第34話 悪くないシナリオ
『ミルキーウェイ!!』
それは、七夕杖の特殊効果として付与した、一度きりしか使えない特別な魔法じゃった。
七夕杖は、手に入れた時点では、魔力を底上げしてくれる高性能武器じゃ。
その性能と引き換えに、一度だけ放つことが出来る無属性魔法。
無属性じゃから、どんな魔法耐性持ちの敵にも効果があるし、実を言えばじゃ。魔法そのものに耐性がある敵にも効果があるようにしてあるのじゃ。
フロアボスなど、一撃必殺に出来るほどの高威力無属性魔法。
ラスボスにすら、戦況をひっくり返せるほどの大ダメージを与えることが出来る。
一度きりしか使えない、特殊魔法。
それが、無属性魔法ミルキーウェイなのじゃ。
こんな風に、ちょっと試してみるか的に使う魔法ではないのじゃ。
もっと、こう。
万策尽きた絶体絶命のピンチの時に、起死回生の秘策として使うべきものなのじゃ!
次のフロアまで進んで、性能に物足りさを感じて来てからなら、まだともかく!
手に入れたばかりのフロアで、お気軽に使うべきものではないのじゃ!
それを、この女勇者ときたら!
手に入れたら特大ラッキーな、レア武器。
強敵・鳥居熊を倒したらもらえるレア武器、七夕杖。
レアもレア!
レア中のレアじゃ!
なのに、なのにじゃ!
鳥居熊のレアな鮭をウェルダンにしただけで、あっさりレアな武器を手に入れ挙句に、さしてありがたみもなく使いおって!
「おおー! なんか、出てきた! 星……いや、金平糖か? 金平糖の川がロボに向かって流れていく! あ! あれは、そうか! 七夕だから、天の川か!」
「は、はははは、はい! 七夕杖の限定特殊魔法だけあって、ロマンティックですね!」
い、いかん、いかん。
女勇者の反応など、どうでもいいわい。
大事なのは、ケータの反応じゃ♡
鳥居熊は対女勇者用に、ケータの意見も反映しつつ造り出したモンスターじゃが、七夕杖自体は、ケータの冒険の時にも用意しておった。じゃが、ケータも勇者ではあったが、剣メインで戦っておったし、そもそも七夕杖ゲットのイベントはスルーしてしまったからのぅ。
七夕杖の存在を知ったのも、これが初めてじゃし、当然、無属性魔法ミルキーウェイを見るのも初めてなのじゃ。
うむ。これはこれで、正解じゃの♡
ケータに使わせるよりも、誰かが使っているところを二人並んで鑑賞する方が、なんというか、こう。
デートっぽいの♡
うむ。でかしたぞ、女勇者。褒めて遣わす!
「あ? でも、全っ然、効いてないみたいだぞ? 本物の金平糖をぶつけてるだけみたいだ。全部、はじき返されてる」
「はい。でも、足止めには、なっているようです。見てください。合体ロボを操るマスターロボの口の中に金平糖が詰まっています。喋れないので、合体ロボへの指示も出せないようです」
「ほんとだ! ロボなのに、金平糖を詰まらせてもがいてるぞ! あいつ、本当にポンコツなんだなぁ」
「でも、これで、女勇者の勝機が見えてきましたね!」
「そうか! この隙に、別の魔法を放てば!」
うーむ。会話はロマンティックとは、程遠い感じじゃが。
まあ、ケータじゃしの。
会話が弾んでいるだけで、十分というものじゃな!
二人で並んで、映画の干渉をしているようで、実に楽しいのぅ。
左モニターに少し引きで映っておる女勇者は、『ミルキーウェイ』に不満そうな顔をしておるな。
見た目は華やかじゃが、威力はしょぼいからのぅ。
しかし、じゃ。もう少し、天の川を楽しんでも、よいのではないか?
ゆっくり鑑賞できるように、ちゃんと足止めの効果をつけてあるというのに。
ケータなぞ、一回だけの特殊魔法という設定のことなぞ、コロッと忘れて天の川を楽しんでおるというのに!
女勇者には、可愛げというものが足りん。
そのくせ、たまにケータの心をくすぐってくるから始末に負えんのじゃ。
まあ、よい。
本番は、ここからじゃ。
もちろん、足止め程度で終わらせはせんわい。
しばらく、天の川鑑賞を楽しんだ後に真打の登場じゃ。
七夕じゃからの。
当然、織姫と彦星のイベントを用意しておる。
天の川の両端に現れた二人が、天の川の中央で手を取り合い、二人で協力して、愛の合体魔法を放つのじゃ。
フロアボス程度なら、一撃じゃ。
放たれたハートのビームを受けたモンスターは、小さなハートになって崩れていき、そのまま散っていってしまうのじゃ。
まだまだ、わんぱく一杯のケータには、ちと物足りないイベントかもしれんが、そうは言っても、ケータもお年頃はお年頃じゃ。
これを切っ掛けに隣にいる我のことを、もっと、意識してくれてもいいのじゃぞ?
「すげえ! 織姫と彦星が現れたぞ! 一体、どうなるんだ!?」
「そうです……ね?」
は?
いや、ケータ?
あれは、織姫と彦星、違うと思うぞ?
何処からどう見ても、あれは。
お内裏様とお雛様ではなかろうか?
一体、全体。何がどうして、こうなったのじゃ?
