第50話 改変シナリオ? かまわないのじゃ!

 青く透明な光が揺れる音楽室を、モニターは映していた。

 片方には、鍵盤椅子と机で無邪気に遊んでいる魚児童たち。

 もう片方には、見つめ合う女勇者と半魚姫。


 女勇者と半魚姫の恋の始まりを予感させるようなアングルを狙ったのじゃが、ケータの興味は、魚児童たちへと戻っていた。

 鍵盤の上を飛び跳ねる魚児童に合わせて、ケータの視線も上に下にと忙しい。

 うむ。まあ、それはそれでよし。

 むしろ、ケータはそのまま、魚児童たちに夢中になっているがよい。


 ケータに鼻の下を伸ばす余裕もなく、改変シナリオは進行していった。

 どうやら、半魚姫は勇者に秘薬を手に入れてくるよう求めているようじゃ。

 半魚姫は勿体ぶって、なかなか秘薬の名前を明かさないが、普通に考えて惚れ薬のことじゃろうな。

 秘薬を作れる何某かへ会いに行き、材料を集めて来いと言われるのじゃろう。

 その過程で、王子に会ったり、学校中をあちこち彷徨ったり、材料入手のために強敵モンスターを倒したりといったイベントが起こる、と。

 定番中の定番じゃが、ちゃんとそれっぽいイベントになっているようで、まあ、安心したわい。


 しかし、惚れ薬か。

 我とて魔女。

 当然、惚れ薬くらい作れるのじゃ。

 それを使って、相手を意のままにすることに、どうこう言うつもりはない。

 じゃが、それを使ってのハッピーエンドをケータに見せるとなると、また話が別じゃ。

 さて、ケータはどんな反応を見せるじゃろうか?

 深く考えずに、何も気にせんかもしれんのう。

 それとも、さすがに嫌悪を抱くじゃろうか?

 それは、マズイ……いや、待てよ?

 それならそれで、やりようはあるの。

 女勇者がこれもイベントと割り切って、惚れ薬入手に奔走するようなら、なお好都合。

 むふ。それに乗じて、うまいこと女勇者への好感度を下げることが出来るかもしれん。

 半魚姫への好感度も、当然ダダ下がりするじゃろうし、我としては笑いが止まらん展開じゃの。


 心中ニンマリな我じゃったが、事態は思わぬほうに転がった。

 半魚姫が欲した秘薬。

 それは、惚れ薬ではなかったのじゃ。


『若返ったり元に戻ったりすることが自由にできるようになる秘薬』


 それが、半魚姫が女勇者に求めたものじゃった。

 女勇者としても、予想に反した要求じゃったのじゃろう。

 間抜け面を晒して、間抜けなやり取りを繰り返しておる。


 ケータよ!

 今じゃ、ほれ!

 女勇者の間抜け面を、とくと見るのじゃ!

 そして、心底幻滅するのじゃ!

 じゃが、ケータは恋愛話にはとことん興味がないようで、魚児童しか目に入っておらんようじゃ。

 仕方ない。声をかけてみるとしようかの。

 我のことも忘れているようで、ちと面白くないしの。

 ついでに、女勇者の間抜け面をアップで映してやれ。

 うむ。よし。

 百年の恋も醒める、見事な間抜け面じゃ。

 そして、やはりじゃ。

 モニター管理は、まだ我の手中にあるようじゃの。

 イベント進行は、もう完全に我の手を離れて、勝手に進んでおるが……。

 うーむ。ケータに現を抜かしてばかりいないで、そろそろ真面目に検証してみるべきだろうか。

 じゃが、今はせっかくの好機じゃからな。

 まずは、ケータの好感度操作じゃ。


「ケータ、聞きましたか? 半魚姫は、若返ったり元に戻ったりが自由に出来るようになる秘薬が欲しいみたいですよ?」

「へ? 若返る秘薬? ハンギョリーナは、実はおばあちゃんだったのか? それで、王子は若い妹の方を好きになっちまったのか? んー? でも、そうなると、王子もおじいちゃんなんだよな?」

「え? いえ、おばあちゃんでは、ないような? 女勇者リンカと、そう変わらない年だと思いますよ?」

「そうなのか? じゃあ、なんでだ? 王子は、ロリコンなのか?」

「そう……なんでしょうか?」


 おおう。ケータよ。

 思ったのと違う反応が返ってきたぞよ?

 しかも、我が注目してほしかったのはモニターに大写しの女勇者の間抜け面の方で、話の内容は、とりあえずどうでもいいのじゃが?

 というか、興味ないようでいて、意外とちゃんと話は聞いていたのじゃな?

 我、少々驚いたぞよ?


「んー、でも、あれだな。若返ったり、元に戻ったりもしたいんだよな? 王子がただのロリコンなら、若返りの薬がいくつもあって、何度も若返れるとか、永遠に若いままでいられる薬とかの方が、役に立ちそうだよな? なんで、元に戻る必要があるんだ?」

「ケータ、すごいです。見事な考察です」

「ん? そうか?」

「はい!」


 うむうむ。

 ロミオとジュリエットも知らないケータが、こんなに鋭い意見を述べようとは。

 見直したぞ、ケータよ。

 ああ。これまで以上に、ケータが輝いて見えるのう。

 ううん。褒められて、照れている顔も可愛いのう。

 可愛くて、鋭いなんて、最高じゃ!

 さすが、我のケータ。

 惚れ直したぞ♡


 改変シナリオが誰の仕業かは分からんが。

 実に良い仕事をしてくれた。

 褒めて遣わすぞ♡

 むふ♡ むふ♡ むふ♡


 こうなったら、あれじゃ。

 ケータと二人、改変されたシナリオを楽しみつつ、親睦を深めるとしようかの♡

 誰の仕業でも構わん。

 ケータさえ手に入れば、それでいいのじゃからの♡



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