聖灰の森人
384
序章 1-1 始まりはワンタッチ
一時の感情でエルフを選んだのが全て。それはタッチするだけの簡単操作。さてジョブは何にしようか――。
「エルフだし無難に精霊系……ん、
まあ、このジョブの善し悪しは不明だし、なんだか上位職っぽい名前のジョブなので、序盤の育成が心配だが、今後ジョブ変できる神殿やら何やらがあるだろうと信じて、俺は新たな世界の扉を開いた。
――オープンワールド
それは、感動の世界
――オンラインゲーム
それは、仲間と君の物語
――ファンタスティック・オンライン
それは、未知への扉
「今どき臭い売り文句だなおい。はいはい、わかったって」
パッケージを見て呟いた声は、部屋の静けさに吸い込まれる。
「うげ、ジェルの色どうにかならないの…?」頭皮に蛍光緑のジェルを塗り、ヘルメット状の電子機器を装着する。同じようにして、手足にもジェルを塗り、ゴツくて重い金属の手袋と靴を装着する。
「ここまでしなきゃ行けないのか…まるで人体実験だな」
まあ、やりたいのでしょうがない、と割り切って購入したのは自分自身なので、なんとも言えない。リュートはベッドの上に「よいしょ」とベタな声を漏らしながら身体を横にした。
「オーケーガイド、スタンバイ完了。アクセス開始」
ガイド、と呼ばれる精神維持アシスト機能『Guide』は没入型VRMMORPG専用機器、『SkyBrain』専用の自立型AIだ。現在、
目の前が虹色に光り輝く。球状の発光体が、こちらへ向けて飛んでくるが、全て身体をすり抜けるようだ。スピードが出ている感じがする。空飛ぶ自転車にでも乗ったらこんな気分なんだろうか――
『ファンタスティック・オンラインへようこそ。』
「マスター!!!」
「のわっ、早速妖精か?!」
「どもども~マスターだけのガイドピクシー、《ピクシード》のバイオレットちゃんだよ!見てください、この頭のお花がチャームポインッ!ぜひ、『ビオラ』ちゃんって呼んでね!うぇるかむマスター、末永くよろしくッ!」
「お、おわぁ……」
「どうしたんだいマスター!リピートアフターミー、ビ・オ・ラ!」
「び、ビオラぁ、」
「ま、いいや。そのうち慣れてね!じゃあ、さっさとフレンドと合流しに行きな〜!」
「以外とあっさり…」
「ありゃ、フレンドくんもうレベリング始めちゃったのかな」
「え、まだサービス開始から20分しか経ってないけど……ってアイツはそうゆうやつか」
リュートが言うアイツとはマサハルのことだ。FSO内では名前の捩りでマールと言う。 ちなみにリュートは本名の来沢竜登から少しづつ齧る……という訳でもなく、面倒くさいので本名を片仮名にしただけだ。もっとも、リュートにネーミングセンスが無いのがオチなのだが。
「メニューオープン」
シュイーン、というSEと共に目前に光の壁が浮かび上がる。
「ろ、65?!いくらなんでも早すぎるんじゃないか?」
「だから言ったでしょうマスター。FSOは序盤のレベリングが大事。エネミーのリポップは一日に限られてるの。急がないと今日の分は狩り尽くされちゃうわよ!」
ぺちぺちとケツを叩かれる。痛くも痒くもないのだが、ピクシードが可愛い生き物なことには違いない。
「まずは合流が先ね!早く転移石持って!ささ、行くわよ!」
「『転移ッ!』」
*
『待ってたよリュート!あんまり遅いからレベリングしちゃったよ(´>ω∂`)☆』
「おいマール、変な絵文字を使うな。あと掲示板じゃなくてボイスチャットを使え。普通に話せるだろ」
「はいはい、リュートは相変わらずだね。そいや、来る途中にモブ見た?」
「転移したから見てないな」
「装備やNPCは?」
「だから、転移したから見てないって」
「街の景観とお城の入口は?」
「だーかーらー見てないってば!!!!!」
思わず叫ぶ。合流できたと思ったら、なんだこの畳み掛けは。それもそのはず、リュートは転移石を使い、王都テレスタリアへ来たのだ。初期リスポーン地点の鬱蒼と茂る森の景色以外何も知らない。未だこのゲームで見たのはメニューウォールとピクシード、あとめっちゃ森。……そういえば、自分のキャラメイクした顔を見ていない。
「マール、鏡持ってるか?」
「鏡?手鏡なら初期リス時にインベントリに入ってるだろ」
「あ、インベントリ確認してねえ」
「え!ゲーマー失格すぎる、それ。腕なまってんじゃね?」
「最近忙しかったから…」
「まあこのゲーム最近配信されたばっかだから情報も少ないししゃーない!オレたちってばちょー最古参勢だぜ?」
「ユーザーも少ないしな。凄い制作費かかってるだろうに……」
「まあまあ、そのうち爆発的な人気になるっしょ~」
「お前は楽観視しすぎだ。それじゃ運営が可哀想だろ。初期ユーザー1000人じゃ稼ぎにならんだろ…これは俺らが課金するしかないな」
「出たよゲーム廃課金勢」
他愛もない会話を続ける。そよ風がふわりとリュートの髪をなびかせた。
「ん、お前エルフ選んだのか?!かっこいい~!」
「なんだ、俺ってば結構キャラメ上手いな」
「珍しく納得いくまでキャラメしたんでしょ。今までは悲惨だったよね~…とくにパワー重視しすぎてムキムキの髭面緑色ゴリラみたいなやつw」
「なんだよ、いいだろ別に。」
マールはぷい、と顔を膨らませてそっぽを向くリュートを「んふふ」と微笑みながら見つめた。賑やかな都、そびえ立つ純白の城、洋風の街並み。そこにはこうやって昔話に花を咲かせるのも悪くない、と思っているエルフと人間の二人組冒険者がいたのだった。
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