第10話 我が闇落ちなんてするわけないじゃろ?

 か、可愛げがない。可愛げがない。可愛げがない。

 いやの? 我は別に、女児に可愛さは求めておらんのだが。

 それにしたって、可愛げがないであろう!


 なぜ、あやつは、あんなに冷静なのじゃ?

 そんなに用心深いのじゃ?

 わざわざ、剣を利き手じゃない方に持ち替えてから、剣先で宝箱の中に罠が仕掛けられていないかの確認をしておる!

 おまけに、その間、左手に持っていた盾は膝の間に挟んでおるし!

 地面に置いたからって、モンスターに奪わせたりせんわい!

 突然、消えたりせんわい!

 ついでに言えば、初めての宝箱に、そんなにネチこく罠を仕掛けたりしておらんわい!


 我の接待地下迷宮を何だと思っておるのじゃ、この娘は!

 いや、接待地下迷宮だとは公開はしておらんのじゃが、それにしてもじゃ!

 もっと、こう。

 遊園地のアトラクションに挑戦してみた的に、無邪気に楽しまんかーい!


「あ、あれが、プロの女勇者のやり方…………! たとえ、序盤でも油断しちゃいけないってことか」


 ケータは、なんぞ、感心しておるしぃ!!

 で、結局、アイテムは持って行くんかい!

 しょぼっ、みたいな顔しておいて!

 まあ、ええわい。持って行くがよい。

 …………のは、いいが。

 通常であれば、アイテムもコイン同様、ステータス画面で管理できるのじゃが。

 この娘、ステータス画面を活用しておらんからのう。

 まさか、スカートのポケットにでも入れるつもりか?

 仕方がないのう。ほれ、どうじゃ。バックを用意してやったぞ?

 むふ。我にかかれば、まるで最初から持っていたかのように、肩に斜め掛けした状態でバックを出現させることなぞ、造作もないわい。


 デニムのシンプルバックに、鳥居のキーホルダーがよく映えておるの。

 あのマークは、割とお気に入りなんじゃ。営業も兼ねているがの。

 実は、森の傍にある姫ケ丘神社は、魔女の一族の関係者が経営しておるのじゃ。

 人に憑いた穢れの相談窓口となっておってな。

 神社で依頼を請け負って、我がそれを祓うことで、謝礼をもらっておるのじゃ。

 神社のお賽銭なんかも、我の活動資金の一部になっておる。

 我の好みでない男児や女児にとっては、最終的にこの冒険は夢落ちということになるのじゃが、鳥居マークの記念品が何か一つ手元に残るようにしてあるのじゃ。

 姫ケ丘神社の神様が、夢とはいえ願いを叶えてくれたのかも、とか思ってお賽銭を弾んでくれたら、我の懐が潤うじゃろ?


 ん? 子供の財力など、高が知れてるじゃと?

 ふん、甘いわ。今は子供でも、いずれは大人へと退化するであろう?

 それに、塵も積もれば山となるじゃ。

 元が取れていないのではじゃと? ふんっ、アホか!

 地下迷宮は金儲けのために造ったのではないわい。

 我の目的は、ダーリン(使い魔)を手に入れることじゃぞ?

 ダーリン候補ではないモニター達からのお賽銭など、ほんのおまけのお小遣い稼ぎじゃ。

 それに、鳥居のマークを仕込むくらいは、大した手間ではないしの。


 さて?

 女勇者リンカは、バックを見つめながら、何やら固まっておるのう?

 さすがに、これには、驚いたのであろう。

 ケータなら、突然、バックが現れたことに気が付かずに、最初から持っていたと勘違いしそうなところであるが。

 というか、ケータはモニター越しに、バックが現れるところを見ていたはずなのに、まるで気づいておらんようだのう。

 うむ。よいと思うぞ。我的には、大変好ましいと思う♡


 女勇者リンカの方は、しばし考えた末、手に入れたばかりのアイテムを、大事そうにバックの中に仕舞い込みおった。

 ただ放り込んだりせずに、中でガチャガチャ暴れないように、ちゃんと内ポケットを活用しておる。

 鳥居キーホルダーを見て微妙な顔をしたのは、デザインが気に入らなかったからなのか、それとも。

 魔女の施しを受けることを厭うたのか……。


 いや、しかし。最初に用意した剣と盾は、ちゃんと使っているしのう。

 ありもしない仕掛けが発動してなくならないように、片時も手放さない気の使いようだしのう。

 うーむ。霊的能力が高いのは確かなのじゃが、単に思っていることが顔に出ないというだけなのか?

 まあ、かなりの慎重派なことは、間違いないと思うが。


 う、うーむ?

 うっかりケータにつられて、じゃ。

 リンカが頑なにステータス画面を開かないのは、あやつが真の女勇者だからこそ、なのか?

