第4話 本物の女勇者
大空凛香。
姫ケ丘中学校の二年生。
ケータと同じクラスの女児、か。
今のところは、ただのクラスメートにすぎないようじゃが、油断は禁物じゃ。
自分と同じ境遇となったことにシーンパスィーを感じて、二人の間に発展してはならない何かが発展してしまう恐れがある!
そんなことは、断じて認められん。
それでは、本末転倒じゃ!
我は、恋のキューピッドなどではない!
我は、恋のハンターなのじゃから!♡!
じゃが、追い払うにしても、もっともらしい理由が必要じゃ。
ケータに余計な不信感を植え付けてはならんからの。
くっ。しかし、せっかくいい雰囲気に盛り上がっておったのに、邪魔をしおってからに!
一度、壊れてしまった山場を再び築き上げるのは、なかなか骨が折れるのじゃぞ!?
なんとか、このハプニングを、我とケータの絆を結び付ける方向に活用できる、いい案はないものか…………。
しかし、それにしてもこの娘。
いやに、落ち着いておるのう?
ケータの前にも何人か、モニターとしての挑戦者がいたのじゃが。
こういう反応は、こやつが初めてじゃぞ?
地下迷宮に挑む資格があるような男児や女児は、噂が本当だったことに驚き、喜び、瞳をキラキラさせて興奮したものじゃが。
ケータなぞ、握りこぶしを突き上げて、雄叫びをあげておった。
それはもう、涎で世界を滅ぼすレベルの洪水が起きそうなほどに、愛らしい姿であった。
だというのに。
この娘、冷静すぎる。
喜ぶでも不安がるでも怖がるでもなく、冷静に周囲を確認し、キャラメイク用のノートパソコンに注目している。
地下迷宮を冒険するつもりはあるらしく、ナビ音声に従って、キャラメイクを進めてはいるが。
淡々としすぎではないか?
「お? 名前は、本名を使う派か。おれと一緒だな。性別も、自分と同じにする派か。ジョブは何を選ぶんだろうな?」
ケータなぞ、他人のキャラメイクにすら目を輝かせているというのに。
あうん。近くで鑑賞できるのは嬉しいのじゃが、自由にニヤけたり、涎を垂らしたりできないのが難点じゃなー。
「お? 名前と性別まではサクサク迷いなく進んだのに、ジョブ選択はやっぱり迷うよなー。分かる、分かる」
うむ、うむ。
ケータは、実に楽しそうに迷っておったのー。
リアル地下迷宮を冒険と思わせて、ノートパソコンでキャラメイクをさせることで、
「え? もしかして、地下の小部屋で地下迷宮探索系のPCゲームをするだけなのか?」
と思わせておいて、ガチのリアル地下迷宮への冒険が始まるという演出のつもりだったんじゃが。
何の疑問も抱かずに、嬉々としてキャラメイクに励んでおった。
今までのモニター達も、入り口があったことの興奮の方が勝るのか、単にちとおバカなだけなのか、皆似たような反応じゃったのー。
じゃが、このキャラネーム・リンカは、ノートパソコンを見て怪訝そうな顔をしておった。
むふふ。これは、本格的に地下迷宮への扉が開かれた時の反応が、少し楽しみじゃの。
喜んでもらえるのは嬉しいのじゃが、意図した通りの反応が返ってこないのは、ちと寂しいからの。
せっかく仕掛けたのじゃ。
思惑通りに、引っかかる姿も見てみたいからの。
うむ。もうしばらく、このまま様子を見守ることにしようかの。
ケータも観戦を楽しんでおるようじゃし♡
我は、そんなケータを観戦して楽しみたい♡
「お? 魔法剣士か。手堅いよなー。…………おお!? まさかの踊り子!? もしや、あいつ、相当な手練れなのか!? いや、やっぱり忍者? ふーむ、なかなか通だな。…………と、見せかけて、本命は勇者かー!? ……うん、うん。分かる、分かるぞ。初めはやっぱり、勇者気分を味わいたいよな!」
ケータはキラキラと瞳を輝かせながら、空中モニターに見入っている。
自分の時のことを思い出しているのか、途中でうんうんと頷きながら、モニターに映し出されたリンカが、職業を選ぶたびに反応を返している。
最終的にリンカとやらは、ケータと同じく勇者を選んだ。
しかし、この娘。やはり、何か違和感がある。
ケータやこれまでのモニター達は、どの職業にするのか悩むこと自体を楽しんでいた。
じゃが、この娘は、悩むというよりも、どれが一番、最適なのかを吟味しているだけ……のように見える。
地下迷宮を攻略してやる、という強い意思と熱意は感じる。
感じるが、リアル地下迷宮の冒険を楽しむぞー、というワクワクした気持ちが微塵も感じられないのじゃ。
なんというか。まるで、使命を帯びたリアル勇者のような眼差しをしておる。
どういうことじゃ?
クールなふりをして実はゲームが大好きな中二女子ではないということか?
モニター内では、ちょうどテーブルの上のノートパソコンが消え、女勇者の初期装備が現れたところじゃが。
………………。
ケータたちはみな、我の仕込んだ魔法に大興奮じゃったのに!
この娘ときたら、この娘ときたら! 鼻で笑っとらんかったか! 今!
我は見たぞ!
「女勇者リンカの誕生か。しかし、あいつ、冷静だなー。もしかして、クールな女勇者って設定なのか? キャラメイクの段階から、キャラになり切ってるってことか?! やるな!」
ちょ? ケータ?
気を確かに! そして、ちゃんと現実を見るのじゃ!
あれは、クールを演じているのとは違うと思うぞ?
絶対に、あれが素じゃぞ?
我が用意した装備品を、小馬鹿にしておったぞ?
あれが、あの娘の本性ぞ?
感心するところと、違うぞ?
あー、うー。
今すぐにでも、あの娘を森の外へ放り出してやりたい。
もちろん、入り口を見つけてからの記憶は奪ってからじゃ!
くっ。じゃが、ケータはすっかりあの娘の冒険を応援するつもりでいるようじゃし、どうしたらいいんじゃ。
これが、女児ではなく男児だったら!
ラスボス戦仕様の、岩と水晶でごつごつした味も素っ気もない地下大空洞っぽい部屋から、ファンシーに飾り付けた我の自室へと案内し、男児の好きそうな菓子とジュースでもてなして、二人仲良くリアル冒険鑑賞会と洒落込んだのに。
心穏やかに、鑑賞会を楽しめたのに。
女児というだけで、こうも心が乱される!
応援している内に、あの娘への恋心が芽生えるようなことだけは、断固として阻止せねばならん!
「うおっ! すげえ! おれが度肝を抜かれた、いっちゃん最初の入り口の仕掛けにも、全っ然、動じてねぇ! 女勇者リンカ。あいつ、本物かもしれない……」
き、きぃいいいいいいいいい!
ま、また、小賢しくもケータの気をひきおってからにぃいいいいい!
この悪女! 女狐め!
しかも、しかも!
ケータの言う通り、我の仕掛けにも無反応!
いや、無反応とは言わないが、期待してたのと違う!
慌てず、騒がず、かかってこいやな決意を滾らせておる!
おまえは、本当に本物の女勇者か!?
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