2115年/4月7日〜2115年/4月8日 蛮行
今日、4月7日は俺たち家族にとって特別な日。
燈の誕生日であり、母さんの命日、更に燈の入学式の日でもある。
前2つはそうなんだけど、入学式を特別と捉えるのは親目線に近いのかもしれない。
ちなみにだが、ウチの小学校には入試がある。
昔からこう言うのはあったが、今時入試がない学校の方が珍しい。
優れた頭脳を持つ人間が増えた事が理由なんだけどな。
それで、燈はその入試でオール満点、主席入学を果たした。
当然凄い事だ。何せ、100点満点で最下位との点数差なんて8点くらいしか離れない、92点で最下位になる世界だ。
大昔の底辺高校入試レベルが、今の小学校の入試問題になっていると言えばどのくらい凄いのか分かるだろうか?
個人的にはそりゃそうだろと言いたいんだが、そう言う言い方をするのは教育上良くない気がするから言わない。
燈は、2年くらい前から突然猛勉強し始め、1年くらい前に入試レベルなら問題なく満点を取れるようになっていた。
だから誉めていいのかもちょっと判断しかねるんだよな。
考えすぎかもしれないけど、当たり前だろと言えば燈は傷付く、もしくはプンスコし始めるだろう。
かと言って、1年前で既に完璧だったものを今更突破したのを褒めれば、ある種の煽りじゃないのか?
我ながら面倒臭い性格に育ったものだな、何も考えず誉められないのかお前はと思うよ。
10歳の思考である。
「お兄ちゃん!褒めて褒めて♪」
「凄いな、燈」
「後は飛び級試験」
「俺も受けようかな」
「ダメ!」
「ちょっと意地悪しただけだよ。ほら、お母さんに報告しないと」
2人は式に参列していた徹也と美帆と一緒に室内納骨堂ある母、
「私ってどんな顔して会えばいいの……」
「貴女が死んだ翌年に旦那を寝とった女ですってふんぞり返ってたらいいんじゃない?」
「私嫌な奴過ぎるでしょ!?」
冬夜のブラックジョークに美帆がツッコミ、徹也が少し笑ってから言う。
「明美は良くも悪くも豪快な人だったし、後妻ですって言っても笑って毒吐くくらいだろうな」
「それ1番怖いですよ」
「燈お母さんに会った事ない」
「燈はお母さんと命を交換して産まれてきたからね」
燈はともかく、こう言う産まれ方をした子供は誕生日と言うめでたいはずの日に何を思うんだろうか。
ドラマとかではそれが原因で虐待にあったり、捨てられたり、ウチみたいに父が頑張って家庭を守ったりするけど、誕生日の日の描写ってほとんど無い気がする。
複雑な気分にはなりそうだよね。
4人は雑談をしながら明美の墓の前にやって来て手を合わせる。
「もう6年になるのか。俺が情けないばかりに、冬夜には本当に苦労かけてしまった」
「人にはそれぞれ許容量があるものだよ。許容量を超えて動こうとしても、良い結果は生まない。お父さんはその辺うまくやってたんじゃないかな」
「燈は?」
「いつも元気いっぱいだったね」
「褒められた♪」
元気いっぱいだったって褒め言葉かな?
