聖灰の森人

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序章 1-1 始まりはワンタッチ




一時の感情でエルフを選んだのが全て。それはタッチするだけの簡単操作。さてジョブは何にしようか――。

「エルフだし無難に精霊系……ん、精霊騎士エレメンタルナイトなんてのもあんのか……よし、これにするか」

まあ、このジョブの善し悪しは不明だし、なんだか上位職っぽい名前のジョブなので、序盤の育成が心配だが、今後ジョブ変できる神殿やら何やらがあるだろうと信じて、俺は新たな世界の扉を開いた。


――オープンワールド

それは、感動の世界

――オンラインゲーム

それは、仲間と君の物語

――ファンタスティック・オンライン

それは、未知への扉


「今どき臭い売り文句だなおい。はいはい、わかったって」

パッケージを見て呟いた声は、部屋の静けさに吸い込まれる。

「うげ、ジェルの色どうにかならないの…?」頭皮に蛍光緑のジェルを塗り、ヘルメット状の電子機器を装着する。同じようにして、手足にもジェルを塗り、ゴツくて重い金属の手袋と靴を装着する。

「ここまでしなきゃ行けないのか…まるで人体実験だな」

まあ、やりたいのでしょうがない、と割り切って購入したのは自分自身なので、なんとも言えない。リュートはベッドの上に「よいしょ」とベタな声を漏らしながら身体を横にした。

「オーケーガイド、スタンバイ完了。アクセス開始」

ガイド、と呼ばれる精神維持アシスト機能『Guide』は没入型VRMMORPG専用機器、『SkyBrain』専用の自立型AIだ。現在、SBスカイブレインではファンタスティック・オンラインなどの限られた没入型ゲームしかプレイできないが、製作会社が、将来的にはもっと軽量化&簡易的な機器にする、と発言しているので、期待を込めて、古参勢になってやろうと安直な考えを持ったのが今それに手……脳を染めている理由だ。

目の前が虹色に光り輝く。球状の発光体が、こちらへ向けて飛んでくるが、全て身体をすり抜けるようだ。スピードが出ている感じがする。空飛ぶ自転車にでも乗ったらこんな気分なんだろうか――

『ファンタスティック・オンラインへようこそ。』

「マスター!!!」

「のわっ、早速妖精か?!」

「どもども~マスターだけのガイドピクシー、《ピクシード》のバイオレットちゃんだよ!見てください、この頭のお花がチャームポインッ!ぜひ、『ビオラ』ちゃんって呼んでね!うぇるかむマスター、末永くよろしくッ!」

「お、おわぁ……」

「どうしたんだいマスター!リピートアフターミー、ビ・オ・ラ!」

「び、ビオラぁ、」

「ま、いいや。そのうち慣れてね!じゃあ、さっさとフレンドと合流しに行きな〜!」

「以外とあっさり…」

「ありゃ、フレンドくんもうレベリング始めちゃったのかな」

「え、まだサービス開始から20分しか経ってないけど……ってアイツはそうゆうやつか」

リュートが言うアイツとはマサハルのことだ。FSO内では名前の捩りでマールと言う。 ちなみにリュートは本名の来沢竜登から少しづつ齧る……という訳でもなく、面倒くさいので本名を片仮名にしただけだ。もっとも、リュートにネーミングセンスが無いのがオチなのだが。

「メニューオープン」

シュイーン、というSEと共に目前に光の壁が浮かび上がる。

「ろ、65?!いくらなんでも早すぎるんじゃないか?」

「だから言ったでしょうマスター。FSOは序盤のレベリングが大事。エネミーのリポップは一日に限られてるの。急がないと今日の分は狩り尽くされちゃうわよ!」

ぺちぺちとケツを叩かれる。痛くも痒くもないのだが、ピクシードが可愛い生き物なことには違いない。

「まずは合流が先ね!早く転移石持って!ささ、行くわよ!」

「『転移ッ!』」



『待ってたよリュート!あんまり遅いからレベリングしちゃったよ(´>ω∂`)☆』

「おいマール、変な絵文字を使うな。あと掲示板じゃなくてボイスチャットを使え。普通に話せるだろ」

「はいはい、リュートは相変わらずだね。そいや、来る途中にモブ見た?」

「転移したから見てないな」

「装備やNPCは?」

「だから、転移したから見てないって」

「街の景観とお城の入口は?」

「だーかーらー見てないってば!!!!!」

思わず叫ぶ。合流できたと思ったら、なんだこの畳み掛けは。それもそのはず、リュートは転移石を使い、王都テレスタリアへ来たのだ。初期リスポーン地点の鬱蒼と茂る森の景色以外何も知らない。未だこのゲームで見たのはメニューウォールとピクシード、あとめっちゃ森。……そういえば、自分のキャラメイクした顔を見ていない。

「マール、鏡持ってるか?」

「鏡?手鏡なら初期リス時にインベントリに入ってるだろ」

「あ、インベントリ確認してねえ」

「え!ゲーマー失格すぎる、それ。腕なまってんじゃね?」

「最近忙しかったから…」

「まあこのゲーム最近配信されたばっかだから情報も少ないししゃーない!オレたちってばちょー最古参勢だぜ?」

「ユーザーも少ないしな。凄い制作費かかってるだろうに……」

「まあまあ、そのうち爆発的な人気になるっしょ~」

「お前は楽観視しすぎだ。それじゃ運営が可哀想だろ。初期ユーザー1000人じゃ稼ぎにならんだろ…これは俺らが課金するしかないな」

「出たよゲーム廃課金勢」

他愛もない会話を続ける。そよ風がふわりとリュートの髪をなびかせた。

「ん、お前エルフ選んだのか?!かっこいい~!」

「なんだ、俺ってば結構キャラメ上手いな」

「珍しく納得いくまでキャラメしたんでしょ。今までは悲惨だったよね~…とくにパワー重視しすぎてムキムキの髭面緑色ゴリラみたいな‪や‪つ‪w」

「なんだよ、いいだろ別に。」

マールはぷい、と顔を膨らませてそっぽを向くリュートを「んふふ」と微笑みながら見つめた。賑やかな都、そびえ立つ純白の城、洋風の街並み。そこにはこうやって昔話に花を咲かせるのも悪くない、と思っているエルフと人間の二人組冒険者がいたのだった。

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