2120年/7月6日 趣味

 土曜日、それは学生にとって日曜日と大差ない休日。なんなら明日も休みと言うことから日曜日よりも幸福度は高いかも知れない。

 かく言う俺も割と土曜日は好きだ。


「よ〜し、今日もやってくぞ〜」


 毎週土曜は彰人とゲームだ。

 燈は部屋が別々になった辺りから一緒にやらなくなった。

 まあ、何してるのかは分かってるんだがな。

 ゲーム中は身体は寝てる訳だから部屋に入り込んで一緒に寝てたりする。

 ゲーム終わって戻った時に顔が凄く近くにあった時には追い出して鍵閉めようかなと思ったが、ちょっと引くくらい泣き喚いたから仕方なく見過ごしたり、まあ、俺の身体で何やら楽しんでるみたいだな。

 こっちはこっちで彰人が俺の仮想の身体で楽しんでるがな。


「冬夜ってマジでなんでも出来るよな」

「ゲームはあまり得意じゃないが?」

「これだけ長くやってれば十分上手いし強いわ。何より、俺が防具で遊んでも平然と勝ちやがる」


 コイツ、俺のアカウントが昔作った女のアカウントだからって防具の見た目だけで防具を選んでるから防御力がヤバいんだよな。

 数年でインフレして彼シャツとか言うイベント防具も今じゃ産廃性能だし。


「やっぱりアレだなぁ、ベースがイケメンでf女体化すると超美人になるよな」

「それはイケメンのタイプによるだろ」

「冬夜はスタイリッシュなタイプだからな。もう美人過ぎて普段顔合わせてるのに照れちゃいそうだぜ」

「何故照れるのかしら。もしかして欲情してるの?気持ち悪い、少し離れて歩きなさい」

「やめろ!女の姿で女言葉を使うな!」

「こう言うの好きだろ?」

「好きだけどね!?学校で顔合わせづらいわ!」


 彰人はちょっとMだ。

 ドMという訳じゃないんだが、どちらかと言うとMだ。

 あまり関係無いんだが、Mってあまり悪い奴って印象無いよな。

 悪い奴って大抵Sかサイコパスのイメージだ。

 基本的に受け止める側、受け入れてくれる側と言えば何となく良い奴感あるだろ?

 同じ感覚でSの事を言うと、基本的に押し付ける側、周りは自分を受け入れさせる側みたいな感じで何か嫌な奴感が強くなる。


「全く」

「そもそも俺を着せ替え人形にしてる奴に言われたくないんだが」

「それはそれ、これはこれだ」

「公衆の面前で羞恥プレイさせられる俺の身にもなれよ」

「お前全然気にしてねぇじゃん」

「そうだな。それと、さっさと行くぞ」


 冬夜達はクエストに出発し、道中に出てくるモンスターも狩りながら進んで行く。


 慣れたなぁ。


 この日は彰人のコーディネートで、ザ・天使みたいな白いワンピースの様な服に天使の翼と光輪と言う完全なる趣味防具である。

 光輪は光るだけで防御力はゼロ。

 服装は多少防御力とアビリティがあるものの、あくまで趣味のレベル。

 翼は屋外マップなら常時飛行可能と言う便利なアビリティが付いているものの、当たり判定増加というデメリットが非常に大きく、翼に攻撃が当たっても大ダメージになりかねないと言うネタの装飾品防具。

