第18話 召しませ屋台グルメ
べっつにのー?
女勇者の真似をしたわけではないのじゃがな?
そういうわけでは、ミジンコほどもないのじゃがな?
せっかくじゃからの~。
りんご飴屋らフルーツ飴やらで、可愛く飾りつけをしてみたぞい。
もちろん、ちゃんと食べれるぞ?
うーむ。氷に包まれた果実のようで、雪のフロアにぴったりの装飾じゃの~。
我のセンスも~、捨てたものじゃないの~。
まだまだ、若いものには負けんぞい。
まあ、我も見た目だけは若いがの!
推定十歳から十二歳の、愛らしい女児じゃからの。
中身は、百を超えた頃から、数えておらん。
ま、今生きておる人類の誰よりも長生きをしていることは、間違いないのぅ。
「お? なんだ、あれ? おれのときには、なかったよな? フルーツ飴? 氷漬けのフルーツとは違うんだよな?」
「氷ではなく、りんごもフルーツも飴で包まれているみたいです。綺麗で美味しそうですね?」
「お祭りみたいだな! おれの時にも、りんご飴っぽいのはあったけど、ただの氷漬けにされた木の実かと思ってスルーしちまったんだよなー。もしかして、あれもりんご飴だったのかなー? だとしたら、惜しいことしたぜ」
ふむ?
ケータの時には、本当にただの氷漬けの果実で、食べる様には作っておらんかったのじゃが。
こんなに悔しがるなら、せめてりんご飴くらいは用意してやればよかったのう。
む、そうじゃ。
本物のりんご飴と、ただの氷漬け果実と両方混ぜておくのもいいかもしれんの。
当たりと外れがあった方が、おもしろいであろう?
よし。こっそり、いくつかは飴を氷にしておいてやれ。
女勇者はなかなか注意深いが、雪フロアに入ってからは、寒さに壊れた挙句、今は我の用意したスキーウェアのぬくもりにすっかり蕩けて警戒が疎かになっておるようじゃからの。
ワンチャン、あるかもしれんの!
そしてー、ケータのためにも、ちゃーんと用意してやるからのー。
ほれ、どうじゃ?
テーブルの上に、小さな雪山を作って、生け花のごとくフルーツ飴の串を挿してやろう。
うむ。なかなかの傑作。
もちろん、大小のりんご飴もあるぞー。
ついでじゃ、チョコバナナと綿あめも挿しておいてやろう。
そうじゃ、ケータは男児なのだし、肉も好きであろう。
よし、フランクフルトとイカ焼きも追加じゃ。
うむ。なかなか、壮観じゃな。
雪山には、似合っとらんが、このボリュームにはケータも喜んでくれるじゃろう。
「お? おー! これ、食べていいのか?」
「はい。姫ケ丘の女神からの差し入れのようです。一緒に、冒険気分に浸りながらいただきましょう」
「やったぜ! よーし、まずはフランクフルトだな!」
おお、やったぞ!
喜んでおるー。
むふふー。
ケータは接待のし甲斐があるのー。
どこぞの女勇者とは、ずいぶんな違いじゃ。
む!
飲み物もあった方が、よいな。
瓶コーラとラムネも用意してやろう。
うむ、しかしじゃ。
プチお祭りを開催して正解じゃったの。
女勇者ときたら、森の入り口で、まーた止まっておる。
雪原を歩いている間は、我のぬくもりに包まれて、すっかり骨抜き状態じゃったというのに。このフロアでの、本当の冒険の始まりである森の前で正気に戻るのは、流石じゃが。
そう、一々、一々、一時停止されては、ケータが退屈してしまうではないか。
もっと、サクサク進んで、我の仕掛けた罠にかかって、ケータにみっともない姿を披露せんかい。
ケータの幻滅ゲージをガツンと上昇させんかい。
はっ、そうじゃ!
