第27話 巨大ロボの戦力はパワードスーツ1000機分

「なんだとぉ!?」


 巨神甲冑が跳んだ。飛んだのではなく、脚部による跳躍。

 第四中隊との距離、二〇〇メートルを軽々と一息で詰めて、鋼の巨人は空中で大剣を振るい、残りの空飛ぶ小人達を一蹴。

 慌てて撤退する第四中隊の背中に特大サイズの銃口が向けられた。


『死ね』


 冷たい言葉と同時に、バケツサイズのタングステン弾が毎秒一〇〇も放たれる。


 電磁誘導の力で、超音速回転をしながら凶速で空中を駆け抜ける巨人の殺意が兵士達の肉体を通り抜ける。


 腰のブースターを、背面装甲を、人間を、胸部装甲を、延長上の全てをミキサーにかけたように一瞬で撹拌して殺意は空の彼方へと消えた。


 今まで巨大ロボットが実用化されなかった理由。


 それは重すぎて動きが鈍重になるから。


 それは大きすぎていいマトになるから。


 でも巨神甲冑には反粒子炉がある。


 陽電子炉とは遥かに隔絶した性能を持つ神の炉心を持つ巨神甲冑の馬力は、大きさを考慮してもなおあまりあるモノだ。


 言ってしまえば、巨神甲冑はあの巨体で、軍事甲冑と変わらぬ敏捷性を備えている。


 軍事甲冑VS巨神甲冑は、決して猟犬VS巨象ではない。


 人間VS小型犬。あるいは人間VSチョウチョだ。


 巨神甲冑が虫取り網よろしく、その大剣を振りあげた。


『日本の虫ケラめが、この東ヨーロッパ軍少佐、イラード・ストルフェルが駆逐してくれるわ!』


 俺は通信を開いて、後方に控えている仲間の浅野ノノにお願いをする。


『可愛いノノちゃん。ちょっち超特急で俺の巨神甲冑届けてくれない?』

『OK。お礼は高いわよ、性的な意味で』


 チュッと通信越しにキス音をさせて、ノノは通信を切った。


 さてと、ノノが巨神甲冑を届けるまでの間に敵軍の妨害もあるだろうし、それまで俺は時間を稼ぐか。俺は空中に、イラードの腹ぐらいの高さで制止したまま、


『よしお前ら! これからお前らに対巨神甲冑戦における注意を教えてやるぜ。二〇〇メートル離れていな』


 通信機の向こうから、まだ撃ちの隊に入って日が浅い連中の悲鳴が聞こえる。


『隊長! まさか一人で戦う気ですか!?』

『正気とは思えません! 巨神甲冑の戦力は軍事甲冑一〇〇〇機分ですよ!』

『しんがりは我々が務めます! 隊長は逃げて下さい!』

『いいからいいから♪ おいお前ら、みんなを頼んだぞ』


 こういう状況で、俺が名指ししない時は、直属の部下であるトモカ達の事を差す。


 トモカ、ウサミ、マイコ、ウオンの四人は返事をして、みんなの前に進み出て、俺との境界になる。


『魔王マンモン、桐生セツラ大尉だな? 軍事甲冑で巨神甲冑に挑むとは、笑止!』


 イラードが駆ける。巨人が駆ける。


 一五〇トンの質量が地面を穿ちクレーターを作りながら、並々ならぬ重圧で俺に襲い掛かる。


 身長二〇メートル。クジラが腹を見せて跳びかかって来るのを想像して貰えば、俺の気持ちがわかるだろう。


 イラードは、やぐらのようなサイズの高周波剣を思い切り俺に振り下ろしてくる。


「さあてお前ら、まず巨神甲冑の筋力と重量は軍事甲冑の五〇倍。防いだり受け流そうとすれば腕や武器ごと潰されるから絶対にしちゃ駄目だぜ、こんな風に‼」


 ガッッッギィイイイイ‼‼‼


『うけながしているぅうううううううううううううううう!?』


 俺の右側を通り抜けた凶刃は、地面を抉りながら刀身をまるごと大地に沈めてしまう。


 地面が噴火して、爆薬を使ったように粉塵が上がる。衝撃波が、空気越しに俺に伝わる。


 頭上からふりかかった大質量物質を、俺は高周波刀で受け流した。というよりも、受け身を取った。


 俺に当たった大剣が横に逸れたわけじゃない。


 大剣を足場に、俺の身体が左に逸れたのだ。


 ただハタ目には、まるで俺が巨人の上段斬りを華麗に受け流したように見えただろう。


『ッ、そんなバカな! 矮小な軍事甲冑のパワーと武装でそんなことが!』


 矮小なチョウチョを叩き落とすべく、虫とり少年イラード君はライフルを背負うと、両手で再度虫取り網を振りあげてから、正眼に構える。


「注意事項二! デカイからってスピードでかく乱しようとか思うな! 軍事甲冑と巨神甲冑の走るスピードは同じ! こいつらは巨人のくせにめっちゃ俊敏に、超アクロバットに動くことができる! だから」


『落ちろぉおおおおおおおお!』


 イラードは両手で大剣を振り下ろす。両手で操る分、巧みさはさっきの比では無い。


「スピードで勝とうと思うな!」


 ひらりん


『めっちゃかわしとるぅうううううううううううううううううう!?』


 思った通り、両手で操るイラードの大剣はかわされるとすぐに跳ねあがって第二撃を、そして三撃四撃と、剣の達人さながらに連続斬りを放ってくるが、俺には当たらない。


 速さじゃない。


 短時間で急加速するクイックブースト。


 俺はそれを、常に違う方向に入れまくっていた。速いのではなく観測者の予測を裏切る方向へ飛ぶ事で、認識されにくくなる、まさしく虫の飛行方法だ。


 ただし急加速のクイックブーストは急激なGの変化で搭乗者の身体に負担をかける。


 今も俺の身体には上下左右前後とめまぐるしく圧力がかかってくる。


 軍事甲冑にもパイロットスーツにも、Gをやわらげる工夫はされている。だが音速の数十倍という神速ならぬ死速、死神の速度を得た代償は殺し切れない。


 この飛行方法で内臓をおかしくない奴なんて……たぶん俺だけだろう。


『ならばこれで!』

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