 その上、武器まで指定されている為、冬夜にかなりの負担がある防具である。


「武器はカッコイイし強いから良いだろ?」

「アホか。左手にしか装備出来ない燃えてる細めな大剣武器って扱いづらさMAXだろ」

「冬夜両利きじゃん」

「片手で大剣使うのは利き手とか関係ないわ」


 冬夜はそう言いながらもあまりにもリーチが長い大剣判定の燃え盛るロングソードを振り回してモンスターを切り伏せていた。


「ホント器用な、お前」

「俺は最強だからな」

「燈ちゃんがよく言ってたなぁ」

「これ、俺が5歳とかの時に言ってた事だからな」

「燈ちゃん1歳でまだそれ覚えてんの凄すぎないか?」

「燈は天才だからな」


 最近変態なんじゃないかと疑ってるが、まあ天才には違いないだろう。

 バカと天才は紙一重って言うし、凡人には分からない奇行にも何かしらの意味があるんだろうな。

 ただのブラコンである可能性が高い事に目を逸らしながらそんな事を考えることがたまにある。


「昔っからブラコンなんだなぁ、燈ちゃんは」


 身近に自分に優しくしてくれる人間が、俺しか居なかったからなんだろうけどな。


「さて、ついた」

「やっぱり結構人集まってんなぁ」

「なんかのイベントか?」

「まあな。本当は燈ちゃんにも手伝って欲しかったんだが、仕方ないよな」

「呼ぶか?」

「いや、2人でどのくらいやれるのかもちょっと気になるし、やるだけやってみようぜ。そらに、何も完全に見た目だけってわけじゃないんだぜ?その防具」

「ダンジョンに入った瞬間に翼が的になるんだが?」

「その剣、体力が減れば減るほど威力が上がるアビリティが付いている。低防御なら活かしやすい」

「お前なぁ、痛覚あるゲームで被弾しろってか」


 このゲームはリアル程じゃないが、痛覚が反映されているため、ダメージを受けると普通に痛いのだ。


「それだけじゃないぞ?セット効果でHPバーが赤になったら見た目が黒い天使に変わって、防御力がゼロになる代わりに攻撃力が上がる」

「お前は俺にダメージを与える気満々なのかよ」

「昔あっただろ?ネコ鍛冶場」

「HP10%以下でってやつだろ?まあ良いけどな、自分の身体動かすだけだし」


 個人的には効率的に敵が倒せるならそれで良いんだが、普通にダメージ受けたら痛いんだよな。


「よし、行くぞ、ボス攻略だ!」

「はぁ」


 彰人と冬夜は他のプレイヤーに混じってレイドボス攻略に参加する。

 彰人はともかく冬夜はゲームだから目の前にいる敵を取り敢えずぶった斬ると言うとても単純な思考で参加している為……。


「アイツあの体力でよくあんなに突っ込んで行けるな……」

「ネタ防具だし」


 中々目立っていた。


 ダンジョンに入ってすぐに自決用のアイテムと、即死ダメージを受けたら一回耐えるアイテムを併用して体力1にされたが、案外なんとかなるもんだな。

 武器のリーチが長いから一方的にぶった斬れるし。


「いやぁ、楽だなぁ」

「アレ、アンタのパーティメンバーだろ?大丈夫なのか?」

「問題ない。アイツ人間としてのスペックが桁違いだから。うんうん、左手に炎の剣を持つ天使。昔の映画の再現っぽくて良いな」

「お前も戦え。お前から斬るぞ」

「そんなもんで斬られたら体力全損するわ」


 冬夜が待たされている武器はこのゲームでも最強クラスの攻撃力を持っている上に代償強化待ちの最前線武器である。

 装備などのアビリティも重なり、今の冬夜の攻撃力はチートを疑われるレベルの破格の数字になっていた。

 そんな攻撃力だけチートステータスになっている冬夜の突撃で道中の雑魚モンスターが消滅し、あっという間にボスエリアまで来てしまった。


「よ〜し、俺も働くとしますかね〜」

「やっとか」

「まあ戦うのはお前だけど」

「斬るぞ」

「装備見て気付けよ。今回俺はサポーターなの、バフをばら撒くタイプなの」


 彰人はそう言って冬夜の攻撃ステータスを更に強化し、代償強化系のサポート魔法も使っていく。


「おい、心もとない防御力すら無くなったぞ」

「どうせ当たったら死ぬんだから同じだろ?」

「お前、月曜覚えてろよ」

「やなこった」


 ボス部屋に入り、レイドボスとの戦闘が開始される。

 他のプレイヤー達は早速ボスに弱体化魔法を使って防御力などを下げ、戦いを有利に進めようとする。


 全く、俺がゲーマーじゃないからって適当な作戦押し付けやがって。

 このゲームデスペナルティ結構重いんだぞ?


