第11話 女勇者の真の敵?
通路の先の広い空間まであと三メートルというところで、わたしは立ち止まった。
何か物音が聞こえないか耳を澄ましながら、右へ左へと視線を動かし、見える範囲で中の状況を確認する。
圭太くんは、きっと何も考えずに飛び込んでいったのだろうな、と思う。
それは、とても圭太くんらしくて、微笑ましいな、とは思うけれど、真似をしたりはしない。
圭太くんは、自他ともに認めるゲーム少年だけれど、だからと言って、生粋のインドア派というわけでもないのだ。
リアル地下迷宮に挑戦しようなんて思うだけあって、小柄だけど運動も得意なタイプなのだ。
だから、圭太くんなら、物陰から急に何かが飛び出してきても、持ち前の反射神経で何とかしちゃえるのだろう。
でも、わたしには無理だ。
運動は、苦手というほどではないけれど、咄嗟に体が動いたりするタイプではないって、自分で分かっている。
物陰から襲撃を受けたら、間違いなく、やられる。
物陰から変質者もごめんだけれど、物陰から魔物もごめん被りたい。
石橋は叩けるだけ叩け、の精神が肝要だ。
というわけで。もちろん、用心深く盾を構え、剣は前に突き出している。
いつでも、魔法が放てるように、心構えはバッチリだ。
この距離なら、壁の端から突然、何かが現れても何とか対処できる。
気を張りつめながら、ゆっくりと広間を検分していく。
広さは、体育館くらい。
今までの通路や宝箱のあった小部屋とは、少し雰囲気が違っていた。
一言で簡潔に言い表すなら、神秘的。
そして、天然の洞窟を意識している……感じがする。
天井は高く、氷柱のように鍾乳石がいくつも垂れ下がっている。
大小さまざまな鍾乳石は、乳白色に光り輝いていて、これまでの松明の代わりに空間をぼんやりと照らし出している。
森の入り口から地下迷宮へ落された時、体感的には地下一階くらいだと思ったんだけど、高さもしっかり体育館くらいある。
ここに来るまで、通路が下っている印象はなかったのに。
わたしの体感が間違っていたのかな?
それとも、これも魔女の魔法によるもの?
…………だとしても、今さらビビったりなんて、しないけどね。
天井だけでなく、床(と言っていいのか分からないけれど)からも、柱みたいに険しく尖った岩が生えている。
あちらこちらに、小さな水たまりがあったりして、いかにも天然の洞窟っぽい。
なのに、よくできたアトラクション施設感が否めない。
床も壁も天井も完全に整地されていた、これまでの通路ほどじゃない。
でも、邪魔な柱や水たまりがあるとはいえ、やっぱり足元に配慮されすぎているんだよね。
よそ見していたら躓きそうな窪みとか石とか小さい岩とか、そういうのが一切ないんだ。
利用されているお客様が、転んで怪我をすることがないように、みたいな配慮を感じる。
そうすると、もしかして。
あの魔物も、実は危険とか、なかったりする?
本物じゃなくて、ただのホログラム映像だったりする?
もしかして、酔狂なお金持ちが造った新規アトラクション施設の体験を勝手にさせられているだけだったり、しちゃう?
…………いや、でも。
あの宝箱の部屋のウゴウゴネトネトは、本物っぽかった。
それに、例えホログラム映像だとしても、アレに襲われるのは嫌だ。
生理的に受け付けない。
うん。警戒レベルは下げるべきじゃないね。
下手に警戒を解いて、実は本物の魔物でしたみたいな展開になったら、被害が甚大すぎる。
んー、よし。見える範囲では危険はなさそうだな。
物音も、ピチョンピチョーンって水滴が落ちる音くらいしか聴こえないし、気を引き締めつつ進もうか。
剣と盾の構えはそのままで、ゆっくりと足を進める。
入り口の数歩手前で立ち止まる。
剣の先が、入り口ギリギリ、くらいの距離だ。
そして、おもむろに呪文を放つ。
「火炎放射器…………展開」
剣先の炎に意識を集中し、壁際の死角になっているところまで炎が届くように念じながら、それっぽく呪文も付け足してみる。
一応。一応、ね。
すると、狙った通りに火炎放射は、前方だけでなく、左右にも広がっていった。
うーん。もしかして、わたしてってば魔法と相性がいいのかな、なんて思っていたら、左右両方からジュっという音が聞こえてきた。
ふっ。警戒レベルを下げなくて、大正解だったね。
剣の構えは解かないまま、そろりそろりと広間に足を踏み入れてみれば。
左右の四角になっていたところに、コインが一つずつ落ちていた。
また、それか。
眉を顰めつつ、無視して通り過ぎようとしたのに、チャリンチャリーンという音と共にコインは姿を消した。
勝手にわたしの持ち物にされたような、嫌な感覚が背筋をゾゾゾと伝いあがっていく。
ちょ! その、どう使ったらいいか分からない、魔物の体内から出てきたコイン!
勝手にわたしの持ち物にするの、やめてくれる!?
正直、魔法が効いてくれる限り、魔物を倒すのは思ったよりも簡単そうなんだけど、その度に、勝手にこの鳥肌感覚を味わわされるのかと思うと、心が萎える!
はっ!
もしかして、これは魔女の嫌がらせ?
もしや、魔女のヤツ。わたしの恋心に恐れをなして、地味な嫌がらせを仕掛けているんじゃないでしょうね?
おのれ、姑息な。
だけど、魔女の思う通りにはさせない!
わたしは、鳥肌なんかに屈したりしないんだから!!
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