第16話 盗聴器チェック


 僕はLLGの投影画面を開いて、スパイアイコンをダブルタッチ。


 するといくつか開いた画面の中に、電話中の表示を見つける。


 僕は気になってタッチすると、ナミカちゃんの家の固定電話に取り付けられた盗聴機の音声が流れる。


『お見舞いなんて冗談じゃないわ! あんな女、母親と思うだけでも吐き気がするわよ!』


 僕の部屋に、ナミカちゃんの怒声が響いた。


『しかしお嬢様、奥様は今朝も顔色が』

『そうね、あたしが交渉人としての仕事で、二階堂家の令嬢という立場を利用しているのは事実よ。でも家柄も実力の内、他の交渉人だって、名家の人間は私と同じ、いえ、私以上の事をしているわ。でもね、私はあの女の力だけは使わない』


 強い決意を感じる声で、ナミカちゃんは言った。


『他の交渉人は、親の権力を使う、本当の意味での虎の威を借る狐がいるわ。それは親の力であって本人の力じゃない。でも私はそんなことはしない。二階堂ナミカである私は二階堂家の人間、という私自身の肩書は使っても、あの女個人の権力だけは利用しないわ』


『……お嬢様』


 今度は一転、ナミカちゃんは声をやわらげる。


『ありがとうメイド長。私の事を本気で心配してくれる人なんて使用人達だけだったけど、その中でも貴女が一番私に親身になってくれて、本当に感謝しているのよ』

『いえっ、私など』

『謙遜しないの、じゃあおやすみなさい』


 通話は、そこまでだった。

 僕は監視カメラの映像を並べる。そのうちの一つにナミカちゃんが映って、僕はその画面を拡大、目の前に置いて、


「なぁッ!?」


 僕は思わず奇声を発してしまう。


 だってナミカちゃんが突然……服を脱ぎ始めたから。


 そこは脱衣所だった。


 僕が言葉を失っている間にも、ナミカちゃんは洋服を脱ぎ去って、結構派手なブラのホックをはずした。


 ささやかな、かわいらしいふくらみ上に、桜色の頂点が色づいている。それが本当に可愛くて、でもドキドキして、セツキ先輩とは違うドキドキで僕の胸はドキドキしていた。


 画面越しでも伝わって来る、白くきめ細かい、なめらかな肌の艶。


 小柄な体と同じ、小さくて、でも均整のとれた手足は、なにものにも汚され得ない純真さの塊から削り出した彫刻のようだった。


 僕が固まったまま画面を凝視していると、ナミカちゃんのこぶりな、でも綺麗なラインのお尻が見えた。

ナミカちゃんは、ついにショーツも脱いでしまった。


 うわわっ! ナミカちゃんの! ナミカちゃんのつるつるとぺたぺたが!


 顔が、まるでキャンプファイヤーの目の前にいるように熱い。


 僕は耐えられなくなって、画面を叩き飛ばした。ウィンドウは横に移動して、後ろのウィンドウが姿を現す。


 そのウィンドウの光景を見て、僕の鼻から生温かいものが、つーっと流れた。


 そのウィンドウは脱衣所の奥、お風呂場に設置されたものだった。しかもアングル的に、入室するナミカちゃんを真正面から捉えている。


 僕はスパイウィンドウを全画面消去。


 息を荒げながら、天井を仰いでクールダウンする。


「か、監視カメラはだめだ……そうだ、論破するだけじゃなくて、こっちのアピールもしないと」


 僕は投影画面の中から、メールボックスを開いた。


 今まで前線からの報告書ばかり読んでいたけど、前線で戦うセツラ大尉からのメールに何かヒントがあるかも。


 僕はだいたい毎日届くセツラ大尉からのメールをチェック。


 公式の報告書と違って、雑談が多いけど中隊長であるセツラ大尉の感想だ。裁判中『セツラ中隊長もこのように報告しております』なんて言える場面があるかもしれない。


 とにかくやれることは何でもやろう。


 僕はそう心に決めながら、ここ最近のメールを全部チェックした。


   ◆


 そして兵站裁判当日。


 交渉代理人である僕の隣には、僕の補佐官としてサエコちゃんが座っている。


 法廷に並ぶ各隊の交渉人達。


 第五中隊の僕と、第一中隊のナミカちゃん以外の三人はおじさんの交渉人で、その目は殺気だっていると言ってもいいかもしれない。


 戦史の歴史は兵站の歴史。兵站が途絶えて敗戦した国は数知れない。


 戦争で大事なのは何をするかではなく、何をしたか。


 勝敗は戦いが始まる前から決まっている、と言ったのは確か織田信長だったっけ?


 なら、この裁判で各隊の勝敗が決まると言っても過言じゃない。


 これが僕の、僕ら後方支援の戦争だ。


「開廷」


 裁判長が告げる。


「これより、兵站裁判を始める」

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