2120年/7月4日〜2120年/7月5日 押し付け店主

 高校生になり、飛び級で同学年になっている燈と、いつも一緒にいる彰人と3人で高校生活を満喫しよう。なんて、普通の学生みたいな事を言ってはみたものの……。

 俺今非常に厄介な状況に出会している。


「ああ、腰が痛いなぁ、誰か助けてくれんかの〜」


 この爺さんだ。

 普通のご老人なら助けてあげようって気にもなるんだが、この爺さんはめっちゃこっちをチラ見してくる。

 なんなら助けてくれんかの〜の、の〜のタイミングでガン見して来る。

 絶妙にウザいなこの爺さん。


「どうしたんですか、お爺さん」

「おお〜、助けてくれるのか」


 自分のこう言うところが嫌いだ。面倒ごとだと分かっているのにスルー出来ない。

 お人好しって言われるんだろうか。


「実はこの荷物を運んでたら腰をやってしまったな」

「運びますよ。どこまで運べば良いですか?」

「あぁ、助かるよ」


 我ながらアホだな。

 

 冬夜はそう思いながらも初老の男性が運んでいた重たい荷物を軽々と持ち上げ、男性と一緒に目的地に向かう。


 喫茶店アルバレス……。この荷物本当になんなんだよ。

 喫茶店にこんな重たい荷物必要なのか?


「ああ、助かったよ。何かお礼をしないとな」

「結構です」

「遠慮するな」


 コイツ、荷物運びが目的じゃないな。


 その男性に言われ、渋々店の中に案内された冬夜は男性にカウンター席に座らされる。


「実は……」


 やっぱり何かあるのか。


「この店を君にあげよう」

「実は……ってなんだったんだよ」

「それっぽいだろう?」

「あと最初のお爺さんっぽい喋り方はどうした」

「キャラ付けじゃよ〜」


 ぶん殴りたい……。


「いやな?私はそれなりに大きいグループの会長をしているんだが、この店は私の最初の店でな。グループも大きくなったし、この店は畳んで、新しい事業の方に力を入れようかってなったんだが、最初の店だし愛着があるだろう?」


 だろう?って言われても分からんわ。店持った事ないからな。


「そこで、君にこの店を譲ろうと思ったんだ。安心してくれ、仕入れ等は私に任せてくれ。店主をしてくれれば良い」

「俺学生なんですけど」

「放課後だけ営業している店でも良いんだぞ?何せ、君の店だ」


 コイツ……俺の了承も無しに決めやがったな。


「そんな訳だ、君は今日からこの店の店主だ!」

「店主だ!じゃねぇよ」

「結構良い店だろ?趣きもあるし、立地も良い。駅近だぞ?売上は1割だけ私のところに入れて欲しいんだが、残りは全て君のお小遣いになる」

「賃金ですよね」

「そうとも言う。そうだ、その荷物開けてくれるか?」


 冬夜は仕方なく持って来た荷物を開けて中を見る。


「その荷物はな、調理器具や制服、食材とか色々入れてたな。横着して詰め込んだら腰がな?歳はとりたくないな」

「デザインは悪くないな」

「だろう?私の特注品だ。なかなか良いデザインの制服だろう?」

「そうだな」

「それじゃ、今日から君に任せたぞ」

「……はぁ、放課後だけだぞ」

「おお!君は優秀そうだし、何よりイケメンだ」

「顔じゃねぇか」

「何を言う、顔は大事だぞ?店の看板と言っても過言じゃない」


 面倒なことになったなぁ……。




 次の日


 そうして冬夜はその男性の店を引き継ぐことになり、学校とかなり近かった為、昼休みと放課後にその喫茶店経営をする事になった。


「あの爺さん、お前の祖父だろ」

「……なんかすまん」

「不自然なことがあまりにも多過ぎたからな。多少調べたが、苗字の一致、お前の両親が加わっているグループの一致、何より俺のことを初めから知っていてあそこで待ち伏せていた。この落とし前どうつけるつもりだ」

「突然ヤクザみたいになったな!?」

「まあ、料理や接客は苦手じゃないから別に良いがな」

「お前接客なんて出来るのかよ」

「出来る」

「本当に出来そうだよな、お前」


 あの爺さんめ。何が君はだ。最初から俺の素性を知ってて準備してただろ。制服のサイズが割とちょうど良かったぞ。


 冬夜と彰人はそんな話をしながら登校していた。


「にしても、燈ちゃんは見事に美人さんだな」

「兄さんの妹だもの」

「昔ほどベタベタしないしな」

「学校でやったら2週間口聞かないって言われたのよ」

「なげぇな」

「最初一年にしようか迷ったんだが、それだとうっかり死にかねないって燈がうるさくてな。だいぶオマケして2週間だ」

「相変わらずの鬼畜兄だな」


 何というか、俺だけ成長していない感が半端ないんだよな。

 小学校の頃から中身が変わってない。成長限界早くないか?