感覚次第か。
別に褒めてないんだけど、そう受け取られたなら訂正する必要もないよね。
「さっきから黙ってどうしたの」
「結局私はどうしたら良いのかと」
「燈も分かんない。お墓参りって何するの?」
美帆さんと燈で迷ってる事が違うんだが……。
「昔は花を置いたりお供えしたり墓石を洗ったりとか色々あったけど、今はお供えと手を合わせるくらいだから俺達が『やるべき事』は無いよ」
「そうなんだ。お父さん、お供え物って何持って来たの?」
「イチゴ」
「イチゴ!」
「持って帰ってからだよ」
「分かった!」
燈もイチゴ好きなんだよね。
離乳食で食べさせたりしてたけど、多分1番がっついてたかも知れない。
生のイチゴあげたらあちこちベタベタになるから掃除が大変になるんだよね……。
だから、最近はカットして一口サイズにしてあまり汁が出ないようにしてるんだよ。
……生物は俺が調理しないと食べないから面倒なんだよね。
食べたいと言うくせに美帆さんやお父さんだと拒否するんだから意味が分からない。
「さて、もう行こうか」
「イチゴ!」
「まだだよ。待て」
「犬じゃないよ?」
「燈は待て出来ないんだね」
「出来るもん!」
燈は自信満々に言い、大人しくなる。
何だかんだ燈って扱い易いよね。ちょろい。
家に帰り、燈の誕生日会をする。
料理や焼きモノを美帆、生モノを冬夜が調理し、徹也と燈がその完成を待つ。
「出来た。お父さん、運んで」
「よし、任せろ」
「あっ、こっちもお願いします」
「燈もやる!」
冬夜は軽く、こぼれない、こぼれ落ちても比較的大丈夫なお皿を用意する。
プラスチックのお皿にイチゴなどの果物を乗せたモノを燈に渡した。
「じゃあ、このお皿運んで。転ばない様にね」
「うん!」
燈は転ばない様に気をつけてテーブルまで運ぶ。
すぐに燈が戻ってくるが、他のお皿は徹也がお盆に乗せてまとめて運んでいた為、もうお皿は無かった。
「もうないから、テレビ見てて」
「分かった!」
冬夜は調理器具などの片付けをしてからリビングに行く。
そうしてようやく誕生日会を行い、燈は誕生日プレゼントとして冬の夜のスノードームを貰った。
「お兄ちゃんと同じだ!」
冬の夜か。
俺が単純に冬の夜に産まれたからって言う単純な理由でつけられたらしい名前。
お母さんは割と気に入ってたらしい。
自分でつけたからだろと思わなくもなかったが、俺も嫌いじゃない。
て言うか、俺もアレ持ってるんだよな。
燈は今は良く分かっていなかったが、冬夜とお揃いという事で凄く喜んだのだった。
次の日
誕生日会なんて歳でもないけど、実際やると楽しいものだね。
自分ではそういうタイプじゃないと思っていたけど、賑やかなのは割と好きらしい。
誕生日会はさておき、うちの学校の飛び級試験は入学式の次の日に行われる。
というか、入学した段階では学年が決まってないって言った方が正しいかも知れない。
新入生は全員強制で受けさせられ、試験の出来次第で格学年に振り分けられる。
大抵1年生からのスタートだからあってないようなものだけど、時たま上がってくる子がいる。
俺のクラスには2つ下から上がってきた子がいるしね。
「どうする?今年は受けるのか?」
「受けない。飛び級してもやりたい事無いしな」
「だよなぁ〜。この歳でやりたい事が明確にあるやつって凄いよな」
「全くだよな。なりたいものの上部だけじゃなく、中身を知り、現実を知って尚その仕事をやりたいって思える人間って事だもんな」
「違う、そうじゃない」
「違う?」
「未来ってどうなるんだろうって奴ばっかりだから、将来の夢としてるんじゃなく、将来を決めてるやつはすごいって話」
「それはソイツが馬鹿なだけだろ」
「小学生の大半に謝れこの」
未来なんて所詮は『今』の積み重ねだろ。
未来がどうなるかなんて自分次第なんだからどうなるんだろうなんて他人事の様に考えてる奴は馬鹿だろ。
それか、口ではどうなるんだろうと気になっているフリをしているが、本音ではどうでも良い奴だな。
ほとんどの奴が前者な気がするんだが、どうなんだろうな。
「妹ちゃん、上がってる来るかな?」
「上がって来るだろ、燈はどっちかと言うと入試よりこっちを見据えて勉強してたからな」
「天才兄妹め」
「俺はちゃんと5年間小学生だぞ?」
「やる気ないだけだろ。満点余裕なのになんで毎回学年平均ピッタリなんだよ」
「これでも苦労してるんだぞ?全員の思考パターンの解読、問題の難易度による思考分岐、知識量の分析とか色々とな」
「確信犯じゃねぇか」
満点を取るのは簡単だ。 勉強をして知識を集めるだけだからな。
でも、それじゃあ面白くないだろ。
創意工夫してこそ何事も面白みが生まれると言うものだ。
それに、テストで良い点を取るだけよりもこっちの方が理解度が上がるんだ。
