第8話 初訓練


 放課後、俺はパイロットスーツに着替え、練習用アリーナのピットで藤林を待った。


 放課後は藤林のコーチである事は皆に伝えているので、誰も教えてとは言わないものの、俺がベンチに座ると両隣に四人ずつ女子が座って九人がけのベンチはいっぱいいっぱいだ。


 藤林を待っている間、俺はLLGの投影画面でネットと接続。動画サイトでアメリアの試合動画を漁っていた。


「へぇ、凄いな、あの重武装を使いこなしているぞ」


 動画の中で敵を葬るアメリアに、俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまう。


「ねぇねぇ桐生くん。叶恵、勝てるかな?」

「何言ってるのよあんた、叶恵は桐生くんが鍛えるのよ」

「まぁまぁ、でも勝算はあるぞ」


 女子達の顔が華やぐ。


「やっぱり♪」

「期待しているよ桐生くん♪」


 目を輝かせるみんなに、俺は息をついて辟易する。


「信頼されたもんだなぁ……」

「そりゃ桐生君だもん♪」

「そうそう、今月号も読んだよ、ほら」


 一人の女子が投影画面を起動。月刊配信の少女情報誌の表紙が映って、俺は愕然とした。


「んがっ!」


 その表紙にはでかでかと俺の顔がプリントされ『最強の少年兵・桐生朝更特集』という大きな見出しが出ている。


「なんだよこれ!」


 俺は投影画面を手でつかみ引き寄せると、指でなでてページをめくる。


 そこには俺の経歴や、戦場でいかに活躍したかという戦果が嘘ではない範囲で脚色されて報道されていた。


 例えば負けなかっただけで何度か引き分けに終わった戦場を『不敗』と書いたり、まんまと敵に逃げられた戦いを『撤退に追い込んだ』と書いている。


 物は言いよう、なんともステキで素晴らしい報道マジックだ。さらに記事には、


『十代前半で戦場に立ち、一騎当千獅子奮迅の活躍を見せる桐生朝更大尉には脱帽である。彼は強さに年齢が関係無い事。子供でもヒーローになれる事を証明してくれた』


『やっぱり憧れちゃいますよねぇ。だってあたしと同じ年でこんな凄い人がいるんですよ。カッコイイじゃないですか。こういうのってゲームや漫画の中だけだと思ってたのに本当にいるんですね。軍人て泥臭いと思ってたけどイメージ変わっちゃうなぁ』


 大人は俺みたいな子供が活躍し地位や名誉を手にするのを快く思わないものだが、どうやら報道陣は逆にそれを利用しているらしい。


 若くして活躍する最強の少年兵をことさら強調して、まるでフィクションのようなリアルで雑誌の発行部数やニュースの視聴率は好調らしい。


 出る杭は打たずに広告塔と利用する。合理的と言えば合理的だが、


「勝手に人を利用すんな!」


 投影画面をアリーナの床に投げつけて、投影画面は空間に雲散霧消した。


「お待たせ桐生」


 パイロットスーツに着替えた藤林が小走りで登場。

 俺は立ち上がって『よし、始めるか』と歩み寄る。


「叶恵がんばってぇ!」

「桐生くーん、叶恵をよろしくー」


 背後ではクラスメイト達が楽しく騒いで、藤林を小さく手を振りながら、


「うん、任せて」


 と言って応える。

 それにしてもやっぱりスポーツ用パイロットスーツってエロいなぁ。目の保養になる。


「よし! それじゃあ早速お前に必勝の作戦名を伝える」

「はいコーチ!」


 藤林がノリよく笑顔で敬礼。


 ギャラリーも『必勝!?』と驚きコーフン気味だ。


「その作戦名は……」

「作戦名は?」

「逃げて逃げて逃げ続けてたらなんか勝っちゃった大作戦!」キリッ


 藤林と、ギャラリーの女の子達の時が止まった。


『………………………………………………………………へ???』

   

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