第26話 巨大ロボット
敵中隊全員に集中しながら、俺は頭の中に浮かぶレーダーにも気を回す。
『第五分隊前に出過ぎだ。第八分隊は第六分隊の援護。第四分隊は南にバック離脱から一斉射撃していいぞ。あと左翼、ウオンが準備に入ったから全員上昇』
左翼を担当するウオンの両手に一本の大剣が再構築される。
グリップだけで二メートル、刀身が六メートル。系八メートルの大剣は、慣性からくる反動で装備者への負担が大きくて、やはり常人には装備できないものだった。
俺の仲間は一斉に真上にクイックブースト。
「はぁああああああああああああああああああ!」
大剣の先端からプラズマの刀身が形成されて、刀身の長さが倍化。
ウオンが、戦場を真横に薙いだ。
まとめて一〇を越える敵機の胴体が火花を散らせながら下半身と分かれる。
コマのように一回転しながらブースト操作で移動し、ウオンの二撃目は二〇を越える敵機を斬滅した。
かと思えば弾かれたように逆回転、予想を裏切られて敵機達は三撃目を喰らい、二〇〇人中隊はもう三〇人もいない。
その三〇人を、真上に逃げた俺の部下達がタングステン弾のシャワーで仕留める。
『よしマイコ、ウオン。俺に続け』
俺は二〇〇人中隊最後の一人を撃ち殺すと、敵後衛、おそらく隊長中隊であろう最後の中隊へ突っ込む。
俺に遅れてマイコとウオン、そしてトモカとウサミ達が続く。
「ぐっ、撤退! 撤退だぁあああ!」
「逃がすかよ!」
俺を先頭に第五中隊は全員最大出力でメインブーストを吠えさせる。
背後の空間に莫大な斥力を加えて、俺らは閃光のように道路を飛び抜けた。
その時、俺のレーダーが異常を告げる。
『全員止まれ! 前方のビルから巨神甲冑反応だ!』
空中で急制動をかけて、空で制止。
巨大でレーダーに映り易い巨神甲冑は、ステルス型コンテナに格納する事が多い。
レーダーに突然反応が出たということは、このビルの向こう側で巨神甲冑が、コンテナから解放されたという事だ。
「先手必勝! 全員荷電粒子砲用意!」
俺らは一斉に装備武装を背面のハードポイントに保持すると、ボックスの中にプールしている量子情報一覧から荷電粒子砲を選択。
再構築と同時にチャージする。
「発射!」
チャージ時間は十分とは言わないけど、それでも荷電粒子砲の威力は凄まじいものがある。合計一〇〇の荷電粒子ビームが目の前のビルを直撃。
貫通して、反対側に控えている巨神甲冑に直撃しているはずだ。
たまらずビルが自重で縦に潰れた。
土砂崩れのような轟音と一緒に粉塵が巻きあがり、視界がきかなくなる。
レーダーに注目するが、敵機の反応はまだある。
『全員に通達。甲冑の機能が二割以上落ちている奴は撤退準備。他も五〇メートル後退』
俺の予感は的中。
粉塵が晴れると、そこには高さ二〇メートルの青白い光の壁がそびえている。
巨神甲冑は、軍事甲冑を二〇メートルにサイズアップしたものと考えていい。
軍事甲冑についている機能は巨神甲冑にも搭載されているし、だからこそ搭乗者は軍事甲冑の戦闘技術をそのまま応用できる。
体感重力の違いにさえ慣れれば、巨神甲冑に乗った兵士は、ただ小人をひねりつぶせばよい。
「きやがったなラスボス」
プラズマ・ウォールが消えると、身長二〇メートルの鋼の巨人が佇んでいる。
右手に握るライフルは完全に大砲サイズ。
左手に握る高周波剣は民家を両断できる長さだ。
手の武装も、肩のミサイルランチャーも、まるで施設に搭載された迎撃装置のような規模だった。
メインカメラである二つの巨眼が俺らを見据えて、装甲越しに殺意を感じた。
巨神甲冑は軍事甲冑でどうこうできる相手じゃない。
まずみんなを退避させよう。何せ巨神甲冑には巨体故のデメリットが、
「敵機発見! お前ら、第五中隊に手柄を持って行かれるな!」
馬鹿が来た。
右手から巨神甲冑へ、第四中隊の面々が空を飛んできた。
第四中隊は敵の布陣が薄い場所から攻めることになっていたので、もう到着したらしい。
「撃て撃てぇ!」
第四中隊の連中は空中に静止して一斉射撃。
数の利を活かそうというのだろうが無駄だ。
巨神甲冑の大きさは軍事甲冑の八倍。装甲の厚みも八倍。面積は六四倍。プラズマ・アーマーに包まれた甲冑の装甲八枚を貫く威力があるならともかく、小人の矮小なタングステン弾やプラズマ弾を何発ブチ込んだところで、巨神甲冑のプラズマ・アーマーを突破するだけで終わりだ。
装甲には僅かな痕が残るだけだった。
五人の兵士が荷電粒子砲を放った。
が、巨神甲冑は光の壁、プラズマウォールを展開。容易く防いだ。
「ええい! あいつの周囲を包囲してかく乱しろ!」
巨神甲冑が一言。
『愚かな』
第四中隊の兵は中隊長の言う通り、巨神甲冑を取り囲もうとして、大剣の一薙ぎで蹴散らせされた。
一瞬だった。
秒殺だった。
第四中隊の兵士は悲鳴も上げられず、機体はバラバラに砕け散った。
「なんだとぉ!?」
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