 燈は言語理解能力が上がったし、彰人は陽キャイケメンになったしな。それは元からか?


 冬夜達が学校に到着し、下駄箱の扉を開けると、冬夜の下駄箱から大量のラブレターが雪崩の様に出て来る。


 これまたベタな事しやがる。毎朝毎朝。


「燈、紐」

「はい」


 燈からビニール紐を受け取り、その大量のラブレターを纏めて縛り、ゴミ箱に投げ入れる。


「鬼畜過ぎるだろ相変わらず」

「毎朝毎朝鬱陶しいわ。毎朝これやってるんだから良い加減諦めろよ」

「それは思うけど、これはこれで好評なんだよな」

「嘘だろ……」

「マジマジ。その鬼畜ムーブが我が校の女子のマゾっ気を掴んで離さないらしい」

「握り潰してやる」

「アレだよな、こういう時のマゾって最強だよな」


 はぁ……これらは小学校の時の愛好会から派生した非公式ファンクラブが出来た事で毎朝毎朝この有様だ。

 そして、鬱陶しいからって雑に扱ってたら非公式ファンクラブがマゾ集団になっていたらしい。

 ため息しか出ねぇよ。


「全く、面倒な」

「仕方ないさ。小学校の愛好会から中学で規模を拡大、高校に入って非公式ファンクラブに進化して更に規模を拡大したんだ、こういう事もある」

「お前のファンクラブとかないのか」

「俺は無い。普通に考えて高校生に非公式ファンクラブがある方がおかしい」

「全く流華め」


 3人は教室に行き、燈は相変わらず隣のクラスである為、燈は渋々隣の教室に歩いて行く。


「さて、1時間目何だったかなぁ」

「数学」

「そうか。終わったら起こしてくれ」

「安心しろ。もう目覚める必要はない」

「数学寝る宣言してまさかちょっと遠めから殺すって言われたの初めてだわ」

「昨日お前の爺さんから良い包丁を貰ったんだ。今から楽しみだな」

「人間に使うものじゃねぇから」


 彰人と冬夜は教室に入り、席に着く。

 冬夜の机には花が入った花瓶が置いてあった。


「全く、陰湿なことするな」

「いいじゃないか。教室のインテリアが増える」


 冬夜は教室の窓際に縦長の花瓶を置く。


「思春期男子にとっては死活問題なんだろう」

「死活問題ではないだろ。くだらない個人的な私怨だろ」

「何で良いさ。仏の顔も3度までって言うだろ?」

「3度以降は?」

「う〜んNTRかな」

「適当だな」

「いやぁ、高校生にもなって彼女がいたことがないって言うのもな?」

「毎朝毎朝ラブレターをゴミ箱シュートする奴のセリフとは思えないな」

「一々読むのが面倒なんだ。教室に告白しに来るくらいの度胸は見せて欲しいよな。それなら考える」

「上から目線だなぁ」

「彼女は欲しいとは思うが、自分から作りに行くのは面倒なんだ」

「世の男達を敵に回す発言だな」


 いや、こんな奴いくらでもいるだろ。

 漠然と彼女欲しいなぁと思ってはいるが、行動に移すわけじゃない。

 根性無しの片思いとかこんな感じじゃないか?

 あの子と付き合いたい!しかし告白する勇気はない。やってる事は同じだ。

 俺の場合は勇気じゃなく面倒なだけだが。

 アレだな、欲しいとは思うが、自分から作りに行くほど重要なモノか?と考えると俺的には否としか言いようがないんだよな。


「そろそろ授業が始まるな」

「年々畜生度が上がってる気がするんだよな」

「俺、しつこいの嫌いだからな。愛好会だろうがファンクラブだろうがしつこく告白されるのは鬱陶しい。毎日がストレスだ。畜生度も上がるさ。ついでに周りに地味に八つ当たりするかもな」

「やめなさい」

「周り次第だ」


 そうして冬夜達は朝のホームルームを終え、授業が受ける。

 冬夜も冬夜から勉強を見てもらっている彰人も授業でつまづく事はなく、余裕にノートだけ板書する。

 燈も言わずもがな余裕である。

 そんなこんなで昼休みになり、冬夜は特に何も言わずに学校を出て喫茶店アルバレスに向かう。


 喫茶店初出勤か。メニューも何も考えたないな……。

 どうせ暇だろうから放課後にでも考えるか。今は食材見て店主のおまかせランチとかにしておけば格好はつくだろ。


 冬夜がエプロンを着け、カウンターの中で美帆が作ったお弁当を食べながら暇を潰す。


 外の黒板の看板にランチタイムと午後の営業時間を載せてはいるが、ランチタイムが1時間だからな……。

 人なんか来るのか?


