第2話 裁判の魔王
「はーはっはっは! またまたまたまた勝ったわぁ! いやぁ、負けられるもんなら一度負けてみたいもんよねぇ」
裁判所から第五中隊の駐屯隊舎への帰り道、セツキは有頂天になって小踊りする。
「セツキ先輩、いくらなんでも調子に乗りすぎじゃあ……」
そう言うのはセツキの補佐人、鷺澤サクだ。
小柄で目立たない、まだ一六歳の少年である。
法廷でも常にセツキの隣の席に座っていたのだが、存在の薄さからか多くの人には存在すら忘れられる事も……
「くくくくく、何を言っているサク、私はなぁ、調子にのっているのではない。事実を口にしているだけなのだ。王が偉そうにしても王様気取りとは言われまい?」
「それとこれとは」
「しかし毎度毎度バカ共のバカなバカヅラを見るのは痛快だなぁサク。この強欲の魔王マンモンと恐れられる桐生セツキ様の足下に一ミリでもおよべると思うあの浅ましい浅知恵こそがあいつらの浅い人生の証明書だろうねぇ」
「何もそこまで言わなくっても」
「桐生セツキ!」
背後の声にセツキとサクが振り返る。
そこには真っ赤な顔で息を切らして走って来たナミカが肩で大きく呼吸をしながらこちらを睨んでいる。
「ぜぇ はぁ、あんたねぇ、いつもいつもあんな卑怯な事して恥ずかしいとは思わないの!? ああそうよね、あんたに恥じらいなんてないでしょうね、あったらそんな格好できませんものね!」
先程はずしたボタンをとめず、セツキの胸の谷間は出しっぱなしだ、それをセツキは、
「なぁサクぅ、興奮するかぁ? 眼福で嬉しいか、んん?」
サクが鼻血を両手で押さえながら慌てふためく。
セツキはそんなサクのようすを楽しそうに眺める。
「イヤァアアアアアアア! この破廉恥女ぁ! あんたみたいな奴がいるから後方支援はなめられるのよ! 日本の恥! 破廉恥女! 娼婦! 露出狂! 全身マ○コ女!」
「いやナミカちゃんのほうが破廉恥だと思うけど」
「うるさいバカサク!」
ナミカの鉄拳がサクの顔面に放たれ、セツキがそれを右手でぴたりと止める。
「あーら何キリキリしちゃってるのかしらバブちゃーん」
「ババ、バブちゃん?」
セツキはナミカと距離を詰め、身長差でセツキの爆乳がナミカの顔を突き飛ばす。
「ちょっ、近づかないでよ」
のけぞるナミカに覆いかぶさるようにして、セツキはナミカの貧乳を自身の爆乳で覆い潰しながら、顔を近づける。
「なぁんの実力もないくせに二階堂家のコネで交渉人になったバブちゃんがどのツラ下げてこの桐生セツキ様に口聞いてるのかしら? おしめはどこの会社? おしゃぶりおいしい? ママのおっぱいは何味? あんたみたいなお子ちゃまがツインテールとおっぱいプルプルさせながら怒っても怖くもなんともないのよ、あーごめんなさぁい! プルプルさせるだけおっぱいなかったわね万年スポーツブラの二階堂ナミカちゃん」
二人のまつ毛が触れ合いそうなほど顔が近づき、ナミカの目に涙が浮かぶ。
「反論は一度でもあたしを追い詰めてからにしなさい。まぁもっとも。あなたのチーパッパな脳味噌から絞り出したアパラパーなんて私の金言一滴で木端微塵だけどねぇ!」
ナミカの目から堰を切ったように涙が流れる。
「そこまで言わなくってもいいじゃなぁーい‼ うえぇええええええええええええええええええええええええん!」
ナミカはツインテールをなびかせ、どこかへ走って消えた。
あとに残ったのは、ただでさえ大きな胸を偉そうに張って高笑う大魔王様だった。
「ふっ、飛んで火に入る夏の虫とは言うが、何度焼かれても学習しない虫の気持ちが私には理解できないなぁ、はーはっはっはっ!」
また踊りながら隊舎を目指すセツキ。
「う~ん、でもあれはちょっとかわいそうだったような」
「何がかわいそうなものか、喧嘩を売ってきたのはあちらだぞ? 私はな、喧嘩を売られたら例え近所の子供が棒きれを持ってでも戦車で迎え撃つタイプなのだ」
「……それは過剰防衛だよね?」
サクは苦笑いを浮かべるが、セツキはサクを向き、後ろ歩きをしながら眉をひそめる。
「何を言う、昔から言うではないか。目には歯を、歯にはハンマーをそして仕返しは一〇〇倍返しと」
「それは目を刺して歯を砕くって事ですか? 危険思想はそのくらいに」
「何が危険思想なものか、被害者が加害者と同等の事をすれば罪が帳消しなど生ぬるい。仕返しとは相手が二度と刃向かえぬよう完膚なきまでに叩きのめす! これが鉄則だ。そんな事だからお前は便利な男一位と呼ばれるのだ。まぁ、そこが良いところでもあるがな」
セツキの頬がちょっと染まった。
「え、今何か」
「さぁって帰ったらこの事をすぐ中隊長であるお兄ちゃんに報告していっぱい褒めてもらおうっと、えへへー、お兄ちゃん喜んでくれるかなぁ」
しまりの無い顔で踊るセツキ。
この少女のブラコンはサクも昔から知っている。
何せ小学生の時に『お兄ちゃんと結婚できないなら一生独身でいてやる』と泣き喚いた事がある人だ。
ただし、ここ数年はおとなしいというか、兄への好意は変わらないものの、性的アプローチはまったくしていないようだ。
サクはそれを大人になった証拠と思っているのだが、
「あ! ちょっとセツキ先輩そこ階段!」
「ほえ?」
ぐらり
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ‼」
ゴロゴロゴロゴロドンガラガッシャーン‼
「せんぱーい!」
大階段の下では、セツキが大の字になって空を仰いでいた。
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https://dengekionline.com/articles/127533/
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