2115年/7月31日 ゲーム
今この国はあるスポーツが盛んに行われている。勿論それはバスケやサッカーではない。
それは、科学技術の発展によって可能になったeスポーツの延長ではあるんだが、端的に言えばARだ。
この技術が開発された当初、あまりの完成度にプレイヤーがノーシーボ効果の要領で本当にダメージを受けるっていう人間の欠陥のせいで、人類には早すぎるなんて言われていた。
しかし、それがARに現実性を生み、一部のゲーマー達が広め、発展させ続けた結果、リアルダメージは残ってるものの、流行ってるゲームになったわけだ。
冬夜と彰人はARゲームの為のスタジオに来ていた。
「で?何するんだ。レーティング無視してるが」
「ゲームのレーティングをちゃんと見てる奴なんて、どのくらいいるんだよ」
「確かにな」
「それで、今日やるのは格闘ゲームだ!」
「格闘ゲームねぇ」
このARゲームの格闘は剣を使うのが一般的だ。殴り合いならARの必要が無いからな。
「よ〜し、スポーツじゃ勝てないが、ゲームなら負けないからな」
「お前よく5年も挑み続けて負け続けるあいてに、体動かすゲームで勝てると思えるよな」
「ゲームとスポーツじゃ違うからな。それに、このゲームは俺の方が慣れてるし」
「昔、フェアじゃないとか言ってサッカーで挑んで来なかったのにな」
「結局サッカーでも勝てなくて諦めたけどな」
彰人はゲームを起動し、2人はイヤホンの様な機械を片耳につける。
「さて、体力のバーは見えてるよな?」
「ああ」
「よ〜し、カウントと同時にスタートするぞ」
「何気にゲーム初めてだな」
「そうなのか?なら勝機ありだな、この間抜けめ」
「唐突に強気だな」
勝機元々無かったのかよ。
2人の視界にカウントが表示され、カウントがゼロになったと同時に彰人は冬夜に挑む。
彰人は決して単細胞的なバカじゃない。だが、行動は割と読みやすい。
元々優れた身体能力に頼った超スピード&パワー型で守り性能が低い。
その辺はチームプレイで補ってたんだろうが、こう言う一対一になるとチームプレイの癖で防御が割と甘い。
冬夜は彰人の攻撃を受け流しながらすれ違う様にして彰人の後ろに回り込み、彰人の首を斬る。
このゲーム、さっき説明書を読んだ限り切る場所でダメージが変わる。急所なら大ダメージが入る感じ。
それで、即死する攻撃をすればHPバーが全損する。
彰人は首を切られたことでMAXあったHPが一撃でゼロになってしまう。
「何という効率主義」
「違うわ。狙えるから狙ったまでだ」
「なるほど、間抜けは俺だったか」
しかし、この機械、脳に干渉してよりリアルな空間を見せている関係上、何というか嫌な手応えがあるな。
硬い鶏肉を切った様な感覚……このゲームが初め受け入れられなかったのが伺えるな。
「しっかし、これは燈ちゃんにはやらせられないな。ゲームだからって思ってたけど、マジで斬られた感じがした」
「俺も肉を斬った感じがした」
「レーティングがちゃんと仕事してるのを初めて知ったぜ」
しっかし、これもメジャーなタイトルではあるんだよな。
まぁ……確かに、現実に剣を持って戦う事なんて無いし、非現実的な事を現実でやる背徳感的なモノはある。
これが売れてる理由なんだろうな。
「色々買ってみたんだが、燈ちゃんにも出来そうなの探すか?」
「そうだな」
それから冬夜と彰人はしばらく色んなゲームをやってみて、粗方やり終えてから燈が出来そうなモノが見当たらないと言う結果に辿り着く。
「ダメだなこりゃ」
「ARゲームは基本的に現実ではまず出来ない事を題材にしている関係上、殺伐としたものが増えてくる。魔法とかもあるが、結局のところ魔法を使った対戦ゲームだしな」
「もういっそ、ARからVRに変えてみるか?」
「その方が無難だな。オンラインゲームなら人と関わることも増えるし、あの攻撃的な人見知りの矯正にも繋がるかも知れないしな」
