第32話 地下迷宮荒らし

 なんじゃ?

 どういうことじゃ?

 なんで、あやつは。

 あんなことが出来るんじゃ?


 驚愕の思いで、モニターを見つめる。

 少し前までは、モニターの中は、平和極まりなかった。我的に。

 平和そのものじゃった。


 モニターは、二つある。

 左のモニターには、女勇者が。

 そして、右のモニターには合体後のロボが映っておった。


 少し前までは、ちょうど、合体ロボの雪鉄砲改め雪大砲に、玉が装填されていくところが映し出されていた。

 ロボの両肩の上にある筒の中に、周囲の雪がどんどん吸い込まれていく。ああして、筒の中で、雪の玉を作っておるのじゃ。

 大きさが大きさじゃからの。合体ロボは、あの場から動けない仕様にしてあった。その代わり、周囲の雪を使って発射する雪大砲は、玉切れ知らずじゃ。雪がある限り、無尽蔵に雪玉を発射することが出来るのじゃ。

 そのことに気付いたのか、どうなのか。

 左モニターにドアップで映し出された女勇者の顔に、焦りが浮かんでおった。

 いい気味じゃった。

 ふははは。安心するがよい。玉は無尽蔵じゃが、威力はビーチボール程度じゃ。まあ、当たれば雪玉が割れて、雪まみれになるのは、避けられぬがのぅ。

 ケータの前で、顔中雪まみれのみっともない姿を晒すがよい!

 むふふー。

 ――――などと、心の頬っぺたを緩ませていられたのは、そこまでじゃった。


『ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ、雪の城壁――――!!』


 女勇者リンカの、切れの良い叫び声がモニターから響いて来たと思ったら、信じられないことが起こったのじゃ。


「す、すっげぇえええええええ!! なんだ、あれ!? なんで、あんなことが出来るんだ!?」

「え、えええええ、ええ! な、ななななな、なんで、あんなことが出来るんでしょうね!?」


 動揺のあまり、ケータに答える声が震えてしまいおった。

 ケータは、モニターに釘付けで、まったく気づいておらんかったようじゃが。

 みっともなく動揺したことを悟られずに済んだのは良かったのじゃが、まるで気づかれないのも寂しくて悔しい、この我のいじらしい乙女心。


「雪っぽいのは、色だけだな。雪色の鉄壁防御シールドって感じじゃね?」

「そうですね。色以外、全然、まったく、雪でありませんけれど。ちょっとやそっとの攻撃では、ビクともしなさそうですね…………。本当に、どうして、あんなことが出来るんでしょう?」


 興奮した様子のケータの声とは対照的に、我の声には、生気がない。最後のセリフは、本心も本心じゃ。呆然自失というヤツじゃ。

 だって、なのじゃ。

 女勇者ときたら、女勇者ときたら!

 我が用意したのとは違う自前の魔法で、ケータの言う通りの鉄壁の防御シールドを展開しおったのじゃ。

 女勇者を守るように張り出された、白い壁。頭上からの攻撃にも対応できるように、上方は、女勇者側に向かって緩いカーブを描いておる。

 雪の城壁とは名ばかりの、未知なる白い金属でできた防御壁。


 本当に、なんで、そんなことが出来るのじゃ!?

 火炎放射器といい、スイーツ魔法といい!

 我の用意した魔法を、軽く上回っているのは、どういうことなのじゃ!?

 もしや、こやつ。

 本当の本当に、本物の女勇者なのか……?

 それとも、地下迷宮荒らし?

 もしくは、地下迷宮破り!?


 ええい!

 そっちが、そのつもりなら、我も本気を出すまでよ!

 威力はビーチボール並み、などと手加減してやる必要はないであろう!

 威力変更――と、意気込んだのはいいが、魔法の発動が間に合わず、発射音が間抜けになってしまった。


「あっはっは! マヌケな音だな! あ、でも、威力は本物だ! けど! 防御シールドも負けていねぇぞ! すげえ、本当にビクともしてねぇ! この勝負、どうなるか分からないぞ!」

「はい! で、でも! ロボの玉は、無尽蔵ですし! このままでは、女勇者は先に進めません!」

「そ、そうか! ど、どうする!? 女勇者リンカ!?」


 くっ!

 傷一つ、ついていないだと!?

 じゃが、守ってばかりでは、先へは進めんぞー?

 どうするつもりじゃ、女勇者よー?

 むっふっふ。ケータは、この展開に手に汗握っているようだし、こうなったら、ケータが飽きるまでは、このまま持久戦じゃ!

 間抜けな発射音も、ケータが喜んでおるから、このまま続行するとしようかの!


「あ! 火炎放射器を放った! どうなる!? ここのフロアボスには、炎魔法は効かなかったけど、こいつはどうなんだ!?」

「駄目です! 効いていません! あ、ロボ自身が、炎系魔法だけは効かないって、宣言していますね」

「あいつ、自分のこと、雪だるまロボって言ってたぞ? 全然、雪だるまじゃないのに」

「そー、そそそ、そうですよね~? ゆ、雪玉を使って攻撃はしていますけれど! あ、雪玉ロボの言い間違えでしょうか!?」

「そういうことか!」

「きっと、そうですよ!」

「ははは! あいつ、ポンコツっぽいから、仕方ないな!」

「そそそ、そうですね!」


 し、しまった。

 中途半端に名前だけ採用してしまったのじゃ~!

 しかも、ケータは自分の考えたロボ名だってことを、忘れておるしぃ~。

 ま、まあ、じゃ。

 ロボのポンコツっぷりに好感を抱いておるようじゃから、うむ。問題なしじゃ。

 結果オーライなのじゃ!


「大丈夫だ、リンカ! おまえにはまだ、スイーツ化魔法があるぞ!」

「はい! 次は、どんなお菓子に変化するのでしょうか? 巨大プリンとか、でしょうか!?」

「いいな! じゃあ、おれは、クリームたっぷりの巨大パンケーキに一票だ!」


 ケータが、女勇者を応援しだした。

 じゃが、構わない。全然、構わない。

 会話が。

 会話が、盛り上がっておるしぃ~♡

 くぅううううう♡

 た♡の♡し♡い♡♡♡

 これが、恋の喜び!

 乙女の喜び!

 我は今、最高に幸せじゃぁ~~~♡


 乙女の幸せに蕩け切っておったら、左モニターに動きがあった。

 女勇者が立ち上がって、七夕杖だけでなく、頭をシールドの上に覗かせたのだ。

 これは、ついに!

 仕掛けるつもりじゃな!


 一体、どんなスイーツ化魔法が繰り出されるのか!?

 ケータと共に、身を乗り出してモニターにかぶりつく。

 じゃが、女勇者の口から放たれた呪文は、予想もしないものじゃった。


『ミルキーウェイ!!』


 な、なんじゃとーーーー!?

 そ、それは、たった一度きりしか使えない特殊魔法じゃぞ!?

 今、ここで!

 惜しげもなく!

 さっそく、使ってしまうのかい!?


 しかも、なんか、あれじゃ!

 ちょっと試してみようか的なノリではないか!?

 お手並み拝見的な顔をしておらぬか!?


 女勇者よ。

 おぬしに言いたいことがある。


 そういう、一度限りの特殊魔法は、じゃ。

 もっと、ちゃんと、こう。

 最後の切り札的に使うのが、冒険者のマナーというものじゃ!

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