第52話 宇宙の意思とダンジョンマスター
『その……。王子の、どこを好きになったんですか?』
モニターそっちのけで、ケータにかぶりついておった我じゃったが、気になる問いかけが聞こえて来て、意識の半分をモニターへ向けた。
少しはまともな恋愛めいた展開になってきおった。
魚児童に釘付けだったケータも、女勇者と姫の会話に耳を澄ませておる。
少しは女児同士の恋愛話にも興味が出てきたのじゃろうか?
んん、単に半魚人は相手のどこを好きになるのか気になっただけかもしれんのぅ。
じゃが、これはいい機会じゃ。
今のままのケータも、もちろん我好みなのじゃが、もう少し色恋沙汰に興味を示してくれてもよいからの。
我のことを、そういう対象として意識してもらうために♡
うむ、これもケータの情操教育じゃ♡。
魚児童の映像を、女勇者と半魚人の姫の二人に切り替えるとしようかの。
少々引きで、二人の様子が分かるように、と。
で、女勇者のアップの方は……近すぎるから、少し離すか。
となると、二人が映っている方は、半魚姫の顔がよく映るアングルで……と。
これで、よし。
有能な我は、ここまでを超高速で終わらせ、ワクワクと姫の返事を待つことにした。
これはこれで、ケータと恋愛映画を観ているようで、悪くないの♡
『顔です』
じゃが、姫は恋愛映画のヒロインとしては微妙すぎる答えを簡潔に述べた。
頬に手を当てて俯き、雰囲気だけは恋愛映画なのじゃが。
青い光が揺れる透明な空間が、桃色に染まったような気すらしてくるが、そこか?
そこが、一番の好きポイントなのか?
ま、まあ、顔の好みというものは、確かにあるからの。
大事なことじゃとは思う。
思うが、これまで積み上げてきた、重めの展開をたった一言でぶち壊してはおらぬか?
…………いや、そう言えば、王子にはロリコン疑惑が発生しておったな。
それを思えば、妥当な展開か……。
まあ、少しコミカルにドタバタしたほうが、ケータには面白いかもしれんな……。
期待通りにはいかないようじゃが、ケータが楽しめるのならば、よしとしようかの……。
コミカル展開を裏付けるように、モニター内では女勇者と半魚姫が『王子の取柄は顔だけ』疑惑を裏付けるようなやり取りを繰り広げておった。
女勇者は、その答えに納得がいかなかったのか「顔以外に好きなところはないのか」と尋ねておったが、返ってきたのは「顔だけです」というある意味潔いものじゃった。
幼馴染だと言うておったのに、好きなところは顔だけというのも、確かにアレじゃしのぅ。
じゃが、我としては、半魚姫の男児の好みよりも、ケータの反応の方が気になるのぅ♡
男の価値は顔だけだなどと聞いて、ケータが半魚姫に幻滅するようなら、我としてはラッキーというものじゃ♡
「へーえ。半魚王子はイケメンなのか。どんな半魚人なんだろうな? シュッとしててムキムキで、槍の達人だったりするのかな? 楽しみだな!」
「は?…………はい! 楽しみですね!」
…………ケータよ……。
そこか? そこなのか?
まさか、半魚姫の「顔だけにしか興味がない」発言をまるっとスルーして、幼子のように半魚王子の登場を心待ちにしておるとは……。
うむ♡ そんなところが、好きじゃ♡
おまけに、そのような眩しい笑顔を向けられては、全面同意の上に笑顔を返すしかないではないか♡
「お! 次は、王子のところへ行くみたいだぞ! でも、マギョってなんだ?」
「え? マギョ……? あ、ああ! きっと、アレです。 秘薬と言えば魔女ですし、マギョとは、つまり魔女の魚バージョンではないかと……」
「ああ! マギョって、魔女の『魔』に『魚』で、『魔魚』ってことか!」
「は、はい! きっと、そうだと思います」
あ、危ないところじゃった。
笑顔が眩しすぎて、女勇者たちのやり取りを聞き逃しておったわい。
危うくケータに幻滅されるところじゃった。
ギリギリセーフじゃの。
うむ。適当に答えたじゃけじゃが、マギョとは魔魚で間違いないじゃろう。
「なるほどなー。よく分かったな、リリィ! リリィは頭がいいんだなー」
「い、いえ……そんな…………♡」
むひょう♡
ケ、ケケ、ケータに褒められてしまったのじゃ~♡
しかも、笑顔つき♡
「次は半魚人の王子かー。どんな奴なんだろうなー? 楽しみだな~」
「…………は、はい。楽しみですね」
じゃが、有頂天でいられたのは一瞬じゃった。
ケータの興味は、早くも半魚王子に移ってしまった……。
よほど楽しみとみえる。
むぐん。
このイベントが終わっても、ケータの恋愛経験値は上がりそうもないのう……。
まあ、そんなところが、ケータのいいところでもあるのじゃが。
しかし、次はいよいよロミオット王子の出番か……。
一体、どんな奴が出てくることやら。
我が用意していたロミオット王子じゃとしたら、残念ながらケータが期待しているのとは違う王子なんじゃが。
とはいえ、ジュリオのこともあるしのぅ。
この目で確認するまで、何とも言えないのぅ。
というかじゃ。
我はダンジョンマスターなのじゃから、イベントの進行を待たずに先に確認すればよいいのじゃが。
本来ならばその程度、お手の物のはずなのじゃが。
なんか、さっきから女勇者の周辺以外の映像と音声しか拾えんのよのぅ。
どういうことなんじゃ?
ここは、我が造った、我の地下迷宮じゃぞ?
……………………はっ、もしや!?
せっかくケータが隣にいるのじゃから、ダンジョンマスターを引退し、普通の乙女としてケータと二人でこのイベントを楽しみ二人の仲を深めよ、という宇宙の意思か何かか!?
………………うむ。
きっと、そうに違いないのじゃ♡
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