第28話 かまくらドーム

 空中に魔法で設置された二つの巨大モニター。

 右のモニターには、こたつでくつろぐ緩み切った女勇者のドアップが。

 そして、左のモニターには、目が黄色く光り始めたロボットのドアップが。

 それぞれ、映し出されている。


「やっぱり、罠だっ…………いや、罠じゃない!?」


 いよいよイベントの始まりかとばかりに、拳を握りしめて身を乗り出したケータの目が真ん丸になった。

 むふふ。もちろん、イベントも用意しておるが、ケータを飽きさせないためにも、少し意表をついてやろうかと思っての。ついでに、女勇者の反応もみたいと思って、ロボットを通じてステータス画面の存在を教えてやることにしたのじゃ。

 さーて、どうでるかの?


「ロボのヤツ、可愛い声、してるんだな。てゆーか、今さら、ステータス画面?」

「そうですよね。どういうことなのでしょう?」


 うむ。ケータは、相変わらずいい反応を返してくれるのぅ。

 というか、女勇者ゲーム初心者説は、ケータが言い出したことのように記憶しているが、自分が言ったことをすっかり忘れてしまっておるんじゃろうなぁ。

 むふ。よいよい。そういうところが、可愛いのじゃ♡

 左モニターに映し出された女勇者は、怪訝な顔をした後、「ああ」という顔になりおった。

 うーむ。この反応。

 ステータス画面の存在を知らなかった、というわけではなさそうじゃな。

 頭が固すぎて、リアル地下迷宮なんじから、そんなものが見れるわけがないと思い込んでいただけ、とかなのかのぅ。


「お! リンカのステータス画面が見れるようになったぞ? あ、もしかして、あのロボットのおかげで、ここにいるおれたちにもリンカのステータス画面が見れるようになった、ってことか?」

「そ、そうかもしれませんね!」

「おー! やるな! ロボ!」


 う、うむ。そういう解釈も、ありじゃな。

 そういうことにしておくとするか。


「へーえ。すげえな、あいつ。ほかのステータスは大したことないのに、魔力関係だけチョーすごいことになってるぜ! 本物の女魔法勇者って感じだな!」

「そう……です……ね?」


 い、いかん。

 動揺のあまり、声が揺らいでしもーた。

 ん、んんんんん?

 なんじゃ、あれ?

 どういうことじゃ?

 いや、ステータスは本人の元々の資質を数値化して、さらに選んだ職業によって関連するステータスにボーナスを上乗せする仕様となっておるのじゃが?

 上乗せ……といっても、5から10の間で、ランダムに加算される、という程度じゃ。

 そのはずなのに、なんじゃこれ?

 ステータスがバグっておるのか?

 いや、そんなはずはない。

 何も、不具合は発生しておらんぞ?


 う、うむ。

 МPと魔力の値だけ、とんでもないことになっておる。

 レベル1……いや、レベル2に上がったんじゃったか。まあ、どっちでもええわい。どっちにしろ、初期レベルではあり得ん数値じゃ。桁が違っておる。ラスボス戦間近、くらいの数値じゃぞ?

 これが、不具合でなければ、つまり。

 女勇者が生まれ持った素質を現している、ということになる。


 …………………………。


 うむ。というか、これ。

 少し修行すれば、魔女にもなれるレベルじゃぞ?

 もしや、我。眠れる獅子を起こしてしまったのではなかろうか?

 この地下迷宮内には、我の魔力が細部にまで満ちておる。所謂、霊的フィールド的な、そんな感じの場所になっておるのじゃ。

 そこで、女勇者としてモンスターと戦わされる羽目になったことで、秘められていた霊的素質が大爆発してしまった……というところじゃろうか。

 まあ、ゆーても、我には遠く及ばないからの。

 地下迷宮攻略が終わって記憶を消す際に、力の方にもちょちょっと封印を施してやれば、問題なく、ほぼ今まで通りの生活に戻れるであろう。

 やれやれ。リンカが本物の女勇者で、この地下迷宮攻略が終わったら、また次の地下迷宮を求めて旅立って行く……とかだったら、面倒もなかったのにのぅ。

 などと思案している内に、おミカントラップが発動したようじゃ。


「リンカのヤツ、ミカンが嫌いなのかな?」

「どうでしょう? 普通のミカンじゃなくて、冷凍ミカンだからじゃないでしょうか? 女勇者は冷え性みたいですしね」

「そういうことか! それは、あのロボットが悪いよな。雪の森で冷凍ミカンとか、気が利かないロボットだな」

「本当ですね」


 トラップの発動を待ちながら、ケータとの会話を楽しむ。

 ケータも、罠はないと思い込んで、すっかり油断しておるようじゃの。


「あ! ロボが怒った! 目が赤くなった! 心が狭いぞ、ロボ!」

「あら? かまくらが!?」

「うぉおお! かっけぇ! かまくらドームが開いた! ロボ発進か!?」

「ロボ発進!?」


 む。それは、考えておらんかった。

 というか、この状態でロボ発進とは。どうすれば、いいのじゃ?

 すまん、ケータ。我の勉強不足じゃ。

 合体。合体はさせるから、それで勘弁してくれなのじゃ!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る