第31話 雪の城壁

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ、雪の城壁――――!!」



 合体ロボットによる、雪鉄砲ならぬ雪大砲発射を前にしては、いつも冷静なわたしと言えども、さすがにパニック状態ですってばよ!

 痛い上に、冷たいとか!

 その攻撃は、凶悪すぎる。


 で、まあ。

 パニックのあまり。

 七夕杖を前に突き出して。

 気づけば、なんか叫んでた。

 なんか、咄嗟に口から出てきた。


 叫んじゃってから。

これってナイスな戦法では!? さすが、わたし!

 と、自我自賛。


 や、だって。

 あの雪大砲が、見た目通りの威力だとしたら、絶対に避けるとか、無理だもん!

 雪鉄砲と言っておきながら、雪大砲と見せかけて、じ・つ・は!

 威力はビーチボール並みで、ていーん、ぐらいの攻撃だったら、わたしにもワンチャンあるかもしれない。

 でも、普通にガチで宣言通りの最終兵器だったら、無理だもん!


 だ・け・ど。

 避けるのが、無理なら。

 大砲になんてビクともしない、頑強な壁を造って、攻撃を遮るしかない!

 …………とばかりに。

 心の呼び声に答えるように目の前に出現したのは、白いだけで雪ではないけれど、期待が持てそうな壁だった。

 白くて、ツルツルした金属っぽい素材で出来た壁。なんとなく、近未来チックな質感で、期待が持てる。ガラクタロボットとは、技術力が違うって感じで、期待が持てる。

 真っすぐな壁じゃなくて、わたしを守るように、包むように、若干カーブを描いている。

 これなら、頭上からの攻撃にも対応できるだろう。


 よし! 備えは、バッチリ!

 さあ、来い!


「ふっ。そんな、ナマクラ城壁、木っ端みじんにしてくれる!


 ツルツル白城壁が視界を遮っているので、様子は分からないけれど。

可愛い声なのに、物騒な宣告が聞こえてきた。

 ありったけの念を、城壁に込めて、体を丸めてしゃがみ込む。


 圭太君!

 わたしを、守って!


「発射――――!!!!」


 ぽにょん ぺにょん ぱいーん


 可愛いけれど威勢のいい号令と共に聞こえてきたのは、気の抜ける発射音。

 おいおい、本当にビーチボールかよ。

と、脱力しかけたら。


 ズドッ! ボスッ!!


 と、城壁の向こうに、重い衝撃が!

 城壁を越えて、背後に落ちていく雪玉も、重量感のある着地を披露してくれている。

 なんで、発射音はビーチボールなのに、衝突音はボーリングの玉級なのよ!

 しゃがんだまま、チラッと後ろを振り返ってみたら、まんまボーリングの玉級の大きさの雪玉が転がっている。

 絶対に、中にボーリングの玉を仕込んであるでしょ!?

 せめて、小石とかにしておきなさいよ!

 あぶないでしょう!?


「な!? 小癪な!! 再装填!! 開始!!!」


 ドームの向こうから、こたつロボットの焦った声が聞こえてきた。

 ふっ。どうよ?

 だけど、その場で再装填を始めたってことは、あのガラクタロボット、あそこから動けないのかな?

 よかった。

 横に回り込まれたら、ちょっと面倒だったもんね。

 雪の城壁を移動させられるか、分からないし。新しいのを造れるかどうかも、分からないからね。


 とはいえ、このまま隠れているわけにもいかない。

 こいつを何とかして、先へ進んで。

 圭太君を助けないといけないんだから。


 装填には、若干の時間がかかることは、さっきの発射で分かっていたので、わたしは城壁の脇から七夕杖の先を突き出して、雪玉発射前魔法発射を試みる。


「火炎放射器」


 どうなっているのかは、分からないけれど、ゴォッという音だけは聞こえてきた。

 頼む。どうにか、なってくれ。


「あーっはっはっはっは! 雪だるまロボだから、炎の魔法が効くと思った!? 残念!! われわれ、雪だるまロボには、唯一、炎系魔法だけは効かないのよ!!」


 ……………………は?

 雪だるまロボ?

 どの辺に、雪だるま要素が?

 もしかして、雪だるまをご存じない?

 てゆーか、声は可愛いのに、言っていることは雑魚の悪役っぽくなってきますが?


「よーし、装填完了! 発射――!! ふはははは。雪はいくらでもあるのよ! ナマクラ城壁が壊れるまで、何度でも、装填&発射してやる!! 覚悟しなさい!!」


 雪の城壁だっつーの。

 よし。第二波も完全防御。

 とはいえ、これじゃ、埒が明かない。

 んん。炎系魔法だけが効かないってことは、それ以外はオッケーってことか。

 あ、そういえば、さっきステータス画面を確認した時に、使える魔法の種類が閲覧できたっけ。

 うわ。また、あの画面が出てきた。

 いや、さっき見たから。

 もう、分かっているから。

 ファイアとサンダーとアイスとヒールでしょ。

 四つしかないのに、そんなにすぐに、忘れるか。

 んー。でも、なんか弱そうなんだよね。

 だって、ファイアよりも、火炎放射器の方が強そうじゃない?

 アイスも、なんかしょぼそう。

 しょっぼい溶けかけたアイスとかが出てきそう。

 うーん。でも、氷系は効くってことなら、アレを使ってみる?

 せっかくの、あの大きさを生かして、さ。

 凍った巨大プリンとか、どうかな?

 雪の森の新たな名所になりそうじゃない?

 わたしの後に、この地下迷宮にやって来るキッズたちも、きっと大喜びだって。


 んー、でも。

 それじゃ、面白くない気がするな。

 城壁の中に隠れて、雪玉攻撃をしのぎながら、手の中の七夕杖を見下ろす。


 無属性魔法『ミルキーウェイ』

 一度しか使えないという、七夕杖のオプション的魔法。

 その魔法を使ったら、杖に備わっている魔力アップの効果も消えてしまうという。

 本当なら。

 イチゴ飴の枝と七夕杖の両方で、同じ魔法を使ってみて、効果に差があるか試してから使いどころを決めるつもりだったけれど。

 もう、いいや。

 さっき使った「火炎放射器」も、見えなかったとはいえ、感触的にはこれまで初期装備の剣で放った時と比べて、あんまり差が感じられなかった。

 わたしの魔力の数値的に、そうじゃないかなとは思っていたけれど、たぶん誤差の範囲なのだろう。

 魔力値25アップって、微妙な数字は。


 だったら。

 出し惜しみしていないで、ここで使っちゃおう。

 魔女が用意した、とっておきっぽい、この魔法。

 これまで、わたしが使ってきた魔法と比べて、何が違うのか。

 お手並み拝見、と行きましょうか?


 タイミングよく、雪玉発射後の装填タイムがやって来た。

 不敵に笑うと、わたしは。

 立ち上がって、城壁の上から顔を出す。

 そして、七夕杖の先を巨大ガラクタロボットに向け、声も高らかに呪文を解き放った。


「ミルキーウェイ!!」


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