ま、まあ。ケータがあれを、織姫と彦星だと認識しておるなら、それでいいのじゃが。
いや、いいのか……?
ケータはワクワクしておるようじゃが。
我は、ハラハラしておった。
我の予定通りには、いかないのではないか?
――という予感がするのじゃ。
案の定じゃ。
織姫と彦星は、天の川の真ん中で熱く抱擁し合った。
それは、まあいい。
その後、手に手を取り合ったのも、いい演出じゃと思う。
じゃが、なんで。
二人でそのまま、合体ロボへ向かって行くのじゃ?
ラブ・ビームはどうしたのじゃ?
二人のラブ・ビームで、邪気の集まりであるモンスターをハートに変化させて拡散させる。
つまり、愛の力で邪気を払うだけではなく、邪気から新たなる愛を生み出し世界に拡散させるという一大イベントのつもりだったのじゃが?
ほ?
手に手を取り合ったまま、合体ロボと合体しおった?
「うお! 眩しい!」
うむ。発光しておるの。
お約束と言えば、お約束じゃの。
して?
して、どうなるのじゃ?
「でっかいハートが出来たぞ!?」
「そうですね……」
テンション高めのケータの声に、底辺を這う我の声が続く。
返事が出来ただけでも、褒めて欲しいのじゃ。
ま、まあ。
これは、これで。
大本のコンセプトから、そんなに外れてはおらぬのじゃが。
それは、それとして。
どうして、こうなったのじゃ?
特にエラーが起きたという気配はないのに、なぜこうなったのじゃ?
何の力が働いたのじゃ?
何かが、おかしい。
これは、女勇者のせいなのか?
それとも、邪気が変な風に作用しておるのか?
「ミルキーウェイ、すごい魔法だったんだな!」
「そうですね……」
ケータの喜ぶ声が聞こえてくる。
これまでなら。
それだけで、気分も浮上したものじゃが。
こうも不測の事態が続いては、浮かれてばかりいるわけにもいかん。
「あ。雪ウサギだ」
「え? ほ、本当です、ね?」
「うお! 雪ウサギが消えて、代わりに次の階層への階段が現れた!」
「は、はい。次は、どうなるんでしょうね?」
「な! 楽しみだな!」
ケータが、眩い笑顔を我に向けてくれた。
ドキリ、と乙女のように胸を高鳴らせつつも、芽生えてしまったモヤモヤは消えない。
代わりに、我の内に芽生えたモヤモヤを吹き飛ばしてくれたのは。
『つまり、これは。雪ウサギのお導き! わたしは、祝福されている! 勝てる!』
モニターから聞こえてきた、女勇者の雄叫びだった。
何か今、物凄く。
喧嘩を売られた気分になったのじゃ。
おまけに、ついさっき我に微笑みかけてくれたばかりのケータは、さっそくモニターに吸い寄せられておる。
モヤモヤは、メラメラに変わった。
きっと、あれは、それじゃ。
接待せねばという我のダンジョンマスターとしての矜持と、女勇者を真の敵とみなして本気で撃退したいという我の乙女心。
両者の葛藤が生み出した、そう、云わば!
我の乙女の叫びだったのじゃ!
ダンジョンマスターとしての接遇の心を捨てて、本気で女勇者に挑むべき時が来たのかもしれん。
よし。決めたのじゃ。
次のフロアは、溶岩洞窟にする予定じゃったが、やめじゃ。
まだテストもしておらん、試作段階のアレを急遽用意するとしよう。
当然、一度地下迷宮クリア済みのケータも全く知らぬフロアじゃ。
ちなみに、そう決めたのは、じゃ。
ケータを飽きさせないため、ではない。
ケータに、自分で冒険してみたい、と思わせるためじゃ。
初心を忘れてはならぬ。
我の真の目的は、ケータを伴侶という名の使い魔とすることじゃ。
そのために、邪魔なものは排除する。
我とて、長い時を生きてきた魔女じゃ。
メラメラに鼓舞されて、心慰める説明に落ち着いたとはいえ、じゃ。
ちゃんと、分かっておる。
女勇者こそが、ダンジョン改変の実行犯かもしれんことには、の。
じゃが、だとしたら。おそらくは、無自覚。
そしてじゃ。それならそれで、完全覚醒する前に地下迷宮から放り出してしまえばいいまでのことよ。
乙女的にも魔女的にも。
女勇者は我の邪魔となる存在なのじゃ。
だったら、排除してしまえばいい。
とはいえ、ケータの手前じゃ。
それなりの筋は、通さねばならぬ。
次のフロアで、女勇者には手痛い敗北を味わってもらうとしようかの。
序盤のモンスターに、敢え無く敗北する女勇者。
力を振り絞って、女勇者を地下迷宮の外へ逃がす我。
その後は。
我とケータの二人で、女勇者の後を引き継ぐのじゃ。
姫ケ丘の、いや、もう世界のためにという設定にしておこうかの。
世界のために、女勇者の遺志を引き継いで、新たなる地下迷宮への攻略へ乗り出す勇者と浄化の乙女。
応援してきた女勇者の敗北があるからこそ、仇を討つという意味でも、ケータはこの提案を断らないじゃろう。いや、我が提案するまでもなく、ケータの方から、そうしようと言い出す可能性も高い。
うむ。
悪くないシナリオじゃの。
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