よいことを考えた。
「ね、ねえ、ケータ?」
「ん? なんら?」
「なんだか、森もお祭りカスタマイズされたようですし、ケータの時とは違うモンスターが出てくるかもしれません。ケータは、どんなモンスターが出てくると思いますか?」
「ん! んぐんぐ。…………その可能性はあるな! うーん、そうだなー」
フランクフルトを食べ終えたケータは、目を輝かせて我の振った話題に飛びついてきた。
むっふっふ。
無心に用意した食べ物を頬張るケータを鑑賞するのもいいのじゃが、食事を共にしながらの会話というのも、二人の仲を進めるためには大事じゃからの。
ケータは、ラムネのビンに手を伸ばし、意外と器用に栓を開けると、グビリと一口飲み下し、ニッと笑いながら我を見た。
よしッ!
「パンダ柄の白熊とかいたら、面白そうだよな! で、氷漬けのでっかい鮭と笹の枝を振り回しながら現れる! それから、雪だるまロボ! 本物の雪だるまじゃなくて、ロボなところがポイントだ! 雪玉ミサイルで攻撃してくるんだ! 油断していると、すぐに全身、雪まみれだぜ!」
興奮しながら、一気にまくしたてるケータ。
うむうむ。
ケータらしい、実によいアイデアじゃ。
ちゃーんと、採用してやるからな。
ま、そのまんま使うと、さすがに我の関与を疑われるかもしれんから、少々アレンジはさせてもらうがの。
ケータのことじゃから、そんな心配ないとは思が。ま、念のためじゃ。
「リリィは、どう思う?」
「え? わ、私ですか?」
「おう!」
ふぉっお!
意見を求められたー。
こ、ここは、我の女子力が試される。
それっぽく、尚且つ女子力高めの回答をせねば!
で、もちろん、この森に採用じゃ!
すごいな、リリィとか言われてみたいじゃろ?
「そ、そうですね。雪ウサギの精霊、とかどうでしょうか? 直接、攻撃をしてくるわけではなくて、森に足を踏み入れた勇者を森の奥へと誘い込んで、迷わせるんです」
「お、いいな、それ! もちろん、次の階層への階段とは逆方向だよな! で、なんかイベントが起こって、クリアしたらレアアイテムがもらえるんだ! 新しい能力がもらえるとかでも、いいな!」
「いいですね!」
うむ!
採用じゃ!
我とケータの協力アイデア♡
これは、気合を入れて、速攻準備せねば!
むっふー♪
楽しくなってきたぞーい♪
『ふはははははは!』
う、うぉ!?
な、なんじゃい!?
ああ。モニターか。女勇者か…………って、いや!?
い、いきなりどうしたんじゃ!?
寒さのあまり、気でも触れたか女勇者よ?
いや、そんなはずはないぞ。
我の用意した防寒着に、問題なぞあろうはずがないからの!
「おー! リンカもやる気みたいだな! この先の冒険が楽しみだぜ!」
「そ、そうです、ね?」
謎の高笑いのおかげで、ケータの意識がモニターに引き戻される。先の展開を楽しみにしつつも、屋台グルメを味わうとも忘れておらぬようじゃから、まあ良しとしよう。
ケータは、イカ焼きに手を伸ばすと、モニターを見上げたまま豪快に齧り付いた。
ううむ。甘いものよりも、もっと、しょっぱいのもを増やした方がよいかの?
たこ焼きも追加してみようかのう。
しかし、何やらやたらと癇に障る高笑いであったのう。
まだ、第二階層に到達したばかりじゃというのに、ラスボスにとどめの一撃をくらわす直前の、勝利を確信したかのような笑い声だったのじゃが?
我が与えてやった防寒具のおかげで、ようやく動けるようになった寒さに弱すぎるポンコツ勇者の分際で、のう?
実に生意気じゃ。
スキーウェア、取り上げてやろうか?
ふは。
泣いて許しを請うたら、温もりの施しを与えてやるわい!
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