第20話 魔女の困惑

 いや、しかし。

 なーにをしとんのじゃ、あの女勇者は。

 さっきから、中途半端に第二階層本番ダンジョンに片足だけ突っ込んだまま、フリーズしとるんじゃが?

 勝ち誇った高笑いを轟かせておきながら、なぜそこで固まるのじゃ?

 そこまで来たなら、サクッと中に入らんかい!


 

 実はのう。第一階層は最初から、いかにもな地下迷宮じゃったが、この雪の階層は一味違う仕様となっておるのじゃ。

 第一階層から降りて来て、まず目にするのは、一面の銀世界。

 広い雪原と、その奥に見える、雪に包まれた森。

 その森こそが、この階層の真のダンジョンなのじゃ。

 森の中へ足を踏み入れたその瞬間から、この階層の真の攻略が始まる、というわけなのじゃ。


 雪原の広さに比べれば、森はたいして大きくないように感じられる。

 じゃが、それは見せかけにすぎない。

 外から見た印象よりも、この森はずっとずっと広く入り組んでおるのじゃ。

 ここは、魔女の森じゃからの。

 つまりは、迷いの森系ダンジョンというわけじゃ。

 ループしたりワープしたりで、その法則に気付かなければ、永遠と続く終わりのないダンジョンのように感じられることじゃろう。

 まあ、法則にさえ気づいてしまえば、どうということもないがの。

 ちなみに、仕掛けには気づいたけれど、記憶力に問題があって先に進めない子らには、謎の声でヒントを与えるサービスもしておるぞ。


 そして、森の入り口にも、仕掛けを施してある。

 ま、これは、冒険気分を盛り上げるための演出じゃがの。

 雪原観光気分から、地下迷宮探索モードへと気持ちを切り替えさせるための演出でもあるの。

 それまでは、オープンワールド風じゃったのに、森へ入った瞬間から、王道のダンジョン探索ゲーム的フィールドに切り替わる仕様なのじゃ。

 みな、驚きつつも、冒険の予感にキリリと顔を引き締めておったのう。

 素直な反応が返ってくると、ダンジョンマスターとしても気分がいいわい。


 さーて、女勇者はどんな反応をしてくれるかのー?

 ワクワクとその時を待ちわびるが、女勇者は焦らしプレイがお好みなのか、なかなか本格的な地下迷宮探検を始めようとしない。

 で、片足だけ突っ込んだまま、何やら呟いておる。

 んー、何々?


『雪や氷のエリアの敵には、氷系の魔法が効かない傾向がある…………』


 ………………………………。

 うん、まあ、そうじゃな?

 そこを逆手にとって、というのもアリじゃがの。

 ちなみに、ここのフロアのボスモンスターは炎の魔法にだけ耐性があったりする。

 多少は捻りがないと面白くないからのー。

 安心せい。ちゃんと、イベントをこなしていれば、それについてのヒントは得られるようにしてあるわい。

 その辺りは、フェアにいかんとの。フェアに。


「なるほど。本格的な攻略を開始する前に、基本的な情報のおさらいをしているんだな! その通りだぜ、リンカ! おれの時とモンスターが変わってなければ、ザコには炎の魔法がよく効くぞ! ただし、ボスには炎が効かないから要注意だ! まあ、リンカには無敵のお菓子魔法があるから、問題ないけどな!」

「そ、そうですね! 次は、どんなお菓子に変身させるのか、楽しみですね!」


 い、いかん、いかん。

 ケータへの相槌が遅れるところじゃったわい。

 じゃが、そうなのよのー。

 あのスイーツ魔法、ちとチートすぎんか?

 魔法耐性ガン無視の、問答無用のモンスタースイーツ化魔法とか、チートすぎるんじゃないのか?

 まあ、次はどんなスイーツが現れるのか、楽しみでもあるから、しばらくは放置しておくがの。

 じゃが、マンネリ化して飽きてきたら、あのチート魔法を封じる方法を考えた方がいいかもしれんのう。

 罠や仕掛けで妨害するという手もあるが、やはり、モンスターとの見ごたえのある戦闘がないと、ケータも『女勇者の地下迷宮攻略観戦』に飽きてしまうかもしれんからの。


 しかし、あんなチート魔法を持っているくせに、なんでわざわざそんなことを確認する必要があるのじゃ?

 ………………そういや、この女勇者。

 前の階層であの魔法を使った時は、氷菓ばかりに変化させておったのう。

 特に暑さを感じるフロアでもなかったというのに。

 単に冷たいスイーツが好きなだけもしれんが、もしや…………。

 いや、まさかのう。

 まさか、あのどう考えてもスイーツ化魔法としか思えんアレを、女勇者は氷系魔法のつもりで使っておった、とか、そんなこと、まさか、のう?

 いや、さすがにのう。それは、ないじゃろう。

 我の考えすぎというものじゃ。うん、うん。


 というか、我の思い過ごしでなければ、ぞ? 

 無敵のスイーツ化魔法が、女勇者的には氷系魔法だったとしたら、じゃ。

 あの女勇者、我が封じるまでもなく、氷魔法だからここでは役に立たないと思い込んで、一人で勝手に封印する可能性があるのではないのか?

 もしも、本当にそうなったとしたら。

 あの女勇者が使える魔法は、『火炎放射器』だけということになる。

 炎系の魔法である『火炎放射器』オンリー!

 あの女勇者が、他にも隠し玉を持っているのでなければ、じゃ。


 女勇者リンカは、このフロアのボス戦で、ツむぞい?

 ここのボスは、炎の魔法だけ、まるで効果がないからのー。


 ふむ。

 ま、これはこれで、お楽しみ、じゃの!


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