「言い得て妙だよな、攻撃的な人見知りって」
「他に良い言い回しがあるかよ」
「無いなぁ」
燈は知らない人と対峙するときに取り敢えずめ拒絶する。
恐らくは第一印象が最高以下なら攻撃的な態度を取っている。彰人は俺が普通に接しているから最高の一つ下くらいの第一印象だったんだろうが、平然と誰だお前って言われてたしな。
物怖じしない性格と見るべきか、取り敢えず吠えるバカ犬の様に見るべきか。
「でもよ?向こうのクラスで別に浮いてないみたいだぞ?」
「そうなのか?」
「もっと妹に興味持ってやれよ……。何か、クラス委員長になったらしいぞ?流石は冬夜の妹って感じだな」
「俺、クラス委員長じゃないんだけど」
「冬夜はアレだよ、皇帝を裏で操る黒幕的な奴だよ」
「操ってねぇよ」
冬夜のクラスでの扱いは殆ど王様である。普段は特別クラスに指示を出したりしないものの、学校祭や運動会などでは凄まじい統率力を発揮する。
主に、クラス委員長が冬夜に心酔しているのが原因なのだが、クラス全体もそれに納得している。
ちゃんと働いている時の冬夜に弱点は無く、クラス全体の動きやスケジュールの管理なども行い、学校祭や運動会で毎年他学年や他クラスに勝利し続けて来ている実績を持つ。
「そう言えば燈ちゃんは今日どうしたんだ?」
「巻いて来た」
「可哀想だな!?迷子になったらどうするんだよ!」
「燈は天才だからな」
「だから道に迷わないってか?」
「いや、燈は方向音痴だぞ」
「今すぐ探しに行くぞ!!」
彰人は冬夜を連れて荷物を持ってスタジオを出る。そして、どの辺で巻いたのかを聞いて捜索を開始する。
「全く、お前は妹想いなのか妹嫌いなのこ分かんないな」
「燈は好きだぞ?ただ、好きだから全ての行動を受け入れる訳じゃない」
「せめて理由つけてちゃんと留守番させろよ、巻いてやるなよ」
「ライオンは子供を谷に突き落とすって言うだろ」
「お前は妹をコンクリートジャングルに置き去りにしただけだけどな」
「きっとあの子は強くなって戻ってくるさ」
「厳しい師匠面してんじゃねぇよ。て言うか余裕だなホント」
「まあな」
冬夜はポケットから携帯端末を取り出して電源を入れる。
「何やってんだ」
「しばらく待ってるだけで来るぞ」
「は?」
冬夜がそう言って1分程が経過すると、路地裏から燈が現れる。
「お兄ちゃん見つけた!!」
「どうなってんだよ」
「コイツ、俺の端末のGPSを自分の端末に登録してるから電源付けとけば俺の位置がわかる様になってるんだ。電源切ってGPSを使えなくしても、電源入れたら通知が来る様になってるから、電源つけるだけでこの通りだ」
「なるほど」
燈は冬夜に飛び付き、冬夜は彰人を掴んで盾にして燈の飛び付きを回避する。
彰人は燈の飛び付きに直撃して吹き飛んで倒れる。
「おまっ……」
「けっ、ばっちい」
「ばっちくねぇよ!!」
「それで、この後どうするんだ?」
「はぁ……取り敢えず、俺がやってるからオンラインゲームから試して行こうぜ」
「どこでやるんだよ」
「お前の家は環境整ってないだろ?俺んちでやろうぜ」
「ばっちい」
「ばっちくないって言ってるだろ」
冬夜達は彰人の家に向かい、ゲームをする事にした。
「さて、ついたぞ」
「お前の家ってやっぱり大きいよな」
「身の程を弁えろよ」
「家の持ち主俺じゃねぇし、何キャラだよ」
彰人の家はとても大きく、見るからにお金持ちの家と言った雰囲気があった。
実際、彰人の両親は世界有数の大企業の社長夫婦である為、お金持ちではある。
「さて、取り敢えずこの端末をつけてくれ」
「何でお前端末複数持ってるんだよ」
「使うかもしれないだろ?」
「普段俺としか遊んでねぇじゃん」
「ぼっちは辛いよ」
「ぼっちじゃねぇだろ。っと燈、付け方分かるか?」
「大丈夫」
