第30話 ミサイルと合体

 こたつは、サクッと回収することにしてやったわい。

 こたつがあると、女勇者が動かなくなりじゃからの。

 かまくらドームオープンに合わせて、撤収じゃ。

 決戦の場にこたつがあっても、緊張感がそがれるだけじゃしのー。

 まあ、決戦が始まりそうなのに、いつまでもこたつから出られないでいる女勇者のだらしない姿をケータに見せつけるのも悪くないのじゃがの。

 一歩間違うと、女勇者にケータの同情が寄せられるだけになってしまう恐れがある。

 同情だけならまだしも、そこから発展してはならぬ何かが発展してしまっては、本末転倒というものじゃ。


 それに、そろそろ、じゃ。

 地下迷宮を冒険しているッぽいイベントが欲しいからのぅ。

 挑戦者たちが知恵や力を振り絞って強敵に立ち向かい、その結果に一喜一憂する姿を見守るのも、ダンジョンマスターとしてのささやかな楽しみというものじゃからな。

 さてさて、ケータの反応はどうかのう?


「おお! 充電切れのロボたちが、動き出した! こたつロボの後ろに集まっているぞ!」

「本当ですね! これは、もしかして!?」


 むふ♡

 この後の展開なんて分かっておるが、ケータのテンションに合わせて、はしゃぐ乙女っぷりを精一杯、見せつけてみたぞ?

 チラッとでもいいから、我の方を見てくれんかのー?

 頬を上気させてはしゃぐ我、なかなかに愛らしいと思うのじゃが?

 そんな我の姿を見て、ケータもハッとしたように頬を染めて、俯いたり、そっぽを向いたりして。女勇者のことなんぞ忘れて、甘酸っぱい雰囲気になってみても、全然、構わないのだぞ?


 …………などと、淡い期待を抱いてみたが、残念ながら、ケータの視線はモニターに釘付けじゃった。


 べ、別に悔しくなんかないぞ?

 負け惜しみなんかではないぞ?

 ケータは女勇者に釘付けになっているのではない。

 我の演出に釘付けになっておるのじゃ。

 我の演出が、ケータの心をがっつりと掴んでおる。

 つまりは、そういうことなのじゃ!


「集まったロボが、山になっていくぞ! いよいよ、合体か!?」

「楽しみですね!」


 モニターの向こうでは、集まったロボたちが、重なり合って山を築いていく。

高らかなお仕置き宣言と共に、こたつのところにいたマスターロボが、その山の天辺に着地する。

 ググっと身を乗り出すケータを横目に見ながら、むふふと含み笑う。

 お楽しみは、ちょいとお預けじゃ。

 予想通りの展開すぎては、つまらぬからのぅ。

 それに、我の勉強不足でカッコいいロボの合体の仕方がよく分かっておらんのじゃ。

 期待MAXのところで、ケータの思い描いていたのとは違う変身シーンになったら、がっかりさせてしまうかもしれんからのぅ。

 だったらいっそ、肩透かしをくらわして、合体話かと思わせてからの…………にしてしまおうかと思っての。


 つまり、あれじゃ。

 下げてから上げる戦法じゃ。

 一度、合体はなしかと思わせた後じゃからの。

 若干、合体シーンが物足りなかったとしても、それなりに高揚感が得られるはずじゃ。

 今度、合体ものロボットアニメで勉強しておくから、今回はこれで許してほしいのじゃ。

 ま、まあ。ケータのことじゃから、もしかしたら喜んでくれるかもしれんがのぅ。

 うーむ。ケータに地下迷宮接待をしていた時よりも、ドキドキじゃ。

 これが、恋…………?


「え? これで、終わりなのか? 合体はなしか?」

「それとも、あれが合体なのでしょうか?」

「ええ!? さすがに、それはないと思うぞ? アレが合体とか、合体した意味が、全っ然、分からねぇぞ……?」

「そういう、ものですか……?」


 本当に不思議そうな顔をして、ケータが我の方を向いてくれた。

 うーん、あわよくば、これを合体の第一形態ということに出来ないかと思ったが、やはり無理があったか。まあ、合体というか、ロボットが積み重なって闇なっているだけじゃしな。もうちょっと、こう、手足を絡めてみた方が、合体感があったじゃろうか?

 うーむ。難しいのぅ。

 でも。でもでも、じゃ♡

 ケータが、ようやく我の方を見てくれたから、これはこれで、作戦成功じゃ♡


 我は精一杯可愛らしく、よく分かりませんという顔で、小首を傾げて見せる。

 もしかしたら、ケータはロボットになんて興味ありませんという娘よりは、同じレベルで熱く語れる娘の方が好みなのではという気がするが、本当によく知らんのだから仕方がない。知ったかぶりがバレては、かえって好感度が下がってしまいかねんからのぅ。

 ここは素直に、分からないモードでいくとするのじゃ。


 た・だ・し・じゃ。


 ケータが説明してくれるなら、聞いてみたいな的ポーズは忘れてはならない!

