第7話 初めての魔法☆
ど、どどどどど、どうしよう!?
どうすれば!?
どうすれば、この状況を切り抜けられるの!?
ダメだ! さっぱり、思いつかない!
あの推定スライムが、むやみに襲い掛かってきたりしないで、その場でウゴウゴネトネトしてるだけなのが、せめてもの救い!
でも、いつ活動を始めるか予測不能だし、早めに、早めに手を打たねば!
てゆーか、これ。
めっちゃダッシュかましたら、ワンチャン逃げきれない?
いや、でもでもでも。
背中を見せたとたんに、襲い掛かって来られたら!?
背中にベチャッとか貼り付かれたら!?
大打撃が過ぎる!!
それくらいなら、剣を汚した方がマシだ!
あー、もう!
なんで、ここ、こんなに無意味に整備されてるの?
石とか岩とか落ちててくれたら、拾って投げつけてやるのに!
なんもない!
本当に、なんもない!
なんか、なんか、ないの?
なんか…………あ!
思い出した。勇者は確か、魔法が使えるはず!
のは、いいけど、どうやって使うの?
呪文とか、唱えればいいの?
でも、なんて?
チチンプイプイとか、痛いの飛んでけ、とかではないよね?
説明書! 勇者の取り扱い説明書は? どこにあるの?
盾の裏とかに、あんちょこみたいに書いてあったりしないの?
チラッと視線を走らせてみた…………けど、そんなものはなかった。
気が利かない!
おのれ、魔女め! なんて、出来ない女なの? 気遣いが足りない!
ヒント。
なにか、ヒント。せめて、ヒントない? ヒント!
剣と盾を突き出したまま、推定スライムを気にしつつも、忙しなく視線を彷徨わせる。
といっても、推定スライムと宝箱と、土壁と土床と土天上と!
あとは、松明しか…………はっ!
松明! 炎!
炎の魔法って、鉄板じゃない?
よし! 炎で焼き払おう! 決定!
ライター、線香、ろうそく……いや、違うな。もっと火力が強いヤツ。
…………バーナー?
いや、それだと、焼き払うというより、スライムの炙り……?
うん、違うね。
そうじゃなくて、もっと、なにかないの?
なにか、なにか…………あ、あった! これだ!
よし、行け!
「火炎放射器!!」
剣の先を推定スライムに向けて呪文を叫ぶ。
すると、剣の先から赤い炎がゴオッと吹き出し、推定スライムに襲い掛かった。
ピキュッともプキュッともとれる、音が聞こえてきた。
悲鳴なのか、炎で縮む音なのかは不明。
ここは、断末魔ってことにしておこうか。
推定スライムは、あっさりと燃え落ちていった。
煤とか燃えカスとかは残っていないのに。
そして、なぜか推定スライムがいた場所に、一枚ずつ真新しいコインが落ちている。
……………………?
えーと、あのコインは、あのブヨブヨの中に入っていたってこと?
あ、そういや、宝箱はどうなったの?
推定スライムのすぐ真後ろにあったけど、焦げたり溶けたりしてない…………みたいだね。
安っちいプラスチックで出来てそうな宝箱なのに、無傷だよ。
もしかして、安っぽいのは見た目だけで、熱に強い新素材だったりする?
だとしたら、この宝箱自体がお宝なのでは?
もう特許とか取得済みなんだろうか?
まだなら、何処かの研究施設とかに持ち込んだら、お金になったりする?
それとも、わたしが知らないだけで、すでに実用化されてたり?
プラスチック業界には詳しくないから、分からないな…………。
じゃない!
落ち着け、凛香!
ここへ来たのは、トレジャーハンターとして金儲けをするためじゃない!
そう、今のわたしは女勇者。
ケータ君を、魔女から救うためにやって来た、女勇者なんだから!
初志貫徹しないと!
宝箱本体じゃなくて、中身!
中身を確認しないと!
