序章 1-2 始まりはワンタッチ


「やっと50Lvか」

「もうリポップしないね~」

「お前が狩り尽くすからだ」

リュートが肩をすくめて言った。

「よし、ちょっと歩こうかな」

辺り一面だだっ広い花畑だ。城下町から少し離れたちょっとした観光地。夕焼けが草花に反射して橙に染まって見える“サンセットフラワーズ”は聖国の誇りのひとつ。陽焼花がここまで密集して咲くのは大陸でも此処だけらしい。

「へぇ、こんな綺麗な場所が」

「仮想世界ってスゲェ……」

2人は目を潤ませて感動する。

まるで本当に異世界に来てしまったかのような、そんな光を浴びた気がした。


「ねね、バイオレットちゃん」

「なんでしょう マール」

「あのお城って入れるの?」

「《マール からの質問を承ります》特定のクエストでのみ可能です」

無機質な返答が響く。マールはしかめっ面をして「えー、バイオレットちゃんそんなんだったっけ?」と問う。

「固有マスターとのみ自由会話が可能です。」

「ふうん」

素っ気ない返事に不満なのか、頬を膨らますマール。それを冷たい視線で見下ろす機械じみた妖精。その姿は生物なのか、はたまた虚像なのか証明することは出来ない。

「そーいや、マールには妖精居ないのか?」

「ガイドピクシーは魔族だけの特権だから、俺には居ないよ?」

そうだったのか。てっきりチュートリアル的なものかと思っていた。種族的にはリュートはエルフ、マールはヒューマンだ。

というか、ヒューマン以外魔族なんじゃ…

「それじゃあヒューマンって、デメリット多くないか?」

「いや、ヒューマンは成長が早いんだ。同じ敵を倒しても、貰える経験値が魔族の約3倍。あと魔族と違ってしかもジョブの幅が広いからゲーマーにはメリットが多いぞ」

「ええ……?!」

しょみみですマールさん。

目を丸くしてマールの服の裾を掴む。どうやら、この世界にはヒューマン、エルフ、ドワーフ、ピクシー、オーク、ゴブリン、ドラゴニュートの7種族が存在していて、他種族同士でも繁殖できる設定らしい。すなわち、その混血もいるわけだ。まあ、プレイヤー同士では流石にゲーム内で繁殖行為は出来ない。そんなのBAN必須どころかサ終だ。

そして、ここ聖テレスタリアは聖国と言うだけあって、聖王テレンスとその娘、聖女レイアが国の全てを握っている。しかし、どうゆうことか貧民はなく、誰もが笑顔で暮らしている……

「といった謎めいた国なのです!」

「「(それがメインストーリーかぁ)」」

多分そこにいる誰もがそう思った。



バイオレットの声はとても可愛い。ただ、AIなだけあって少しばかり硬いのだ。生物としての何かが欠けている。そうゆう姿を見ていると、どこか寂しくなるのだった。しかし、いつかこのゲームが更新を重ね進化を遂げれば、バイオレット、もとい自立型AIガイドピクシー達の人間味……というか妖精味……も増すのだろうか?

「まあ、それもこのオンゲが続けばだけどな、はは」

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聖灰の森人 384 @Caesarsalad

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