第29話 ショーが始まるみたいです。
これは、もしかして。
ピンチ…………?
かまくらドームが左右に割れたと思ったら、憩いの場であるこたつが、消えた!
一瞬で!
音もなく!
ホログラム映像のスイッチ切りますね、みたいに一瞬で!
ひどい!
温もりを、温もりを返して!
くっ! 心の奥に寒風が吹きすさぶ!
心の血涙を流しながら、わたしは仕方なく立ち上がる。
こたつがない以上、雪の上にただ座っていてもしょうがないし、どちらにせよ。まったり座っている場合でもなかったからだ。
かまくらこたつの先客……いや、ホストだったロボットの後ろに、広場で活動停止していたロボットたちが集まってきているからだ。
こたつが失われたことは、わたし的にはかつてない大ピンチ状態だったけれど、ロボット集合には、あまり危機感は抱いていない。
ポンコツロボットたちが、えっちらおっちらと一ヶ所に駆け寄っていく様には、幼稚園児の大運動会的な何かを感じる。
がんばれー、と思わず声援を贈りたくなる。
ポンコツっぽいとはいえロボットだし、みんなで集まって合体でもするのかなー、と縁側でお茶を啜るおばあちゃんみたいな気持ちで眺めていたら、本当に、まあ、ある意味合体が始まった。
合体っていうか、失敗して崩れた組み立て体操っていうか、なんていうか。その上に、また集まってきたロボットがえっちらおっちらと登っていって、崩れた組み立て体操の一部になってるし。
…………壊れたロボットが山積みにされているだけにしか見えないというか。
君たち一体、何がしたいの?
「ふはははは! さあ、ショータイムの始まりですよ!?」
一人だけ初期位置についたままのホスト役ロボットが高らかに笑った。声が可愛すぎて、やっぱり緊張感に欠ける。
文字通り、アトラクション施設でのショータイムが始まりそうな気配しか感じられない。
「とぅ!!」
可愛らしい掛け声とともに、ホスト役ロボットの体が浮き上がり、廃棄ロボットの山の上に飛んで行って、天辺に着地する。
可愛らしくも威勢のいい掛け声と、なんだかふわっとした動きとのギャップが、むしろいいかもしれない。
「人の好意を踏みにじる、礼儀知らずの不届き者にお仕置きを!!」
ホスト役ロボットが廃棄ロボットのお山の天辺で甲高い声で叫んだ。
前言撤回。
やっぱり、可愛くない。
大体、おまえは人じゃなくてロボットでしょうが!
それに、あれは好意じゃない!
受け取り側としては、悪意しか感じられない!
好意の設定が間違っている!
「くらえ! 雪玉ミサイル!!」
ホスト役ロボットが両手をカションと振り上げた。
雪玉ミサイル!?
や、やばい! 今、わたし、盾を持っていないのに! いや、そもそもミサイルは盾でどうにかなるのか!?
躱すとか、わたしには無理なんですけど!?
両手に装着した杖を構えながら、打開策を考える。
ホスト役ロボットの高笑いと共に、廃棄ロボットの山の周辺のあっちこっちで、降り積もった雪がふわっと浮き上がる。いくつもの見えない手で掬い上げたみたいに。見えない手は、空中で優しく、おにぎりを握り始めた。
おにぎりっていうか、雪玉だね……。
えーと? 雪玉ミサイルって、もしかして、それのこと?
「発射―――!!」
威勢のいい声と共に、雪玉乱舞が始まる。
特に、ロックオンはされていないみたいだった。
見えない子供隊による雪合戦の場に、うっかり入りこんじゃった、みたいなんですが?
たまに、流れ弾が飛んでくるけれど、別に痛くはない。あ、当たったな、くらいだ。
それでも、顔に当たったら、冷たさによる大ダメージを食らうことになるので、両手をクロスさせて顔を庇う。
がんばれー、なんて声援を贈っている内に、雪合戦は終わったみたいだった。
どういうショーなの? これ?
「ふっ! 今のは、ほんの小手調べですから!」
雪玉乱舞の終了と共に、可愛い声が響き渡る。
負け惜しみなのか、台本通りのセリフなのかは、イマイチ判断がつかなかった。
正直なところを言えば、別にどっちでもいい。
本当に、どっちでもいい。
早く、この茶番が終わってくれないだろうか?
だけど、その願いは、どうやら叶わないようだ。
「最終形態へ移行!」
最終形態があるんかい?
ロボットらしく、合体とかだろうか。
興味はないけれど、そういう分野があることは知っている。
で。
今度は、一瞬で形態が変わった。
ロボットの山が、小型のロボットを重ね合わせ、より合わせて造った巨大ロボットのオブジェみたいになっとる。シルエット的には、元の型と一緒だ。
いや、いかにもなアニメに出てきそうな、男の子の好きそうな、おもちゃとして売り出されそうなロボットに変身しろとは言わないけれどさ。
せめて、小型ロボットの大きいバージョンに生まれ変わりました、みたいなのに出来なかったの?
これは、合体じゃなくて、ただの小型ロボットのみっちり組体操じゃない?
で、その組体操の頭の上に、ホスト役ロボットが乗っている。いや、載っているって言った方が、正しいかも。見た目的には。
「最終兵器! 雪鉄砲! 装填開始!!」
可愛い声が響き渡り、ロボットのオブジェの両肩の上あたりに、雪が集まってくる。雪が寄り集まって、大きな筒状のものが二つ出来上がった。
え? もしかして、その筒が雪鉄砲?
いや、雪鉄砲じゃなくて、雪大砲でしょ! そのサイズ!
なんで、さっきよりも名前のグレードは下がっているのに、威力は上がってそうになってるのよ!
ひ、ひぃ!
筒の中に、砲丸投げの砲丸みたいな雪玉が詰め込まれていく!
固そう! 痛そう!
や、やばい!!
これは、本当にピンチかも!
だって、あの鉄砲とは名ばかりの実質大砲ってば、二つもあるんだよ?
た、頼む!
これまでみたいな、ポンコツな結果に終わってくれ!
本当に、頼む!!
お願い!!!
痛いのも、冷たいのも、どっちも嫌だ!!
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