 冬夜がそんなことを思っていると、スーツ姿の若い女性が入って来る。


「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

「は、はい」


 何で恐縮してるんだ。

 まあ良いか。


 その女性はカウンター席に座り、冬夜は即席で用意したメニュー表を渡す。

 一応食材を見てすぐに作れるモノを並べ、最後に店主の気まぐれランチという、おまかせを微妙に不安にさせる言い回しで書いたメニューを入れていた。


「ご注文決まりましたらどうぞ」

「えっと……店主の気まぐれランチで」

「ふっ」

「えっ?」

「いえ、少々お待ちください」


 まさか選ぶとはな。


 冬夜はその女性に水とおしぼりを出して厨房に入る。


 さて、何にしようか。

 気まぐれって書いたわけだし、創作料理で良いか。


 冬夜は思いつきと直感で料理を作り始める。


 この食材とこれ合いそうなだな。これも足してみるか。あっ、これ使ったら面白そう。


 割とこんなことを考えながら作っている。

 作られる身からすれば不安しか感じない思考だが、お客の女性は知る由もない。

 冬夜の思いつきクッキングが終わり、女性に完成した料理を出す。


「お待たせしました。店主の気まぐれランチです」


 味見してないけど大丈夫だろうか?

 ある程度味のイメージは出来てるんだが、肝心の味見はしたないんだよな。


「あっ、美味しい」


 ひとまずは成功か。

 店主の即興思いつきランチに変えようかな。


 女性はその冬夜の思いつきで作られたランチを食べ進める。

 冬夜はそんな女性の風貌や年齢層からどういう人物なのかをプロファイリングすると言う遊びをして暇を潰す。


 あの爺さんの言い方からしてこの店に常連はいないだろうからこの人は初めて来た人。

 服装はリクルートスーツで今は夏、着なれない服装のような感じがするから就活生だろうな。

 後は、この店に入って来た時の態度や雰囲気、時間的にこの人は午前中にあったであろう就活に失敗し、また次探さないとと言う感じかな。

 ふっ、どこまであってるかな。


「ごちそうさまでした」

「はい」


 冬夜は食器を片付け、女性の前にコーヒーを出す。


「サービスです」

「喫茶店なのにコーヒーをサービスして良いんですか?」

「今日が新装開店初日なので、サービスです。それに、店主の気まぐれコーヒーです」

「ここにも気まぐれが」


 混ぜてないぞ?

 少々癖があるコーヒーだが、食後には良いコーヒーだ。

 コーヒーの味が分かる人ならだが。


「美味しい」

「それは良かった」

「あの、店主さんって見たところ凄く若いですけど……」

「16ですからね」

「16!?アルバイトって事ですか?」

「いえ?前の店主に半ば強引に店主にされて、やむなく始めた喫茶店店主です。従業員も私しか居ません」

「そ、そうなんだ」

「そう言うお客様は就活生、21歳ってところですかね」

「当たりです」

「失礼なことを聞きますが、午前にあった試験ね何か失敗でも?」

「あはは……当たりです」


 意外と当たるもんだな。


「今回はダメでも、まだ時期はあります。まだまだこれからです」

「本当に16歳?」

「16ですよ。面接でもそのくらいフランクな気持ちで行けば楽ですよ」

「面接で失敗したの良く分かりましたね」

「最初、私のいらっしゃいませに対して恐縮しながら返事をしていたので、おそらく知らない人と話すのが苦手な人なんだなと思ったので、失敗したなら面接の可能性が高いと思っただけです」


 他に何失敗するんだよって言うのもあるけどな。


「……わかりました。店主さんみたいに冷静に人を観察出来るくらい落ち着いて人と話す練習をしてみます」

「就活、頑張ってくださいね」

「はい!頑張ります!」


 女性は代金を払い、面持ちも明るくなって出て行った。


 接客って難しいな。これ絶対普通の接客じゃねぇもん。

 あの人が思い込みが激しいタイプで助かったよ。俺は別に落ち着いて話を出来るようになろうなんて言ってないしな。

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