第14話 地下迷宮は改装禁止!
『にゃぁあああああああ!? 火炎放射器~~~~!!!』
よし、来たーーーー!!!
モニターから、今回初の絶叫が聞こえて来て、我は喜びのあまり脳内で膝を叩いた。
もちろん、本体は岩ソファの上で、慎ましやかに座ったままじゃ。
隣にケータがいるのじゃから、はしたない姿を見せるわけには、いかぬのじゃ。
いや、それとも、お行儀が良すぎる女の子は、あまり好きではなかったりするのか?
まあ、でも。今は、膝を叩いて喜んでいい場面ではないな。
他人の不幸を喜ぶ女だと思われては、我の好感度が下がってしまうからの。
しかし、悲鳴を上げつつも、咄嗟に魔法を放つとは。
さすが、やりおるの。
むふ。じゃが、お次のメタルゴーレム・ぷちは、火炎系の魔法は効かないモンスターなのじゃ。
メタルゴーレムを造ろうとした見習い魔女が、うっかり零した溶液から、奇跡的に生まれた出来損ないのメタルゴーレムという設定じゃ。
広間のあっちゃこっちゃに水たまりがあるのは、うっかり過ぎて右往左往した結果ということになっておる。
出来損ないなので、そんなに強くはない。
水たまりの一メートルほど傍によると、ぬばーッと現れて、口からファイアーボールを吐き出してくるだけじゃ。
水たまりから出ることは出来ないし、ファイアーボールは吐き出される間隔も速度もかなりゆったり目に設定してある。
一応、追尾機能もついてはいるが、何かに当たればすぐ消える仕様じゃ。
平均的な運動神経を持ち合わせていれば、初期装備の剣や盾なんかで、余裕で対処できるはずじゃ。
なあに、体に当たったところで、ちょっとアチッとなって服が焦げて穴が開く程度じゃしの♡
ちなみに、必ず一度は遭遇するように配置しておるぞ。
入り口から右奥に下の階への階段を用意してあるのじゃが、そこへ行くまでのルートに、岩や柱なんかも使って、水たまりの脇を通るようにうまい具合に配置してあるのじゃ。
それでも、うまいこと水たまりをかわすようなら、魔法で移動させてやればいいだけだしの。抜かり為しじゃ。
ぬふふ。せっかく用意した仕掛けじゃからの。やっぱり、反応が見たいであろう?
さてさて。
女勇者リンカは、どう動くかの?
「よし! 盾で防いだ! いいぞ、リンカ! その調子だ!」
ちっ。
あっさり、盾で防ぎおった。
いや、でも、服に穴が開いて「いや~ん」なことになってもケータの教育上よくない。
うむ。よくやったな、女勇者よ。
その女勇者。
盾を前に構えて、ファイアーボールのぬるい攻撃を防ぎながら、じりじりと後退っている。
ふむ。逃げずに、戦うつもりということか。
ぬふ。じゃが、お得意の火炎放射器はそのモンスターには効かぬぞー?
他にも使える呪文があるのかどうか。
お手並み拝見といこうかのー?
まあ、ステータス画面さえ開いて確認すれば、そのモンスターの弱点である氷魔法「アイス」が使えるのじゃがな?
「あいつ、他の呪文は使えるのかな? いざとなったら、リリィがおれに声でヒントをくれたみたいに、ステータス画面のことを教えてやれないかな?」
ケ、ケータ…………♡
ケータが、我の手を握って、我を見つめておる♡
あ、ああ。ケータ♡
お願いの内容が、女勇者のことなのは気にくわないが、ケータにお願いされるのは、悪くないのぅ。
お手並み拝見といこうかと思ったけれど、今回は、ケータのポイントを稼いでおくとしようかの♡
むふ。女勇者よ、我の恩恵に感謝するがよい。
「分かりま…………」
『宇治金時!』
「え?」
「は?」
みなまで言い終わる前に、モニターから何やら呪文らしからぬ叫びが聞こえてきた。
『宇治金時』って、あれか? かき氷のおやつか?
なんじゃ? 腹でも減っておるの…………か……。
は、はぁああああああああああああ!?!?
「すげえ、モンスターが、かき氷になった……」
「…………トッピングまで……」
「本当に、宇治金時だ」
「そうじゃ……ですね?」
水たまりの上に、紛うことなき宇治金時のかき氷が完成されておる。
我とケータは、呆然とモニターを見上げるほかない。
動揺のあまり、普段通りの口調で喋ってしまうところじゃったわ。
女勇者は、嬉々とした足取りで、下層への階段まで歩いていく。
道すがらの水たまりに寄り道をして、各種かき氷を作り出しながら。
地下迷宮は、かき氷屋さんでも、かき氷の展示会場でもないのじゃが?
なぜ、我の地下迷宮が、こんなに甘ったるいことに?