燈はその顔を覆う様なサンバイザー型の機械を頭にかぶる。
冬夜と彰人もその機会をかぶって機械の電源を入れてVRの世界に入る。
さっきのARが既に脳に干渉するシステムだから今更なんだが、こっちのVRも脳に干渉して仮想世界、ネットワークの世界に入る。
元々、こっちの方が主流だったんだが、今では半々って所だな。
冬夜は初めてログインするアカウントだった為、キャラクターメイクからのスタートになった。
ゲストキャラ作っとけよ……なんて、贅沢だな。
これ、俺好みに作って良いんだろうか?いいか、どうせ管理するのは彰人だし、消したいなら消すだろ。
冬夜は適当にリアルな自分と真逆のキャラメイクをしてゲームをスタートさせる。
「おっ、早かったな……」
「何か変か?」
「いや、変ではないんけど、意外だったと言うか……。女のアバターを作るとは」
「リアルの俺と真逆にしてみた。短い髪の男から、長い髪の女。まあ、そこまでやって面倒になったからリアルの顔のデータを使ったがな」
「いや、すげぇ可愛いよ」
「きめぇよ」
「元々かなり美形だもんな。女にして、女の骨格とかにバランスを調整すればそりゃあ美形になるわな」
設定画面で目の位置とか、鼻の位置とか細かく表示されて、うわめんどってなっただけなんだけどな。
「そう言えば燈は?」
「訳も分からずリアルデータを参照したからそのままだな。そして、そこで惚けてるぞ」
「……」
「ふむ……貴様が私のマスターか」
「やめんか」
「お兄ちゃんがお姉ちゃんに……そう言う事もあるのか」
「まあ、ゲームならではだな」
このアバター、どこまで女なんだろうな?
ゲームだから身体能力はレベルとか依存なんだろうが、装備とかが男女分けされてるんだろうか?
冬夜は装備画面などを開き、持ち物を確認する。
「あ、そうだ、これやるよ」
彰人は冬夜にアイテムを転送する。すると、冬夜のアイテム欄に送られて来た装備の名前が表示される。
「……なんだこれ」
「前にあったイベントの景品。使い道なくて困ってたんだよ」
彼シャツってなんだよ。どう言う装備だよ。それ装備じゃないだろ、概念だろ。
ゲームだからなんだろうが、大丈夫かこれ。
「うわっ、なんだこれ」
「すげぇだろ?胴体と腰装備扱いだからズボン装備出来ねぇの」
「こんなのつけるやついないだろ」
「見たこと無いな。でも、それメチャクチャ強いんだよな」
冬夜は今自分がつけている装備と比較して見ると、今つけている胴体と腰防具のトータルが6なのに対して、彼シャツは2900と圧倒的な差が出来ていた。
「今俺がつけてるのが胴体腰トータルが2000だから意味わかんねぇよな」
「なるほど。初期防具としては上出来か」
「おいマジか、つけるつもりか」
「くれたんだろ?」
「いやそうだけどよ……」
「リアルでやるわけじゃないんだ、恥ずかしがっててもしょうがないだろ」
「羞恥心!!」
冬夜は何の躊躇いもなく彼シャツを装備する。
「アバターがまだ子供だからアレだな、パパのシャツ勝手に着てますコーデだな」
「お兄ちゃん、何かえっち」
「羞恥心より防御力だ。世の中、個人の感情より実益なんだぞ」
「そうなんだね」
「俺が一緒に歩きづらいわ。ゲーム初心者の彼女に装備させてる変態みたいに見られるだろ」
「これより強いのあるのか?」
「無い」
「なら、周囲の冷たい視線に苦しむんだな」
「くっ……」
やっぱり、女限定装備があったな。
まさか概念を装備することになるとは思わなかったが、強いなら仕方ない。
何か、使い所が限られ過ぎるアビリティが付いてるが無視でいいだろ。
その後、彰人は冬夜がほとんど悪ふざけで彼シャツ装備であるが為に周りから悪目立ちし、燈からも変質者を見る様な目で見られたのだった。
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