第33話 ミルキーウェイ

「ミルキーウェイ!!」


 雪玉大砲の攻撃が止んだその隙に。

 雪の城壁の上に顔出しして放った、七夕杖にオプションでついていた、一回こっきりの限定魔法。

 さて。

 その威力は、どんなものなのか?

 お手並み拝見と行きましょうか?


 ちょっぴりワクワクしながら見守る七夕杖の先から。

 なんかミルキーな感じに光っている金平糖みたいなのが、ガラクタロボットに向かって飛び出していく。

 通常サイズの金平糖から始まって、最大サイズはリンゴくらいと、各種、取り揃っている。

 色はほとんどが乳白色。たまーに、赤っぽいの。おそうめんの中に交じっている色つきのヤツくらいの割合で。


 あー…………。うん。

 天の川を意識しているのかな?

 まあ、七夕飾りの笹をミニチュアサイズにしたみたいな杖だし、ね?

 金平糖の天の川とか、さ。

 イベントとしては、悪くないかもだけど、さ。

 これ、一回しか使えない限定攻撃魔法としては、かなりしょぼくない?


 威力も、普通に金平糖並みなんですけど?

 ガラクタ系とはいえ、ロボットはロボット。

 金平糖乱舞なんて、カンカンカン、って感じで弾かれちゃってるんですけど?

 なんだよ。期待外れだな。

 次の攻撃が来る前に、氷魔法、いっとくか。

 巨大なプリンアイスに、生クリームとチェリーもサービスしちゃうよー?


「ガ、ガ、ガガガガガ…………」


 ん? 待てよ?

 なんか、ロボットの様子が変だな?

 ガラクタ合体ロボットじゃなくて、その頭の上に乗っている(見た目的には、載っている、の方がしっくりくるけど)こたつロボットの方。

 両肩の大砲の動きを気にしつつも、チラリとこたつロボへも視線を走らせる。と。


 あ。なるほど。

 地味に効果が。

 こたつロボットの四角いお口の中に、金平糖が詰め込まれて、喋れなくなっているみたいだね。

 体全体も、いかにも錆びついています、みたいなぎこちない動きで、なんか頑張って、両手をギシギシわきわきと動かしている。喉が詰まって、もがいている、みたいな動き。

 体の方に当たっている金平糖は、たいしてダメージになっていないのに。

 たまに、りんごサイズのが当たっても、金平糖の方が、衝撃で砕けてちゃっているし。

 いや。ロボットなのに、喉が詰まってもがくって、どんだけポンコツなの?

 てゆーか、さ。

 天の川の金平糖、尽きる気配がないんだけど?

 いつ、終わるの、これ?


 現状。

 一度しか使えない限定魔法、なんて期待を煽る謳い文句の割には。

ただの足止めにしか、なっていなんだけれど?

 この後。

 決定打になるような、何かが起こった…………り……!?


 き、来た!!

 何かが、現れた!!


 あ、天の川の両脇に、着物を着た男女が!!

 天の川の両サイドに、突然!!

 み、右に男! 左に女!

 いや、七夕だし天の川なんだから、普通に考えたら彦星と織姫なんだろうけれど!!

 なんか!

 なんか、違う!!

 髪形とか衣装のイメージが、彦星と織姫っぽくない!

 なんだろう? 着物が豪華で、雅な感じがして!

 これ、わたし、知ってる。

 見たこと、ある。

 こっちはこっちで、一年に一度のイベントだけれど。

 でも、七夕と違う。

 織姫と彦星、違う。


 これ、あれだ!

 この衣装の感じ!

 お内裏様とお雛様じゃん!!


 なぜ、いきなり、七夕祭りにひな祭りをぶち込んでくる!?

 意味が分からん!


 呆然としているわたしを置いてきぼりにして、二人は天の川の中を進んで行く。

 金平糖の流れなんて、ものともしない……っていうか、金平糖が二人の体をすり抜けている?


 え? お二人は、霊体でいらっしゃる?


