納得してくれたようだ。少し下がって伏せをしている。
油断せずスリングをかけ、ライフルを右手で構え、電動スイッチでドアを開けてゆっくり慎重に階段を降りていく。
自分の心臓の音と呼吸音がとてもうるさく感じる。道路に降りたらすぐに左右を確認。声に出さず頭の中でクリアと呟く。
何か変な臭いが鼻を衝いてくるが、眉をしかめつつも動きは止めない。
玄関ドアをロックしつつ、双眼鏡で確認した一番近いゾンビの頭に照準を合わせ、セーフティを解除、トリガーに指を掛ける。
「すぅ、はぁー。すぅー、っ!」
息を止め、トリガーを引く。プシュっと空気が抜けるような音とともに弾丸は発射され、あっけなくゾンビの頭を撃ち抜いた。
「っ!? ふぅぅ……」
倒れたゾンビに近寄ってくる他のゾンビはいないようだ。
懸念材料だった銃声も、ゲーム仕様のサプレッサーのお陰で平気そうである。
ゾンビとはいえ人を害することで自分の精神が心配だったが、意外にも平静なことに安心を覚えると同時に自分であって自分じゃない違和感が恐ろしくもある。覚悟を決めたからなのか、先ほどまでの精神的ストレスは何だったのか。
まあ、ここでパニック状態になっても困るので今は棚上げしておく。
「このまま、邪魔になりそうなとこだけ排除していくか」
射線の通るゾンビを中心に黙々と撃つ。足元に空薬莢が落ち、乾いた金属音を奏でていく。銃の作動音が響く中で数をこなしていくと、段々と緊張感を無くし作業になってくる。狙って撃つ、狙って撃つ、そしてマガジンの交換の繰り返し。
そうして空になったマガジンを幾度目かの交換していた時に事は起きた。
「うぁあああぁ……」
所々スーツが破れている男性ゾンビがゆっくりと近づいてきていたのだ。
まだ5~6m程の距離があるが何故気づかなかったのか、音や臭いでわからなかったのか、そんな風に思考は動いているが体が驚きで完全に固まっていた。
まだ30代ぐらいであろう男性ゾンビは、口元や歯を血液と肉片で真っ赤に汚しながらこちらに手を伸ばして迫ってくる。5m……、4m……、3.5m……。
「クッソがぁぁっ! 」
無理やり声を出し、どうにか恐慌状態の体を動かす。
空のライフルを放しながら
碌に照準も合わせないまま、連射する。弾が逸れたり胴体に当たったりで近づいて来ていたが、撃ち切る前に頭に当たりどうにか倒れてくれた。
「はあ、はあ、はあ、はあ……」
震える手で
声に反応したゾンビもいないようだがハンドガンをホルスターに戻し、急いでロックを解除し、中に入ってドアを閉めた。
そして階段を駆け上がって、やっと人心地ついたのだった。
ゾンビもの(仮) @MoreTabasco
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