 興味あります光線で、キラキラとケータの瞳を狙い撃ちじゃ!

 じゃが、モニターの向こうでは着々と事態は進行中なわけで、ケータの興味はまたあっさりとロボ対女勇者の戦いへと呼び戻されていった。


 …………………はっ!?


 も、もしや! こいつ、何にも分かってないんだな、とか思われてしまったのでは!?

 そういうものですか、ではなくて、どういうことですか、にしておくべきじゃっただろうか?

 い、いや。大丈夫。まだ、挽回できるはずじゃ!

 それに、ケータのことじゃ。

 次のフロアへ進めば、細かいことは丸ッと忘れるに違いない。

 我へのバッドラブエンディングフラグも綺麗さっぱりリセットされるはずじゃ。

 などと考え込んでいる間に、ロボ対女勇者の戦いが始まっておった。

 モニターから、雪玉ミサイル発射宣言が聞こえてくる。

 ん? ミサイル?


「んー? どこが、ミサイルなんだ? ロボ墓場で、ロボ幽霊の雪合戦が始まったみたいになってるぞ?」

「こ、こここここ、壊れたロボットたちの廃棄場だったのでしょうか? 捨てられたことを恨むロボたちの怨念が今ここに!?」


 し、しまった。すっかり考え込んでしまっておったわい。

 脊椎反射で答えてしまったが、おかしなことは言っておらぬよな?

 しかも、動揺していたせいか、なんぞおかしなことになっておるぞ?

 とりあえず、一旦可愛くロボと雪の精霊の共演という形での雪合戦大会が始まる予定じゃったんだが。

マスターロボのミサイル発言は、何処から出てきたのじゃ?

 もしかして、女勇者を吹き飛ばしてやりたいという我の本心が、マスターロボの口を介してこぼれ出てしまったのじゃろうか?

 い、いかん、いかん。

 ダンジョンマスターたるもの、いついかなる時も、冷静でおらねば。


 よ、よし!

 今度こそ、合体じゃ!

 むふふ。廃棄ロボットたちが寄り添い絡み合って、一つの巨大ロボットを造り上げていく!

 ロボたちの悲哀が漂う、よい合体じゃと思うのじゃが、どうじゃ?

 ちゃんと手足もからめるようにしておるから、これはもう、合体じゃよな?

 ただのガラクタの山ではなく、シルエット的には巨大ロボじゃし!


 まあ、巨大と言っても、二階建ての家くらいの高さじゃがの。

 とはいえ、生身で相対するのじゃ。

 実際に見上げる立場の女勇者視点では、十分に巨大に感じられることじゃろう。


「あれが、最終形態……? はっ! そうか! もしかして、あれは、大人たちがよく言う予算が足りないとかいうヤツか! 予算が足りないせいで、あんな残念なことに!? それとも、廃棄ロボたちの怨念合体だからなのか? 無念な気持ちを伝えるために、わざとあんな合体を……? カッコよさを捨てて、捨てられた悲しみをみんなに伝えようとしているのか!?」

「き、きききき、きっと、そうですよ!」


 ケータに残念と言われたショックで、声が裏返ってしまったわい。

 そ、そうか。カッコよくない、か。

 う、うう。カッコいいロボとは、どんなのじゃ?

 ああああああ!

 今すぐ、ロボットアニメを漁りに行きたい!

 手遅れな気がするけれど、漁りに行きたい!!


「くぅうう! なんだか、そう思ったら、ロボのことも応援したくなってきちまったぜ!」

「は、はい! 私もです!」


 な、なんと!

 女勇者ではなく、ロボを応援じゃと!?

 カッコよくないのに、ロボを応援してくれるのか!?

 …………ケ、ケータぁ。

 好きじゃぁ!

 そんなところが、大好きじゃあ!!


「次の攻撃は、雪鉄砲か! ん? もしかして、雪鉄砲って、ロボの肩の上に出てきたあの筒のことか? あのサイズだと、鉄砲っていうよりは、大砲じゃないか?」

「てーてててて、鉄砲の予算しかなかったのに、怨念の力で大砲へと進化させたのかもしれませんよ!?」

「なるほど! そういうことか! すごいぜ、ロボ!!」


 うぉおおおおおお!

 やってしまった!!

 それは、我のうっかりじゃった!

 言われてみれば、確かにその通りじゃ!

 じゃ、じゃが。

 おかげで、ケータのロボへの好感度がアップしておる!


 これは、つまり。

 結果オーライというヤツじゃ!

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