第25話 最高のスナイパー
それでも敵二個中隊は退かない。
二〇〇対二で勝てるわけがない、冷静さを取り戻せば勝てる筈、と思っているのだろう。
その判断は正しい。
いくらあの四人が無双の強者でも、一〇〇倍の数を相手に勝てるわけがない、でも大丈夫、だって。
『うおおおおおおおおおおおお‼ 中尉に続けぇええええええええええええ‼』
中央で戦っていた筈の俺の仲間一〇〇人は、左右に分離して援護に向かった。
だってもう敵前衛中隊は倒したんだから。
→■□←トモカ&ウサミ&第五中隊五〇人
■→■→ □俺
→■□←マイコ&ウオン&第五中隊五〇人
さて、俺らを包囲しようとした敵中衛三個中隊のうち、右翼左翼は頼もしい仲間がなんとかしてくれたから、中央の二〇〇人は俺がなんとかしますかね。
「いたぞ、隊長機だ!」
「あいつが魔王マンモンこと、桐生セツラか」
いや、俺が自称したわけじゃないんだけどね、
「懸賞金一〇〇〇万東ユーロドル」
俺が投降したらそれ俺にくれる?
「味方から孤立している今がチャンスだ! かかれぇ!」
孤立しているんじゃなくて、したんだよ。
景気良く怒号をあげながら突っ込んで来る中央中隊に、俺は右手のローレンツ・ライフルを吠えさせた。
一息で、銃口を俺に正しく向けている一五人の銃口にタングステン弾を撃ち込んだ。
他に俺に銃口を向けていた敵機が発砲するが問題ない、ちょっと身を逸らすと、全部紙一重で俺からはずれた。
銃口を見れば銃弾がどこを通るか解る。引き金を見ればいつ発砲するか解る。
その中で、かわしにくい敵だけを撃てばいい。
この取捨選択は、兵士の勘が教えてくれる。
んで、敵装甲や電離分子装甲(プラズマ・アーマー)が想像以上だった事を考慮して、本体ではなく銃狙い。
「クイック」
俺はクイックブーストで急発進。
敵中隊が俺に照準を合わせる直前にまたクイックブーストで横に上に下に、面移動しながら接近。
距離二〇メートルのところで両肩のミサイルランチャーから空対空ミサイルを八発発射。
敵は近距離からのミサイルに対応できず爆散。
俺は背後の爆発を気にも留めず、敵中に跳びこんで両手の獲物を猛らせる。
左手の高周波刀が唸る。全身に斬撃をまとい、近距離の敵全てを装甲ごと斬り伏せて血の海にする。
右手のローレンツ・ライフルが狂喜して離れた敵を、危険度の高い順に撃ち殺していく。
この距離からならプラズマ・アーマーで防ぐのは難しいだろう。じゃんじゃん撃ってやる。軍事甲冑の基本機能であるプラズマ・アーマーは俺もまとっているので、かすめる程度の弾丸は無視して喰らってやる。どうせ、プラズマを突破して装甲を傷つけることはできないだろう。
多対一の基本。攻撃を当てそうではなく、通して来そうな奴から倒す。だ。
俺は敵群の中を止まらず絶えず動き、駆けまわる。
左手から人体を切断する感触が途切れることはなく。
タングステン弾が甲冑の装甲を穿つ音が耳から消えることはない。
さながら俺は戦場の嵐。
近づけば吞みこまれ、離れても放たれた凶弾に巻き込まれる。
俺は仲間を巻き込まないよう、あえて孤軍奮闘を選んだ。こんな俺のサポートをできる奴なんて、
「ガッッ……」
「グッッ……」
俺に銃口を向けてくる連中の中で、俺が処理しきれなかった奴の頭が、次々タングステン弾で撃ち抜かれる。
地上戦をやめて飛翔、俺を上から狙おうとした奴も、飛んだ側から撃ち殺された。
◆
戦場の遥か後方。
セツラ達からは二キロ以上離れた地点にそびえる廃ビルの屋上で、小野寺フワリはスナイパーライフルを、両手に一丁ずつ構えていた。
ロックオンサイトを両目の視界にそれぞれ映しながら、フワリはセツラの一挙手一投足を見逃さない。
彼女も高機動型軍事甲冑センゴク、それもスナイパー用にカスタムしたソレを装着しているとはいえ、両手にスナイパーライフルは異常だ。
しかしその異常を成し遂げるのが世界最強の狙撃一家小野寺家の、否、桐生セツラの先祖であるとある少年を守ろうとした小さな少年の血だった。
フワリは満ち足りた顔で、幸せそうに呟く。
「セツラ……セツラは死なないよ。だって、わたしがいるもん」
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