第13話 エリート様がフレンド入り
「アサラ!」
振り返ると、アメリアが涙を浮かべて、迷子の幼女みたいな顔で俺を見つめてくる。
感情表現が激しいのか、いや、俺の予想以上に試合結果がショックだったらしい。
「ワタシは、弱いのでしょうか……」
アメリアの、サファイアブルーの瞳から雫がこぼれる。
「ワタシは去年、中学生部門のニューヨークチャンピオンでした。だからきっと高校でも、MMBの本場日本でもすぐビッグスターなれると思ってマシタ……」
女優顔負けの美貌を歪めて、うつむいてしまうアメリアは、今までの自信や余裕なんて感じられない。触れるだけで崩れてしまいそうな繊細さと儚さをたたえた彼女を見て、俺は思わずその頭をやわらかくなでる。
「アサラ?」
「ごめんなハワード。実はお前は藤林よりも強いんだよ」
「WHY? でもワタシは一撃で」
「あれは奇策みたいなもんだ。もう一回やれば勝つのはお前、実力は完全にハワードのが上で、まともに戦っても勝てないから奇策に走って勝ちを拾ったんだ。でも俺はあいつを、藤林をレッドフォレストに連れて行くって約束しているから」
「謝らないでくだサーイ!」
アメリアは涙を浮かべたまま、俺の両手を握り一生けん命に喋る。
「バトルで作戦を考えるのは当たり前デスヨ! 卑怯でもなんでもないしアサラが謝る必要なんてありマセン! これはバトル。どんな手を使ってでも勝った者が正義デス!」
その必死な姿がおかしくって、俺の頬が緩む。
「じゃ、選手じゃなくてセコンドの差で勝った、って事で」
「………………oh」
アメリアは赤面して、完全に真下を向いて顔を隠してしまった。
「どうしたハワード、具合でも悪く」
端正な顔をいきなり上げて、
「ズッギュウウウウウウウウウウウウンデェエエエエス‼」
向こう三軒両隣に聞こえそうな声を上げて、アメリアは両手を頬に当てて瞳を輝かせる。
「やっぱりダーリンは最高デスネ♪」
「勝手にダーリンにするなよ」
案の定、喫茶店の窓にはクラスの女子達が集まり、こっちを見ている。
「まぁいいや、それと言っておくけど、藤林は二週間後の学園トーナメントまでには普通にお前より強くするぞ」
「ア、アサラ自信たっぷりデスネ。アサラに質問デス。ワタシはどうしたらもっと強くなれるデスカ?」
「油断しない事だ。去年のお前が優勝したニューヨーク州大会決勝戦の動画は見せてもらったよ。最初からドッグファイトに持ちこんで、無駄弾撃たないで、正しい武器選択をする。あの試合のお前なら、藤林は五分と持たなかったさ。相手が格下でも常に全力で、お前の弱点は精神面だ。じゃあ店に行こうぜ」
「ハイデスネ♪」
俺とアメリアは入店。いきなりハワードが笑顔で藤林に飛び付いた。
「おめでとうデスネ、ハンパイガール♪ ワタシの分もガッツ見せて優勝しないとダメデスヨ!」
「うわわっと、はは、どうしたのよ急に、ていうかハンパイ言わないでよ」
「ダメデスカ?」
「駄目に決まってるでしょ。ていうかあたしが勝った時の条件決めて無かったわね。じゃああたしが勝ったんだからハンパイ発言禁止、あたしには藤林叶恵って名前があるの!」
「じゃあカナエ、これからもよろしくデスネ♪ あ、アサラもよろしくデスネ♪」
きさくなハワードに対して、藤林はちょっと頬を膨らませる。
「ていうかハワード、前から思ってたけど、あんたなんで桐生の事、名前で呼んでるのよ」
「OH,フレンドをファーストネームで呼ぶのは当然デスネ。カナエとアサラは名前で呼び合わないデスカ?」
「えっ、あ、あたしはその」
言葉を濁す藤林とは逆に、俺は舌を回した。
「え? 俺は別にそれでもいいし軍じゃ名前呼び多かったぞ、でも知り合ったばかりの女の子を下の名前で呼ぶのって日本じゃちょっとなれなれし」
「そうよね朝更。あたし達も下の名前で呼ぶべきよ、というわけで今日から叶恵って呼びなさい」
「ん? まぁお前がいいならいいぞ」
何故か叶恵が『よっしゃ』みたいな顔で握り拳を固めた。
「じゃあ私も朝更くーん」
「朝更くん、オオクニヌシの話聞かせてぇ」
「朝更さん、月は今どういう戦況ですかぁ」
他の女子まで俺を下の名前で呼んで詰め寄って来る。
叶恵とアメリアは抗議をするも、ぐるりと取り囲まれた俺に近寄れず、輪の外で飛び跳ねながら可愛い怒り顔を作っていた。
まったく、二週間前の事が嘘みたいだぜ。
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