「お! さすがだな。階段の前の、鎧モンスターの罠に気付いたみたいだな」
「そうですね……」
モニターに釘付けになっているケータに、我は力なく言葉を返す。
我の地下迷宮の内装を勝手にいじりながらも、女勇者は抜かりがない。
鎧モンスターの仕掛け発動の射程距離よりだいぶ離れた位置で立ち止まり、鎧モンスターを窺っておる。
そんなに離れたところからじゃなくても、半径三メートルの距離まで近づかないと、作動せんぞー?
はぁー…………。
せっかくの、我のポイント稼ぎイベントが。
こんなにあっさりと台無しにされるとはのぅ……。
そう言えば、ケータは仕掛けに気付いていながらも、何も考えずに果敢に鎧モンスターに突っ込んでいったのぅ。
剣と魔法を駆使して、接戦を繰り広げるケータを見守る輝かしいあの日々が、何百年も遠い昔のことのように感じるのぅ。
「すげぇ、慎重だな。リンカは、近接戦闘が苦手な魔法タイプの勇者なのかな」
「そうかもしれませんね。あの鎧モンスターは、何味のかき氷にされるのでしょうか?」
「うーん。この階層のボス的モンスターだしな。果物とかクリームとかがいっぱい載った、スペシャルなヤツじゃねぇ?」
「いえ、もしかしたら意表をついて、パフェとかもありそうですよ! 右がチョコレートパフェで、左がフルーツパフェ。プリンとかが載っているもいいですよね!」
ふっおっ♡
何気なく返事をしたら、ケータが我の言葉にのって来てくれたぞい♡
こ、これはこれで、楽しい♡
女勇者よ、ありがとう♡
一気に、心が浮き立ってきおったぞ。
さて、どうなるのかと、ケータと二人(重要ポイント♡)、モニター内の行末を見守る。
女勇者は慎重に近づいていくが、やはり射程から外れた距離で、再び立ち止まる。
女勇者の剣先が、鎧モンスターへと向けられた。
豪華にしつつもワンパターンのかき氷にするのか、それとも目先を変えて、乙女的スイーツであるパフェを提供するのか。
我も、ドキドキしてきたの。
「ミルクバー! チョコバー!」
ふぁっ!?
な、なんと、まさかの、グレードダウン!?
第一階層のボスを、安っぽいアイスバーに変化させるとは。
女勇者め、やりおるわ。
「まさかの、アイスバー! やるな…………!」
「ですね!」
ケータが女勇者に感心しておるのは気に食わんが、同じことを感じておったのは、嬉しいの♡
これも、乙女心じゃの~♡
女勇者は悠々たる足取りで、もはや物言わぬ安っぽい巨大アイスバーへと姿を変えた元ボスモンスターへ歩み寄ると、剣の先で軽々と左右になぎ倒す。
「モンスターを菓子に変える魔法か……。倒すばかりが勇者じゃない。こういう、平和的な解決法もあるんだな。勉強になったぜ、女勇者リンカ」
「そう……ですね?」
いや、ケータ?
何か違うと思うぞ?
見た目がファンシーになっただけで、手段が少々違うだけで、倒したことには違いないと思うぞ?
モンスターたちも、モンスターとしての生は強制終了させられているわけで、平和的、とは違うと思うぞ?
あー、じゃが、そうか。
意表を突かれすぎてうっかりしておったが、あれも一応、ちゃんと倒したことになるのじゃから、経験値とコインを与えねばならんの。
こういうところは、フェアにいかねばならん。
ということで、女勇者は見事レベルが上がったわけじゃが、なぜそんなに不服そうな顔をしておるのじゃ?
ああ、ステータス画面を見ることが出来ないから、レベルが上がった実感がないのかもしれんのう。
しかし、そもそもじゃ。
おぬしに、レベルアップなんぞ、必要あるのか?
モンスターをお菓子に変化させる魔法。
あれは、見た目はファンシーじゃが、ある意味究極のチート魔法ではないか?
モンスターにはそれぞれ、炎に弱いとか氷に弱いとか弱点があり、逆に炎に強いとか氷に強いとかの耐性というものがあるのじゃが、耐性なんぞお構いなしの万能魔法ではないか。
うーむ。
それでは、見ていても面白くないであろうが。
まあ、次はどんなお菓子にするのかという楽しみはあるが。
ふむ、よし。
第一階層では氷菓ばかりで、ちと飽きたしの。
第二階層は、本来ならばマグマが噴き出したりする罠のあるフロアだったんじゃが、予定を変えてみようかの。
自分の時と全く同じでは、ケータもその内飽きてしまうかもしれんしの。
お次は、雪のフロアじゃ。
さすがに、次も氷菓というわけにはいくまい?
雪原に氷菓とか、まあ、マッチしとらんこともないが、寒々しすぎるであろう?
むふ、女勇者のセンスが試されるのぅ。
さて、女勇者リンカのお手並み、とくと拝見させてもらおうか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます