2120年/7月5日 中身はそのまま
初出勤はまあまあだったな。1人しか来なかったし。
「あっ、冬夜どこ行ってたんだよ」
「お前の爺さんに押し付けられた店」
「近いのか?」
「めっちゃ近い。徒歩3分」
「近いな。じゃなくて、燈ちゃんがめっちゃ探してたぞ?連絡つかないしどこにも居ないって」
「今はどこに?」
「しょぼくれて生徒会室に行ったよ」
燈は高校に入学してすぐに生徒会に入り会長に気に入られ、職権濫用により副会長をしている。
中々愉快なことになったよな。
「せめてなんか言ってから行けよな」
「昼飯食いに行くついでに店主してるだけなのに何で一々報告しなくちゃいけないんだよ」
冬夜はそう言って自分の席に座る。
ちゃんとメニュー決めるのは放課後だとして、中々疲れそうだな。
冬夜がアルバレスで接客をしていた頃、生徒会室では。
「お兄ちゃんがどこにもいない……」
「ふむ、君はその兄の前では兄さんと呼んでいるのに、兄がいない所だとお兄ちゃんになるんだな」
凛とした長い黒髪の女生徒が燈を見て言う。
彼女はこの学園の生徒会長である
「お兄ちゃんがいる前でお兄ちゃんに甘えたら2週間口聞いてくれなくなるんですよ」
「最早嫌われてないか?」
「お兄ちゃんが私を嫌う筈がありません」
「ふむ、書記くん、確か君は燈くんの兄と同じクラスだったな。どんな男なんだ?」
「人類の理想を体現したような奴ですかね。性格に多少難ありですが」
書記をしている男子生徒がそう冬夜を表現すると、燈が変なやつを見るような目で言う。
「誰だお前」
「……書記の柏原だ。良い加減覚えろ」
「そうか、人類の理想か。あっ、もしかして今年から毎朝玄関に女生徒がたまるのは」
「そうですね。その兄ですね。しつこいのが嫌いらしくて毎朝下駄箱に入ってる手紙をまとめてゴミ箱シュートしてますね」
「毎朝は確かに鬱陶しいな。燈くん、家ではどんな男なんだ?」
飛鳥が燈に問いかけると、燈は食い気味に説明を始める。
「沢山ゲームで遊んでくれて、料理、洗濯、掃除、家事は何でも出来て、カッコ良くて、頭も良くて、とにかく何でも出来るお兄ちゃんです!あと優しい!」
「話を聞く限り優しい要素があまりないような気がするが……」
「アイツは子犬に優しいタイプのヤンキーみたいな奴ですからね」
「なるほど、本当は優しいと言うタイプか」
お兄ちゃんは凄く人を選ぶからね。
彰人みたいに積極的に話しかけて、尚且つ引き際を弁えてる人じゃないと嫌われて終わる。
でも、基本的に愛は深い方だから扱いが雑でも絶対に切り捨てない。
どんな状況からでも立て直せる。お父さんも私もそれで今普通に暮らせてる。
ただ、やると決めたら徹底的にやるタイプだからしばらくしたら壊れちゃう。
今思えば4歳から5歳まで子育てと家事を完璧にこなしてたって凄いよね。育児ノイローゼになるお母さんだっているのに。
最近はやる気が底をついてるから結構ぬけてるし適当だけど……。
「料理と言ったが、燈くんはいつも弁当だね」
「いつもお兄ちゃんが作ってくれるんです!」
「母親どうしてるんだい?」
「私がお兄ちゃんが作ったものしか食べないからお兄ちゃんの役になった」
「うむ、中々面倒な性格をしているね?」
「お兄ちゃん以外が触ったものって気持ち悪いじゃないですか」
「ものすごくピンポイントな潔癖症だね」
人の手のひらは毎日綺麗に洗ってる人でも雑菌だらけ。ましてや潔癖症じゃない人の手のひらには便座と同じくらいの雑菌がいる。
そんなの気持ち悪いでしょ?
食材を便座に擦り付けてるのとあんまり変わらないよ?
「いつも美味しそうなものを食べてると思っていたが、兄が使ってくれていたんだね」
「お兄ちゃんに出来ない事はありませんから」
「ブラコン極まれりだね」
燈は弁当を食べながら携帯電話に通知が来ないかを確認する。
反応無し……。
「こうして聞いてみると、興味が湧くと言うものだな。そんなに優秀なら是非仕事を手伝って欲しい。燈くんから頼んでみてくれないか?」
「……」モグモグ
「コイツ、兄に昔よく噛んで食べろって言われたらしくて何か口に入れたらしばらく喋りませんよ」
「うむ、良い子だな」
「……」モグモグ
「本当に喋らないな。なんなら周りの話聞いてないな」
燈が唯一とも言って良い冬夜に混ざっている点、それは集中力である。
しかし、集中力を数値化した時の最高値が極めて高いだけで調整は出来ない為、冬夜のように必要な時に必要な分だけと言う事はできない。
燈の集中力は極めて高い、高すぎる為、昼の食事中などは弁当に集中していて周りの声は一切届かない。
生徒会の仕事にも役立ってはいるが、周りとの連携が出来ない為、連携しない分仕事を減らされている。
「会長って割と副会長の事見てませんよね」
「いやぁ、実を言うとこの子が生徒会にやって来た時、有能かどうかなんて考えてなくて、マスコット枠にいいかなと思っていたんだ。だから元々仕事には期待してなかったんだが、思っていたよりも数段優秀でビックリしたよ。それもあってついマスコット枠として見ているんだよ」
「今確か11歳とかでしたし、マスコットにしか見えませんよね」
「飛び級という時点で有能なのはある程度分かっていたんだがね〜」
「コイツら兄妹は飛び級出来るのにしないって言う変わり者ですからね」
もうすぐ昼休みが終わると言う時に燈は弁当を食べ終わり、しょぼくれて教室に戻る。
「あっ、燈ちゃんさっきクラスの男子が……」
「断っておいて」
「そう言うと思って伝えておいたけど、どうしてもだってさ」
「そう……」
お兄ちゃんがモテるから同じ血統の私もよくモテる。こればっかりは面倒くさい。
お兄ちゃん以下、いやお兄ちゃん以上に優秀でも興味無いよ。お兄ちゃんじゃないんだから。
もう、お兄ちゃんと結婚したい。お兄ちゃんとの子供が欲しい。でも、お兄ちゃんにこんなこと言ったら本当に1年、いやもっと長い期間無視されるかも知れない。
せめて一緒に寝たいのに、お兄ちゃんが中学生になってから部屋が別々になっちゃって、夜になると部屋に鍵かけられるから入れないし指紋認証なんて、無駄に高度なセキュリティになってるし……はぁ。
「で?どこに行けば良いの?」
「放課後に図書室だってさ」
「昼休みで済ませて。放課後は兄さんと帰る」
「だってさ、告白したいならここでやれって」
そもそも、年齢的には中学生だからね?私
燈は12歳にして身長165cmと高身長であり、パッと身も大人びている為、大人に見られる事が多いのだ。
ちなみに冬夜は187cmで遺伝子的な問題で高身長である。
「そもそも、兄さんじゃない時点で論外だから」
「最低条件満たすのが不可能」
「最低限兄さんに全てのスペックが優ってないと無理」
「それもほぼ不可能」
燈が付き合うのに達成不可能な条件を提示すると言うかぐや姫の様な事をしていると、午後の授業の予鈴が鳴る。
「さて、眠たくなる午後の授業をなんとか切り抜けないとね」
「学校で寝ると夜寝れなくなるよ?」
「子供か」
「子供だよ」
午後最初の授業を終え、その日最後の授業は体育だった。
高校ということもあり、男女別でやる事が違う為、燈は体育があまり好きではなかった。
「女子はプールで男子はサッカーだってさ」
「私もサッカーしたい」
「サッカーがしたいんじゃなくて、冬夜さんの所に行きたいんでしょ?」
「兄さんと一緒がいい。あとなんでさん付け」
「なんか、同学年な気がしなくて」
「本来私が同学年じゃないよ」
プールの場所からグラウンドが見える為、燈はプールの端で冬夜ばかり見ていた。
しかし、それは燈だけではない。他の女子達も冬夜を見ていた。
「相変わらずカッコイイねぇ」
「妹から毎日見放題で羨ましいよ」
「私は選ばれし者」
「学校と家だとどのくらい違うの?」
「家の方が優しい。イケメン度4割増しくらい」
「へぇ、見てみたい」
「たまに着いてこうとしたら巻かれて道分からなくなるけど」
「優しいってなんだろうね」
お兄ちゃん、私が方向音痴なの知ってて巻くからね……。ライオンは我が子を谷に突き落とすって昔言ってた。
全然方向音痴治らないけど。
「さて、授業に戻るよ」
「分かった……。成績下がったらお兄ちゃん学校辞めかねないし」
「何故に?」
「昔、自分が居なければ私は限り無く完璧にに近いって言ってて、やめようかなってポロって言ったことあったんだよ」
「それじゃ、授業頑張ろう」
その後、普通にクラスで1番のスピードで泳ぎ切ったり、1度も水面に顔を出さずに潜水したまま50m泳ぎ切ったりと12歳とは思えない身体スペックをこれでもかと見せつけて授業を終える。
プール授業だった為、その場で帰りのホームルームを済ませて解散になった。
燈は急いで教室に戻ったが、当たり前のように冬夜は待ってくれていなかった。
「シスコンな妹と妹への興味関心が普通かそれ以下の兄。凄い兄妹だね」
「うぅ……」
「なんだ?プール授業だったのに戻って来んの早いな」
「誰だお前」
「最早様式美だよな」
冬夜は居なかったが、彰人が教室で待っていた。
「燈ちゃんは良いとして、立花も早いな」
「名前の初出しが雑過ぎない?
「安心しろ、お前はモブだ」
「ひっどい!?」
「お前が待っててもしょうがないじゃん」
「急いで帰っても冬夜は居ないぞ」
「……」
「アイツ先に店行ってんだよ。燈ちゃんもどうせならって待ってたんだが、帰るなら仕方ないな。気をつけて帰れよ」
「お前嫌い」
「俺を雑に扱い過ぎだ。ちょっとした悪戯だろ?」
彰人はそう言って荷物を持って教室を出る。
燈はそれにぴったりついて行き、立花も特に何も言われていないがついて行く。
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