 などと、チラリと思ったりもしたのじゃが。

 つまり、あれじゃ。

 プロの女勇者の矜持にかけて、魔女の地下迷宮なんぞ、己の力だけで攻略してくれる、的な。

 そんなことを、うっかり、チラッと思ったりもしたんじゃが。

 もしかして、そうではなくて、本当に単純に、この娘――――。


「ゲームをしたことがない…………? じゃから、ステータス画面の存在に気付いていない、のか?」

「え?」


 はーう! しまった! 声に出してしもうたー! しかも、地声!

 あ♡ じゃが、久しぶりにケータが我に注目してくれておる♡

 ど、どうじゃ? ケータ?

 白ワンピを、適度に姫仕様にして、頭には鮮やかな花冠なぞ、載せてみたのじゃが?

 どうじゃ? どうじゃ?

 見とれてくれて、構わないのじゃぞ?

 存分に、鼻の下を伸ばしてくれて、構わないのじゃぞ?

 むしろ、大歓迎じゃぞ?

 期待を込めてケータを見つめ返す。

 じゃが、ケータが我に注目したのは、ほんの一瞬のことじゃった。驚いた顔で我を見た後、またモニターの中の女勇者リンカへと視線を戻したのじゃ。


 ………………ケ、ケータァアアアアアアアアアアアア!!!!

 なぜじゃぁあああああああああああああああああああ!!!!


「そうか! 本当はゲームがやりたいのに、親が厳しくて、家ではやらせてもらえなかったんだな! だから、地下迷宮の噂を聞いて、だったらリアルで攻略してやれ、と。そういうことなんだな、大空凛香!? そういうことなら、応援するぜ、大空凛香!! いや、女勇者リンカ!!」


 こ、拳を握りしめて滾っておる~~~~!!!

 ど、どどど、どうしよう!? どうしたらいいんじゃ!?

 女勇者リンカと二人で協力して地下迷宮を攻略したいから、あの娘のところまで連れて行ってくれとか言われたら、どうしたらいいのじゃ?

 攻略を終えた二人が、ダブル勇者として、手と手を取り合って世界中の地下迷宮を攻略して回るために旅立ったら、どうしたらいいんじゃ?

 我の魔法で、二人に協力してくれとか言われたら、どうしたらいいんじゃ?

 我の魔法は、そんなことのためにあるのではないというのに。


 ああ、もう。そうなったら、いっそ我自身が、姫ケ丘の地を脅かす穢れそのものとして地下迷宮の真のラスボスとして君臨してやろうか?

 姫ケ丘の地を、穢れで覆いつくしてくれようか…………?


「なあ! おまえがおれにしてくれたみたいに、おれたちで、あいつの冒険をサポートしてやれないか! あいつ、成績はいいし優秀だから、一人でもなんとかしちまうかもしれないけどさ。でも、ゲームの知識は、あんまりないみたいだし、少しでもあいつがこの冒険を楽しめるように、応援してやりたいんだ! お約束のルールとか、知らないだろうから、ヒントを書いた看板とか用意したりしてさ。なあ、おまえなら、出来るんだろ? 頼む、協力してくれよ!」

「も、もちろん……でしゅ!」


 はぅうううう! しまった、噛んでもうた。もちろんじゃ、と言いそうになったのを慌てて軌道修正したら、噛んでもうたー!

 いや、でも、これはこれで、可愛げアピールになるか? なるか?

 はわわわー。ケータがキラキラのお目目で我を見ておる~♡

 我に、頼むって! 協力してくれって!

 は! そうじゃ!

 使い魔(婿)の契約が済んでからと思って、我、まだ名乗ってなかったのじゃ。

 パートナーとなるからには、やはり、名前で呼び合わねば♡

 じゃが、契約前の相手に名を告げることは、魔女の掟で禁じられているからの。

 仕方がない、ここは、一門の名称であるリリィと名乗っておこう。

 モルガという真の名は、契約終了まで、お預けじゃ。


「ケータ、私のことは、リリィって呼んで? パ、パートナーとして、ちゃんと名前で呼んでほしいの」

「分かった! よろしくな、リリィ!」

「はい! 姫ケ丘地下迷宮のダンジョンマスターとして、二人で頑張りましょう!」

「おう!」


 き、来た~~~~~~~!!!!

 モルガじゃなくてリリィ呼びなのは、ちと残念じゃが、それは後のお楽しみよぅ!

 必ず、モルガと呼ばせてみせるのじゃ~!


 むっふふ♡

 今、確かに、フラグが立ったのじゃ。


 『二人でダンジョンマスター♡』フラグが。

 

 燦然と立っておるのがはっきりと見える!

 むふ♡ むふふ♡

 まずは、一歩前進じゃ~♡

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