第49話 半漁姫と秘薬
映画やドラマなんかで観ている分には、定番すぎて「ふーん」で流してしまうくらいにありきたりな展開だけど。
ガチで相談を受けるには、重すぎた。
恋愛経験値が低めの中二女子には、荷が重い。重すぎる。
てゆーか、これもう、普通に人生相談も兼ねた恋愛相談じゃない?
地下迷宮の只中で、勇者が解決しなくちゃならない問題と違くない?
王子に惚れ薬を飲ませるくらいしか、解決策が思いつかないんですけど?
などと、衝撃展開に動揺するわたしでしたが、一度始まったイベントはスルスルと勝手に進んで行くものらしく、ハンギョリーナ姫は厚かましくもスピーディーにとある要求をしてきた。
「勇者様。ここで出会ったのも、きっと、何かのご縁なのでしょう。実は、勇者様にお願いしたいことがあるのです」
「…………は、はい。何でしょう?」
う、うん?
てっきり、問題を解決するための策を求められているのかと思ったけれど、そういう感じじゃないみたいだね?
しかも、なかなかわたしの存在に気付かなかったくせに、わたしが勇者と分かったとたんに、トントンとそっちのペースで話が進んで行くんだね?
まるで、台本通りみたいに。
まあ、台本通りってことなんだろうね。
その台本を書いたのは、もちろん魔女だろう。他にいないし。
ま、誰が書いた台本にしろ、乗っかるしかないんだけどさ。
圭太君を救うため、次へと進むためにはね。
そんなわけで。
一瞬戸惑いはしたものの、わたしは素直に先を促した。
合いの手とか入れなくても、勝手に話は進んで行くような気はしたけれど。ま、一応。
「ずっと、迷っていたのですが、心を決めました。…………勇者様には、ある秘薬を手に入れて来て欲しいのです」
「ある秘薬……」
ある秘薬って、やっぱり惚れ薬?
うーん。しかし、なるほど。
地下迷宮において勇者に求められることとは、問題の解決策を提示することではなく、お使いクエストをこなすことだったか。
なるほど、なるほど。
うん。わたし自身はゲームはやらないけれど、うちには、ゲーム大好き人間の父さんがいるからね。
お使いクエストなるものの存在は知っているよ?
嫌がる人も多いけど、うちの父さんは、大好きらしい。
おそらくだけど、秘薬を手に入れるために、地下迷宮の舞台である海底学校を駆けずり回って、強敵を倒すことを要求されたりするんだろう。
面倒ではあるけれど、これはこれで話が早い。
惚れ薬に頼るとか卑怯くさくはあるけれど、ハンギョリーナ姫がそれでよしとするなら、異論を挟むつもりはない。
わたしの目的は、圭太君を救出することなんだし、惚れ薬一つでサクッと解決できて次のフロアへ進めるなら、それに越したことはない。
スピーディーな展開は、むしろありがたいってもんよ。
ええ、はい。もちろん、流れに乗らせてもらいます。
「その秘薬とは……」
「秘薬とは?」
もったいぶるなぁ。
惚れ薬って、言いにくいのかな?
大丈夫、分かってるから!
断ったりも、しないから!
ほら、言ってみて!
カモン!
とゆー、心の呼びかけもむなしく。
ハンギョリーナ姫は、わたしから視線を逸らした。
鍵盤の椅子と机で戯れている手足魚の子供たちを見ているようだ。
昔を懐かしんでいるのかな?
あの頃に戻りたいとか、言ってたもんね。
子供の頃は、両想いだったって言ってたもんね。
幸せなあの頃を思い出しているんだろう。
純粋にイベントを楽しみたい人には、盛り上げるために必要なんだろうけれど。
それは、分かるけれど。
出来れば、早く先へ進めて欲しいプリーズ。
そんなわたしの願いが届いたわけではなく、たぶん台本通りの進行なんだろう。
ハンギョリーナ姫が、再びわたしを見つめてきた。
強い決意を秘めた眼差し。
わたしの方も、すでに決意は固め済みだ。
だから、焦らさずサクッと秘薬の名前と何処に行けばいいのかを教えて欲しい。
姫がゆっくりとたらこっぽい口を開いた。
中に小さいギザギザの歯がいっぱい見える。
さっと視線を逸らして続きを待った。
「勇者様には、若返ったり元に戻ったりすることが自由にできるようになる秘薬を、手に入れて来て欲しいのです」
「は? 若返ったり元に戻ったりすることが、自由にできるようになる秘薬……?」
「はい。若返ったり元に戻ったりすることが自由にできるようになる秘薬です」
う、うん?
どういうことかな?
「ええ、と。その秘薬は、誰が飲むんですか?」
「わたくしが飲みます」
「姫が飲むんですか?」
「はい。わたくしが飲みます」
「自由に若返ったり、元に戻ったりするために?」
「はい。自由に若返ったり、元に戻ったりするために、わたくしが飲みます」
馬鹿みたいにオウム返しのラリーが続く。
もしかしたら台本なんて、ないのかもしれない。
いや、え? どういうこと?
えーと?
もしかして、あの日に戻るために?
王子が好きだったあの頃の自分に戻って、あの頃の気持ちを思い出してもらおうとか?
いや。そんなにうまくいく?
は、半魚人の考えることは、分からない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます