第26話 スイッチオン

 ステータス画面について、女勇者に教えてやるべきではないかと思い始めておる。


 我の地下迷宮は完璧じゃ。

 ゲーム大好きな男児や女児たちを心から満足させることが出来る、完璧なる接待地下迷宮じゃ。なので、ゲームのようにステータス画面で、自らの状態や持ち物なんかを確認することが出来る。

 使い方も、至極簡単じゃ。

 ステータス画面が見たいなー、とほんのちょろっと考えるだけで目の前に展開される仕様にしてある。ケータを含むこれまでの冒険者たちは、みな初めてステータス画面を起動したときは感激に打ち震えておった。

 だというのに。それだというのにじゃ。


 この女勇者リンカときたら、感激するどころか、これまでただの一度もステータス画面を開いておらん。

 第二階層まで来ておるというのに、ただの一度も、じゃぞ?

 おそらく、女勇者は一度も自分でゲームを遊んだことがないのであろうな。

 遊んだことがあれば、ステータス画面の存在くらいは知っておろう?

 知っていれば、ここまで来るまでの間、チラぐらいはステータス画面のことを考えたりするもんじゃろう?

 ステータス画面で確認したいな、とか思ったりしそうなものじゃろう?

 それが、一度もないということは、女勇者はゲーム慣れしていないということじゃ。

 我のこの名推理に、間違いはないであろう。

 ふん。まあ、ゲーム初心者ということなれば、これまでの女勇者の頓珍漢な行動にも納得できるというものじゃわい。


「お? 杖を二本もちするのか。まあ、一本よりも二本の方が強いもんな!」

「ふふ。そうですね」


 レアアイテムである七夕杖を手に入れたというのに、感謝も感激もなく、淡々といたってクールに杖を拾い上げた女勇者は、イチゴ飴の枝を持っている右手に二本まとめて装備しおった。

 ケータの素朴な感想は、とてもとても愛らしいと思うが、それはそれとしてじゃ。

 クールなのは、別に構わん。内心では狂喜乱舞している可能性だって、あるからのぅ。表には出ないタイプというだけかもしれんし、そこは百歩譲ろう。譲ってもいい。

 じゃが、ただの枝のとの二本もちは許せん。

 それは、ただの枝であって、杖ではないじゃろうが!

 この女勇者、レアアイテムのありがたみをまるで分っとらんと見える。

 ただの枝とは性能が違いすぎるということに気が付いておらんのじゃ。気づいておれば、装備すべきは七夕杖一択、しかありえんはずじゃからの!

 そう!

 つまりは、女勇者がステータス画面を開けないことが問題なのじゃ。


「お? また、雪ウサギとの追いかけっこが始まったな!」

「はい。でも、今度は走らずにゆっくり歩くことにしたみたいですね」

「あはは! 氷の川で滑ったことを、気にしているのかもな! リンカのヤツ、可愛いところがあるな! な?」

「ふ、ふふ。そうです、ね」


 く、くぉおおおおおお。

 あ、あれは! 持ち前の慎重モードが再起動しただけだと思うぞ!?

 なのに、なのに。

 可愛いとか。可愛いとか。

 我だって、まだ言われたことがないというのに!

 「な?」と笑顔で我に同意を求めてくれたのは、嬉しいが。

 というか、ケータが可愛いのじゃが。

 それは、それじゃ。

 やはり、女勇者は油断が出来ない存在じゃ。


 うーむ。

 これから、どうしてくれようか。

 女勇者は、寒いのが苦手なようだし、しばらく雪の森を彷徨わせて、無様なさまを笑ってやろうと思っておったのに。

 その案は、取りやめじゃ。

 雪ウサギのレアアイテムゲットイベントも、もう少し先に進んでからの予定じゃったが、いろいろ繰り上げじゃ。

 予定を変更して、雪の森で用意してあったイベントを全部まとめてぶち込んでくれるわ。

 女勇者と雪ウサギの追いかけっこ鑑賞で、ケータのキュンゲージがこれ以上上昇してはたまらんからの。


「あ、リンカが歌いだしたぞ? 温泉…………入りたいのかな?」

「そ、そそ、そうですね。疲れたのでしょうか?」


 温泉じゃと!?

 女勇者め、なんと破廉恥な…………!

 ま、まあ、アレじゃ。ケータがお子様すぎて、あれこれ想像して顔を赤らめたりはしておらんようなのは幸いじゃが。

 もちろん、その案は却下じゃ。

 そして、さすがに早すぎるかもしれんが、もう構うものか。

 次の分かれ道の先に、サクッとイベント会場を用意してやるわい。

 温泉の代わりに、ほれ。“こたつ”を用意してやったぞい。

 どうじゃ? 女勇者よ?

 寒がりなおまえには、たまらん代物じゃろう?


「あれ? こんなにすぐに次のイベントが起こるのか? なんだか、罠の予感がするな! うぉ! また、おれの予想が当たったぜ! “かまくら”とロボットだ!」

「寒いせいか、ロボットは動かないみたいですね。あ、“かまくら”の中には、“こたつ”もあるみたいですよ」

「なるほど! 雪の森で“こたつ”とか、悪魔の誘惑すぎるもんな! 罠と気が付かずにフラフラと引き寄せられたら、仕掛けが発動して一斉にロボが動き出すってことだな! 合体するかな! 合体!」

「するかもしれませんね。あ、女勇者が“こたつ”に引き寄せられていますよ? やっぱり、お疲れみたいですね。小走りで精一杯走っていましたものね」

「そうだな!」


 最後の一言には、チクッと棘を込めたつもりじゃったんだが、ケータにはスルリと流された。まあ、結果的には良かったかもしれんのぅ。嫌な女だと思われるよりは、流された方がよいものな。うむ。ケータの前では発言に気をつけねばの。

 本音を押し隠して、清楚で健気で可愛い女の子発言を貫かねば。

 気を引き締めてかかろう。


 うーむ。

 しかし、女勇者のヤツ、慎重モードを再始動させてばかりだというのに、あっさりと罠にかかっておるのー。

 女勇者といえども、“こたつ”の魔力には抗えぬというわけか。

 それが、イベント開始の合図と知ってか知らずか。

 躊躇いなく“かまくら”の入り口をくぐり、“こたつ”に入りおった。


 むっふっふっ。

 スイッチオン、してしまったのー?



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