当然だけど、点数を調整するためには問題をあえて間違えなければならないから、問題を完璧に解ける様にしておく必要がある。
だから、点数を調整する方が100点を取るよりも自分の為になる。
大事なテストだけ満点取れば良いしな。
「全く、才能の無駄遣いだろお前」
「まあそう言うなよ。勉強見てやってるだろ?」
「その節はどうも。おかげでいつも満点です」
「だろ?」
「違う、そうじゃない」
「天才の考えることは分からん」
「お前だよ」
2人はクラスの一部が飛び級試験をしている為、自習時間になっている教室で彰人が自習、冬夜が仏像彫刻をしながら話していた。
「さっきからお前は何やってんだよ」
「仏像彫刻だろ?見て分からないか?」
「仏像なんて分かるかい」
「ふどみょんだぞ」
「不動明王の事をゆるキャラみたいに言うな」
冬夜は完成した不動明王の木像を黒板の前にある教卓の上に置く。
「よし」
「何が「よし」なんだよ。なんだよこれ……新手のイジメか?誰でも混乱するわこんなん」
「わぁ〜ふどみょんだぁ〜」
「なるかい。見た目クール系なのに言動がヤバすぎるからなお前」
「俺のモットーは一日一善だ」
「それとこれと何の関連性があるんだよ」
「わぁ〜ふどみょんだぁ〜」
「だからならねぇよ。不動明王像貰って喜ぶ奴なんて早々いねぇよ」
そこに職員室から担任の教師が帰って来る。
彰人は怒られるんじゃないかとヒヤヒヤしていたが、担任の教師は彰人が予想だにしない事を言う。
「あっ、ふどみょんだ」
「そうはならんやろ……」
「プレゼントです」
「誰が欲しがるんだよアレ」
「良いのか?なら有り難く貰っておこうかな」
「嘘だろ……」
「そう落ち込むなよ。ござみょん作ってやるからよ」
「ござみょんってなんだよ」
「降三世明王」
「最早知らねぇよ……」
5年生になり、勉強もスポーツも万能になりつつあった冬夜は最近ふざける事を覚えた。
ふざけ慣れてない為か、少し狂気じみている。
しかし、元々あらゆるスペックが高かった冬夜はそれでも人気だった。
むしろ親しみやすくなっていた。
「あ、そうそう、自習ノートは提出してもらうぞ」
「なん……だと……」
「お前ずっと彫刻してたもんな」
「仕方ないですね」
冬夜は教卓にノートを置く。
「ちゃっと待て、なんであるんだ」
「やる事はやるさ」
「やってなかっただろうが……」
こんな事もあろうかと、自習ノートは余分に作ってある。
まあ、そもそもの話、知能猿並みでも分かるシリーズと題してノート作ってるからな。
全部の教科を網羅する知能猿並みでも分かる〇〇は大人気シリーズだ。
主に彰人に。
飛び級試験が終了し、早速飛び級して来た生徒達を含めた席に席替えをする。
しかし、クラスに燈の姿はなかった。
そりゃそうだよな。
兄妹は別々にするよな。
今頃燈はプンスコしてむくれてるんだろうな。
「今年の一年生からは2人の飛び級者が出ました、1人は雪染燈さん、新入生代表をしてた子だね。そして、このクラスに入る事になった……自己紹介して?」
「はい。
流華の目標を聞き、クラスの生徒達が口を開く。
「飛び級生同士で競争か。でも1番は無理だな」
「そうだね」
「うちの雪染を超えるのはねぇ」
そんな反応のクラスメイトをよそに、冬夜がが言う。
「良い向上心だね。目標はなれるかよりも、目差すことに意義がある。がんばってね」
「あ、ありがとうございます!」
「ソイツがうちの雪染だぞ」
「えっと……」
「燈の兄だよ。まあ、飛び級もしてないただの学生さ」
「やる気ないだけだろ」
その時、教室の扉が勢いよく開き、燈が現れる。
「なんでじゃぁ!!」
誰しもが思った。何が、そして誰と。
「雪染燈……」
「誰だお前」
「燈、知らない人にお前は良くないぞ」
「誰」
「違うよ、Who are you?」
「Who are you?」
「YES」
「何がYESなんだよ。英語にしただけじゃねぇか。あんた誰って言ってるのと同じだぞ」
「流石は彰人だ」
「分かってて言ってるだろ……。知らない人に名前を聞くときはWhat's your name?って聞くのが普通だ」
冬夜はポカンとしているクラスの為に状況を整理する。
「状況を整理しよう。燈は俺と同じクラスになれなかったのが不満で、乗り込んで来た。そうだろ?」
「うん!」
「よし、先生、話を戻してください」
「整理したのにぶちまけるなよ、片付けろよ」
「燈、教室に戻るんだよ。休み時間は自由だから」
「はーい……」
燈はとぼとぼと自分の教室に帰って行く。
「これで戻せますね」
「出来るなら最初からやってくれ……」
「彰人、話が戻せない」
「おまっ……はぁ」
彰人は諦めた様にため息を吐く。
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