第18話 二審
「ではこれより第二審を始めます」
二審では、それぞれの交渉人が他の交渉人が一審口頭で言った事を踏まえて再びアピール。けど内容は基本的に他の交渉人のアピールへの反論になる。
これが終わるとまた議長が審議して、三審時に除外する交渉人を決める。
「では次は、第三中隊から」
他の隊の交渉人はやっぱりというか、教科書通りの主張だった。
僕らの第五中隊が激戦地区なのは認めるけど、だからといって要求物資が多すぎる。
第五中隊は激戦区を傘に来ていつも物資を独占している。
第五中隊はいつも大きな戦果を納めているのは不当に物資をもらっているからだ。
ナミカちゃんはこれを狙っていたのだろう。
他の隊に反論する二審が始まる前に僕を攻撃して、他の隊を尻馬に乗せる。
教科書通りの反論とはいえ、他四隊全てに『第五中隊は物資を受領し過ぎる』と言われたら、裁判長の心象はずいぶん偏るだろう。
「では続いて、第五中隊」
「はい」
僕は立ち上がり、せいいっぱい毅然とした態度で裁判長に向き合った。
「まず僕が主張したいのは、二階堂交渉人が偽証を行っているという点です」
「なんですって!」
ナミカちゃんはすぐに噛みついてくる。
「ナミカちゃんは、敵が自分達よりも多い三〇〇機だから多くの物資が欲しいと言っています。ですがその三〇〇という数字が嘘だったらどうでしょうか?」
「鷺澤サク交渉人、証拠はあるのですか?」
「はい」
「嘘よ、そんなものあるわけがないわ!」
量眉をつり上げるナミカちゃんに向き合い、僕は投影画面を操作した。
「まず第一中隊はこのレーダーの反応結果を敵機の数の根拠としていますが、これはレーダーの反応の数であり敵機の数ではありません」
「何をいっているのかしら? レーダーの赤丸は敵機の反応を示すのよ? 所属不明機んがら黄丸で表示されるし、最新式に変えたばかりのレーダーにデコイなんて」
「観測機なら?」
「へ?」
ナミカちゃんの顔の表情が硬くなる。
「これは同日同時間帯の、衛生写真です」
サエコちゃんの旧式レーダーに積み替えた、という疑いは空ぶりだった。
でも、ルイちゃんの新式レーダーが敵機以外の何かを捉えた、という疑いは当たっていた。
ルイちゃんがナミカちゃんのメールをハッキングする前に、手に入れた、日本軍衛生写真の映像を、僕は何枚もの投影ウィンドウに展開する。
「ご覧のように、敵陣営側には多くのロボットらしき影が映っています。ですがこれを一つ一つ拡大していくと」
各投影画面が、敵機の影を拡大。
そこには、敵軍がよく使っている偵察用の自律兵器だった。
「この偵察専用機は潜行力が高いのが特徴です。足音や駆動音が小さく、レーダーにも映りにくい」
「そうよ! その偵察機はレーダーには」
「旧式のレーダーなら、ね」
「ぐっ!」
ナミカちゃんが言葉に詰まる。
僕は裁判長に向かって、一気に畳みかける。
「つまりはこういう事です裁判長。我々第四大隊は先月、最新式のレーダーに積み替えを行いました。結果が、敵のデコイには騙されなくなり、それどころか敵の偵察機すら捉えるようになったのです。結果、敵戦闘機体だけでなく、敵軍が第一中隊偵察の為に放った大量の偵察機体も全て捉えてしまい、敵機の反応は凄まじいものになったのです」
歯を食いしばるナミカちゃんに目くばせをしてから、僕は裁判長に続ける。
「御存じの通り、この偵察専用機はスニーキング力が高い反面、戦闘力は極めて低いものです。ナミカちゃんの言う通り、確かに敵は三〇〇機の軍勢かもしれません。ですが、それは戦闘力を欠いた偵察機を含めた三〇〇機なのです」
「ふむ、第一中隊、何か反論はありますか?」
「え!? それは、その……っ」
ナミカちゃんの鋭い目が、僕を斬りつける。でもそれだけで、ナミカちゃんは歯を食いしばった。
「あ、ありません……」
勝った。
これで三審でナミカちゃんが除外されれば、
「ですが、追加主張として証人弁護をさせて頂きます」
え?
「左官の皆様を利用するようで気が引けていたのですが。ここはあえて言わせて頂きます。四月二十日から二三日までの四日間。我が隊には本部より大佐のお歴々がお見えになりました。三審では、彼らの話をお聞き下さい」
た、大佐達の証人弁護?
まずい、これで裁判長は、絶対にナミカちゃんを三審に出席させる。
◆
その頃、桐生セツキの病室では、大丸ルイが彼女に寄り添っていた。
セツキはベッドの上で上体を起こし、ルイのふっくらボディをうしろから抱き締めご満悦だ。
「ぐふふふふ、ルイは最高の抱き枕だな」
抱かれるがままのルイも、まんざらではない様子で抱かれっぱなしだ。
「それでセツキ殿、サク殿は勝てると思いますか?」
「勝つぞ。でなkればあいつに任せはしない」
「でもサク殿の性格上、不倫の証拠を使って第一中隊の中隊長を失脚させられる度胸はありませんぞ?」
セツキは喉の奥で笑った。
「不倫の証拠なんていらないさ。バブバブナミカの使いそうな手と、私の可愛いサクの性格を考えれば、答えはおのずと導かれる」
ルイの豊かな胸に、セツキの指が食い込んだ。
「私は、宝石と原石しか手元に置かん」
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