第14話 あれ?僕がおかしいの?


 サエコちゃんは自分のメイド姿を見下ろしてから、髪の顔の空間テクスチャがそのままであることに気付いたようだ。


「そうでした。すぐに解除を」

「サエコちゃんていつものベリーショートが可愛いんだけど、ロングも似合うよね」


 投影画面を操作する手が止まる。

 サエコちゃんの視線がゆっくりと僕に向いて、唇を軽く噛みながら落とした。

 ? なんだろう今の。

 でもすぐに、サエコちゃんはいつもの調子に戻る。


「私ほどの美人ならば、どのような髪型も似合ってしかるべきでしょう」

「す、凄い自信だね」


 僕は思わず感心してしまった。

 サエコちゃんは髪と顔のテクスチャを解除して、自分の席に戻って引き出しを開けた。僕は、


「まぁサエコちゃんぐらいの美人なら当然だよね」


 サエコちゃんの動きがまた止まった。


 それから、引き出しの中からウィッグを取り出して、左右の横髪につける。


 これでまたいつもの、ベリーショートだけど横髪だけ長い、サエコちゃん特有の髪型に戻る。


 ちなみにその横髪は体の前、胸にかぶさるようにして垂らしている。


 あれも胸を隠すためのアイテムなのかな? でもなんでテクスチャじゃなくてウィッグを使っているんだろう?


「それはそうとサク様。そちらは何か収穫はありましたか」

「うん。ルイちゃんがナミカちゃんのメールを」

「ヒットー♪」


 何本目かわからないチョコバーをかじりながら、ルイちゃんが上機嫌に笑った。

 僕とサエコちゃんが駆け寄ると、ルイちゃんは得意げに画面を見せる。


「第一中隊の中隊長殿は妻子持ちであるにも拘わらず、ナミカ殿の友人と不倫関係にありますですよ♪ ほらこれを」


 不倫、という背徳的な言葉にドキッとしながらも、僕はルイちゃんが表示する文章を黙読する。


 内容は、ナミカちゃんの友人のゴンちゃん(女の子に酷いあだ名だなぁ)が、ナミカちゃんに不倫の相談をしているものだった。


 中隊長に妻子がいるのは知っている。


 でも自分は彼の事が好き、どうすればいいのか。


 ナミカちゃんはゴンちゃんの相談に、親身に乗っていた。


 決して無責任な事は言わず、現実的な話をしながらもゴンちゃんの気持ちを肯定して、彼女を励ましている。


 そのメールの文面から、ナミカちゃんがいかにゴンちゃんの事を大切に思っているかが解る。


 そしてメールのやりとりをいくつか見ていくと、その一つに、


 PS フォルダを整理していたらなつかしい写真がでてきました。


 ルイちゃんが画面を下にスクロールさせると、そこに映っているのは誕生日ケーキと、飾りつけられた部屋、楽しそうに笑うナミカちゃん、その隣にはバッチリとメイクした、とても活発そうな笑顔の……


 ゴツ顔マッチョさんがいた…………え?


 二人の間に映っている誕生日ケーキには『渋瓦ゴンゾウ 15歳』と書いている。


 え、ええええええええええええええええええええええ~~~~~~!?


「ふっふーん♪ これで第一中隊の中隊長は失脚、裁判はわたし達の勝利なのですよ」


 え? なんでルイちゃんツッコまないの?


「こんな証拠を残すとは、ナミカの爪のあまい人生の象徴のようなメールですね」


 サエコちゃんまで。僕なの? 僕が変なの?


「でもこれを証拠として提出したらナミカちゃんの友達だって軍法会議にかけられるし、不倫を知っていたナミカちゃんも変なうわさをたてられちゃうよ」


 ナミカちゃん自身に罪はなくても、不倫の相談に乗っていた、というだけで名誉に傷がつくだろう。


「え? ナミカ殿の世間体が悪くなって何か問題でも?」

「むしろこれでセツキ様にたてつくあの邪魔なクソチビ馬鹿阿呆の痴れ者スカタンも失脚してくれれば一石二鳥ではありませんか」

「「敵には容赦なく非情に無情に無残に凄絶な最後を。それでこそ我らに刃向かう気もおきなくなるというものですよ?」」

「ひ、ひどすぎる……」


 二人の非情さに僕は開いた口が塞がらなかった。


「一応、むこうに盗聴機と監視カメラをセットしてきたので、これを聞いて他の手札もそろえておいてください」


 サエコちゃんは自分の投影ウィンドウから『スパイ』と書かれたアイコンをコピーペーストして、指でつまんで剥がすと僕に差し出した。


 僕はそれを受け取ると、そのまま自分の投影ウィンドウを展開して画面に貼付。インストールした。


 カメラの形をしたそのアイコンを指先でダブルタッチすると……


「うわっ!?」


 一〇個以上の画面が同時に開いた。


「ナミカの執務室とロッカーと自宅の全ての部屋と固定電話にセットして参りました」


 サエコちゃんは得意げに、リボンで覆われた胸を突き出して、鼻を鳴らした。


「前から思っていたけど、二人ってなにものなの?」


 二人は当然とばかりに、


「交渉人第二補佐官なのですよ」

「交渉人第二補佐官ですが何か?」


 僕は口を引き結んだまま、何も言えなかった。

   

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