第22話 女勇者の女子力アピール

 ようやく動き始めたと思ったら、相変わらず、まだるっこしいことをしておるのぅ。

 安心せい。

 角に何か仕掛ける時には、もっとこう、あからさまに何かあると思わせるようにヒントを用意しておるわい。いかにもな物音が聞こえてくるとか、影が過るとか、思わせぶりな壊れた武器とか防具を近くに転がしておくとか、の。

 ゲームの腕は一流かもしれなくても、リアル冒険者としては素人な子どもたちを募っておいて、そうそうえげつない罠を仕掛けたりはしとらんわい。

 まったく、この後、いくつの角を乗り越えねばならんと思っておるのじゃ!

 角に差し掛かる度にいちいち警戒していたら、最深部に辿り着く前に地球の寿命の方が先に終わるわ!

 ケータが女勇者の冒険鑑賞会に飽きてしもうたら、どうしてくれるのじゃ!?


「二層目でも気を抜かずに、敵への警戒を怠らないってことか。さすがだな、リンカ! おまえこそ、本物の女勇者だぜ!」

「そうですね……」


 …………飽きてはいなさそうなのは喜ばしいが、何気にケータの称賛を勝ち取っていくとは、おのれ女勇者め、許すまじ。


「お? 雪で何か作り始めたぞ? あれは、雪ウサギか? さすがは、女勇者だな!」

「そうですね」


 いや、女勇者と雪ウサギは、関係ないじゃろ!?

 それとも、あれか? “勇者”じゃなくて、“女”の方に比重を置いての発言ということか!?

 女勇者の女子力アピールか!?

 慎重な勇者ぶりを見せつけておいての、女子アピールなんか!?

 しかも、しかも雪ウサギとか、我の女子力アピールと被るではないか!?

 我の出した、雪ウサギの精霊イベントでレアアイテムゲットイベントが霞むじゃろうが!

 もしや、あの女勇者。

 我とケータの会話を盗み聞いて、我の可憐な女子力アピールを潰してやろうと、わざと被せてきたわけではあるまいな!?

 くっ!

 女勇者の野望を阻止すべく、我も何か気の利いたことを言わねばならぬというのに、憤怒のあまりすっかりテンプレとなった「そうですね」しか出てこぬ!

 表情を可憐に取り繕うだけで、いっぱいいっぱいじゃ!


「お? チェリーのフルーツ飴を目に埋め込んだのか! なかなか、可愛いな!」

「そう……ですね……」


 くぉおおおおおおお!

 ケータの女勇者への好感度がアップしておるぅー!?

 モニターの中の女勇者を微笑まし気に見つめておるぅー!?

 おのれ、女勇者めぇー! 姑息な手段を使いおってぇ!

 純粋なケータの男心を翻弄するとは、許すまじぃー!!


「あの雪ウサギに、雪ウサギの精霊が宿ったら、さっきのリリィの予想と女勇者リンカがリンクしたみたいになるな!」

「そ、そうですね!」


 なるほど!

 その手があったか!

 別に、女勇者とリンクしたところで、何にも嬉しくないが、ケータは喜んでくれそうじゃし、ケータの関心が少しは我の方に向くかもしれんな!

 よし!

 雪ウサギの精霊計画、始動じゃ!

 行け! 雪ウサギよ!

 女勇者を森の奥深くまで誘い込むのじゃ!


「あ! 見ろよ、リリィ! 本当に精霊が宿ったぞ! 雪ウサギが動き出した! リリィの予想通りになったぞ!」

「はい! 嬉しいです!」


 うむうむ。

 ケータが喜んでくれて、我も嬉しいぞ。

 それに、ケータの中で我の株が上がったようじゃしの!


「ぴょんぴょん飛び跳ねて、可愛いですね! 雪ウサギさん!」

「そうだな!」


 ここですかさず、可愛いものが好き女子アピールゥ。

 しかし、ケータの視線は元気に飛び跳ねていく雪ウサギに固定されておる。

 くぅう。ここで、我の方を見て、「リリィも可愛いぞ」とか言ってくれたら、完璧なのにのう。まあ、ケータにはまだ、早いかのう。そういうところが、いいところじゃしのぅ。

 妄想するだけで、満足しておくとするか。


「お! 雪ウサギの精霊、ちゃんと分かれ道で止まって、リンカが来るのを待ってくれているぞ! いよいよ、イベントの始まりだな! 頑張って、レアアイテムをゲットするんだぞ、リンカ!」

「どんなイベントになるのか、楽しみですね!」

「リンカが走り出した!」

「はい!」


 むふ。

 ちょっと、楽しくなってきたぞい。

 ふっ、女勇者め、雪ウサギの精霊の可愛らしさにすっかりメロメロのようじゃな!

 いつもの用心深さはどうしたのじゃー?

 角街モンスターの確認をしなくてもよいのかー?

 あれほど慎重に角の先に何もないかを確認していたくせに、立ち止まりもしとらんぞー?

 一時は、あまりの用心深さに、本当に本物の女勇者なのではと疑ったりもしたものじゃが、さすがに考えすぎじゃったようじゃのー。

 魅了の魔法なんぞ使っとらんのに、すっかり雪ウサギに夢中になっておる。

 あの様子では、自分が何処をどう進んだのやら覚えておるまい。

 まあ、覚えておったところで意味はないがのー。

 ここは、魔女が造った迷いの森迷宮じゃからして。

 ちょっとばかり、意地悪な仕掛けをしておるのじゃ♡

 ヒントはフルーツ飴じゃ。

 この仕掛けを解かねば、ゴールへは辿り着けないのじゃ♡


 ちなみに、謎の内容は挑戦者のレベルに合わせて変更しておる。

 ケータの時は、見かねて雪畳に落ちているフルーツ飴を辿るだけでゴールに辿り着けるようにしてやったわ。もはや、仕掛けでもなんでもないが、仕方がなかろう。適度なストレスでゴールに辿り着かせることが重要なのじゃ。

 女勇者には、容赦してやる必要はなさそうじゃがの。

 どのくらい彷徨わせて、どのくらいでゴールへ辿り着かせるかは、すべて我の心一つ。迷路の構造なぞ、我の魔法にかかれば、如何様にも変更可能じゃ!

 ここはひとつ、女勇者仕様のスペシャルな迷路にしてやろうかのー。


 しかし、女勇者よ。

 別に、足元が滑るわけではないのじゃから、もっと速く走れんのか?

 腿が上がっとらんぞー? 腿が。

 まだ、たいして走っておらんのに、もう息切れしておるし。

 だらしがないのー。

 どれ、そろそろ次のイベントへ進めようかの。

 ケータが女勇者の女勇者たるまじき姿を見て幻滅しておるようなら、もう少し見苦しい姿を晒させてやってもよかったのじゃが。テレビ越しにマラソンランナーを見守るかの如く、声援を送っておるし。

 このまま、何かが芽生えてもいかんからの。

 少し、女勇者からケータの意識を逸らさねば。


 むふ。

 お次は、ケータのモンスター予想を採用じゃ!

 これで、また。

 我ら二人で盛り上がること、請け合いじゃ!





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