 そんな、霊体っぽいお二人は、天の川の真ん中で、ひしと抱き合う。

 それはもう。一年ぶりに、ようやく会えましたみたいな熱烈ぶりで。

 それから、二人は。

 手と手を取り合って、ガラクタ合体ロボットへと向かって行く。

 あの二人。わたしのことは、一切、気にかけなかったな。

 一応、わたしが呼び出した、ってことになると思うんだけど。

 いや、いいんだけど。別に。

 えー、それで?

 すり抜けちゃう霊的な体で、何をどうするつもりなんだ?

 これは、一体、どういう魔法なんだ?

 魔女は一体、何を考えて、こんな魔法を?


 わたしの中には、疑問しかないのですが。お内裏様とお雛様のお二人は、迷いのない足取りで、ガラクタ合体ロボットへと進んで行く。

 霊的な体は、ロボットをすり抜けて、いや、抜けてない!

 重なり合っている!?

 つまり、霊と機械の融合!?

 新しい合体の形!?


 あ、ああ!

 霊的合体ロボットが、眩い光を放ち始めた!

 ま、眩しい!

 暗闇で突然、大きめの懐中電灯を向けられたみたい。

 たまらず、顔を背けて、目を閉じる。

 数秒、置いて。

 杖と枝を持ったままの両手を、顔の前でクロスして、少しずつ、目を開けてみる。

 光は、治まったみたいだった。


「こ、これが、合体の最終形態…………」


 危機が去ったからなのか、なんなのか。雪の城壁は姿を消していた。

 両手をだらんと降ろして、見つめる先には。


 恋蛍光ピンクの、でっかいハートのオブジェがあった。


 合体後のロボットと、同じサイズのハートのオブジェ。

 二階建ての家くらい高さがある、でっかいハートのオブジェ。

 雪の森の新たな観光名所。


 そして。

 ハートのオブジェの足元には、見失ったはずの恋の雪ウサギが、ちょこんとわたしを見上げていた。

 目が合う。

 頷いてくれた、気がした。

 駆け寄ろう、としたのだけれど、その前に。


 雪ウサギの体が、消えたり現れたりし始めた。

 まるで、成仏しかけている幽霊みたいに。


「待って!」


 伸ばした手の先で、恋の雪ウサギは、完全に姿を消した。

 それと同時に。

 雪ウサギがちょこんとしていた辺りの雪も、消えた。

 ハートのオブジェクトの手前に、ぽっかりと開いた四角い穴。


 穴の中には、下の階へと続く階段があった。


「つまり、これは。雪ウサギのお導き! わたしは、祝福されている! 勝てる!」


 そう!

 間違いない!

 わたしの恋は、祝福されているんだ!


 きっと、恋の雪ウサギに出会ってからの一連のイベントは、雪ウサギからわたしへの、恋の応援メッセージだったんだ!

 勝てる! 今、確かに、勝機が見えた!


 こんな地下迷宮を造り出せる魔女に、どうやって対抗するのかが、目下の課題だったけれど。

 今、はっきりと光明が見えた!


 わたしと圭太君が出会いさえすれば。

 わたしが圭太君を見つけ出せれば。

 二人の恋の力で、強大な力を持つ魔女にも打ち勝てる!


 このハートのオブジェは、それを教えてくれたんだ!

 それを教えるために、雪ウサギは、わたしをここまで導いてくれたんだ!

 それだけじゃない。

 次のステージへの階段は、きっと。

 わたしの恋を応援する、雪ウサギからの贈り物。

 このろくでもない雪のフロアで、一番素敵な贈り物だよ。


 ありがとう。雪ウサギ。

 あなたが、わたしの恋の道を切り開いてくれた。

 あなたとは、ここでお別れだけれど。

 あなたから教えてもらったこと、あなたからの贈り物。

 きっと、無駄にしないから!


 胸に手を当てて、心の中で精一杯の感謝を告げると、わたしは。

 ためらうことなく、階段へと足を進める。


 見ていてね、雪ウサギ。

 わたしは、きっと。

 この恋を、掴み取ってみせるから!

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