 冬夜はその剣を構えてスキルを発動させる。

 その剣で使えるスキルはただ一つ、強制的に死亡する代わりに攻撃力の100倍のダメージを与える1ヒットの斬撃である。

 今現在、冬夜の攻撃力は極めて高い状態であり、そのから100倍という事もあり、冬夜がバスに突っ込んでそのスキルを叩き込むと、ボスのHPバーが全損した。

 そして冬夜のHPバーも全損した。


「はぁ!??」

「よし!」

「いやよしじゃないだろ!?パーティメンバー死んだぞ!?」

「元からそういう作戦だ」

「おまっ……彼女さんじゃねぇのかよ」

「ちげぇよ、そもそもアイツ自分を女体化させただけの男だ」

「男だと……」

「ああ、男の娘だ」

「なるほど、業が深いな」

「女のアバターにしたのはアイツだ」


 このゲーム、異性のアバターを使うと筋肉量や体重の変化などによってリアルに影響が非常に出やすい為、ネカマが少ない。

 更に言うと、極めてリアルに作られているゲームである為、長くネカマをやっていると人格にまで影響を及ぼし、リアルで酷い目に遭う人が一時期続出したことでネカマは絶滅危惧種なのだ。リアルオネエは少し増えた。

 よって、冬夜のように女のアバターしか持っていない男は非常に稀である。

 そして、そんなプレイヤーは男の娘扱いで何故か男性プレイヤーにチヤホヤされやすいのだ。




 全く、酷い目にあった。

 アイテムとスキルで体力減ったから痛くはないんだが、デスペナルティで1ヶ月ステータス1になっちまった。

 デスゲームって訳じゃないが、最早デスゲームと言っても良いだろ。死んだも同然だぞ。


「おつかれ〜」

「何がおつかれだ」

「お?やるか?ステータス1で何が出来る」

「ハラスメント」

「ごめんなさい」


 女性の特定の部位に接触したりするとハラスメントコードが発動し、女性側の対応次第でアカウントが凍結されてしまうのだ。


「ずっと思ってたんだが、お前が俺にこんな格好させてるのはセクハラじゃないのか」

「装備を渡す事は出来ても、勝手にパーティメンバーの装備を変える事は出来ないからだろ?俺が着て欲しいって言う要求をお前が快諾しているんだから」

「快諾はしてねぇよ。まあ、普段着ないし、着れない服だから良いけどな。新鮮味がある」

「女物の服を新鮮味だけで着れるお前の感性が凄いよ」

「退屈してる人間にはちょうど良いのさ。それじゃ、またな」

「おう、また月曜な」


 冬夜はログアウトし、意識が自分の部屋に戻って来る。


 部屋に意識が戻ったら戻ったで燈の相手があるからリラックスは出来ないんだけどな。


「今日は寝てたか」


 燈は彰人の体をガッチリとホールドして眠っていた。


「燈、起きろ」

「う〜ん……」


 冬夜はかろうじて動かせる左手で燈の頭を撫でて優しく言う。


「燈、夜寝れなくなるぞ」

「!」


 燈はパチっと目を覚ます。


「やっぱり家だと優しい」

「気のせいだ」


 俺の燈に対する変わらない。

 4つも離れてれば、こんな妹は兄として心配になるんだよ。

 世に聞く兄妹の妹と言うのはこんなにべったりではない。

 昔、甘やかし過ぎたか?いや、甘やかしていた訳ではないはずだ。そんな余裕無かったしな。

 なら何故……なんて、考えるだけ無駄だな。

 何が好感度アップに繋がるかなんて言うのは相手次第、燈が何を思ってこんな事をしているのかなんて、考えるだけ無駄だ。

 燈の趣味って事で納得するしかないか、今のうちは。出来るだけ早く矯正したいんだがなぁ。

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