この先、役立つものが入っているかもしれないからね。
あんまり、気は進まないけど、それでもね。
一応、中身は確認しとかないと。
拾うか捨てるかの判断は、中身を見てからよ。
ふー。
念のため、もう一度天井を確認してから、そろりと前へ進む。
この部屋でのイベントは、あれで終了なんじゃないかと思うけど。
でも、あんなのが頭の上に降って来られたら、たまったもんじゃないからね。
あー。やっぱり、安全ヘルメットが欲しいな。
あ、でも、ヘルメットじゃ頭は守れるけど、流れ落ちてきたネトネトが肩とか背中を汚す可能性があるな。
となると、まずは、傘?
んー、でも宝箱のサイズは横幅三十センチから四十センチほど。
傘は無理……いや、折りたたみ傘ならイケるな。
それで、このコインは一体、なんなの?
宝箱の手前の、コインの前で立ち止まった。
ああ。そういえば、ゲームでは魔物を倒すと、その世界でのお金が手に入ったりするんだっけ?
なんで、魔物がお金を持ってるのか分かんないけど。
人間を食べたら、人間は消化できたけど、人間が持っていたお金は消化できなくて、体内に残ってしまったとか?
つまり、お金をたくさん持っている魔物はそれだけ多くの人間を……いや、待てよ?
数は少なくても、偶々お金をたくさん持っている人間に当たっただけという可能性もあるな。
どっちにしろ、この地下迷宮にいる魔物が落とすコインは、魔女の仕込みっぽいけど。
だって、キャラメイク用のノートパソコンの画面にも現れた鳥居のマークが刻まれてるし。
これを使って買い物が出来るような、何かのお店の地下迷宮支店が、後々現れるってことなの?
役に立つとしても、あんまり拾いたくないな。
汚れてはいないけど、あのネトネトウゴウゴな推定スライムが体内に隠し持っていたコインってことだよね。
つん、と剣の先でコインを突いてみる。
眉間にしわが寄るのは、仕方がないというものだ。
裏側はどうなっているのかと剣の先でひっくり返そうとしたら、チャリーンという音が響いてコインが消えた。
は? どういうこと?
なんだろう。背筋がゾワゾワしたんだけど?
欲しくもないのに、無理やりわたしの持ち物にされたみたいな、嫌な感じ。
頼んでもいないのに、余計なことをされた感じ。
頼んだことだけ、して欲しい。
それとも、これも嫌がらせの一環なの?
わたしが、ケータ君を助けに来たことに気付いて、地味な嫌がらせをしようと?
おのれ、姑息な手段を使ってくれる!
だけど、こんなことで、わたしの心は折れたりしない!
それに、考えようによっては……。
地味とは言え、嫌がらせをしてくるということは、魔女はわたしという存在に脅威を感じているということ。
わたしの火炎放射魔法に恐れおののいて、こんな嫌がらせを仕掛けてきたとも考えられる。
ふっ。さすが、わたし。
もしかしたら、女勇者の素質があるのかもしれない。
まあ、この地下迷宮を出たら、なんの役にも立たないけど。
…………あ!
でも、待てよ。恋の役には立つかもしれない。
女勇者って、ケータ君の好みのタイプかなぁ?
強すぎる女は、嫌われちゃう?
んー、でもでも。ケータ君は、魔法よりも剣を振り回す方が得意そうだし。
お互いに、痒いところに手が届き合う関係じゃない?
「魔法はわたしに任せて! でも、魔法が効かない相手は、ケータ君、お願い! 頼りにしてるから!」とか。
すごくよくない?
お互いがお互いの足りないところをカバーし合う。
いい! 悪くない!
早いところ、ケータ君を助けて、二人で協力して魔女を打倒したい!
二人で冒険できるなら、地下迷宮も悪くないかもしれない。
…………………しかし、魔法が効かない敵か。
この先、出てきたりするのかな?
それを考えると、ウキウキ気分も萎んでくる。
まあ、その時はその時で何か考えよう!
大丈夫! わたしなら出来る!
女勇者になり切るんだ!
ケータ君のために!
よーし、まずは宝箱っと。
鍵とかはかかっていなさそうなので、剣の先で、そろっと開けていく。
びっくり箱みたいに、中から魔物が飛び出してきたりはしなかった。
ちょっと、一安心。
さて、肝心の中身は…………。
「栄養ドリンクと、チョコバー?」
おい、魔女。舐めてんのか?
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