第7話 専用機オオクニヌシ
なんて俺がショックを受けている間に、女子達は虚空に指先で丸を書いたり十字を切ったり、それぞれのサインムーブを行う。
学園から支給された、首のチョーカー型量子変換機から光の粒子が溢れて、少女達の手足や背中を覆う。
光は色と形を得て、機械の手足を作る。
少女達のヒジやヒザから先が人間の倍以上ある機械の手足に覆われ、背中には機械の翼が伸びる。
サムライブルーの青を基調とした日本の量産型軍事甲冑、アシガル八三式だ。一部の女子は『はっちゃん』の相性で呼んでいる。
普通の生徒はこれを自分なりにカスタムしたり改造したりして戦うのだが、
「うわ、アメリアのすごっ!」
女子達の喧騒を振り向く。そこには誇らしげに甲冑をまとい、愛機を見せつけるアメリアが俺に視線を送っていた。
「ふふん、これがワタシの愛機、グラウンド・ゼロデース!」
両腕に星条旗をあしらった、銀色のド派手な機体は普通に見れば武装過多だ。
両腕の甲のガトリング、両肩のミサイルランチャーに、肩甲骨から真上に伸びるプラズマキャノン砲。
だがスラスターとバーニアのサイズを見る限り、圧倒的な推進力で重量をカバーしているようだ。
対して藤林は、と。
腰に高周波(ヴァイブロ)ブレードと電離分子剣(プラズマ・ソード)。
背面のハードポイントに電磁投射小銃(ローレンツ・ライフル)と電子分離小銃(プラズマ・ライフル)と
両肩にミサイルランチャー。
基本に忠実な、というか追加武装は一切ない。藤林のカスタムは中身がメインのようだ。
俺がアメリアの攻略法を思案していると一人の女子が、
「ねぇねぇ桐生くん。桐生くんって専用機持ってるんでしょ? 今って持ってないの?」
甲冑乗りは皆、自分の使いやすいように軍事甲冑をカスタムするが、それはあくまでも量産機をカスタムした自機であり専用機ではない。
専用機とはアシガルのような量産機ではなく、基本フレームやOSからして他とは違う、世界に一機だけの特注品の事だ。
「持ってるぞ。もとから俺しか乗りこなせないし、リハビリ中でも緊急の呼び出しがあるかもしれないからな」
「えーほんとう!?」
「みせてみせてぇ♪」
禁止されているわけではないが、軽々しく使っていいものか悩む。
でも、これだけの女子に期待と羨望の眼差しでキラキラビームを浴びて断る勇気は俺に無い。
まぁここで断っても空気が悪くなるだけか。
「いいぞ、オオクニヌシ。再構築!」
虚空に十字を切り量子変換機を起動。
俺のスーツの胸の中央にはめこまれた量子変換機から光の粒子が溢れて俺を包む。
軍事甲冑の足の長さの分、俺の視線が一メートル高くなり、頭のてっぺんまで装甲に覆われた。
軍事甲冑は名前の通り戦国甲冑をモチーフにしたデザインだが、俺のオオクニヌシは古代の魔神を思わせるような、ややごついフォルムをしている。
スポーツ用と違い、太ももや二の腕、胴体や顔まで物理装甲で覆われた。脳に補助視界情報を送られながら兜のレンズ装甲を通して外を見る。
ヘッドアップディスプレイさながらに、俺の視界には機体と周辺情報が映り、視界も少し広がった。
甲冑の腕の中で俺が指を動かすと、延長上にあるロボットの指も動く。
甲冑のスネあたりにあるペダルを踏むと、延長上にあるロボットの足首も動く。
脳内に、優しそうな女性の声が響く。専用機特有の高度AIだ。
『システムオールグリーン。お久しぶりですマスターアサラ。周囲一〇〇キロに敵機の反応は無し。現状はハーレム。オールピンクです♪ クス』
「茶化すな。ったく技術研究所の野郎……AI人格男に変えようかな」
『そんな事したらスネちゃいますよ。プン』
「あのなぁ……」
「すっごーい、すごいすごいすごい」
「これがあの有名な神話シリーズ最強のオオクニヌシなのね」
「まだ世界に五機しかない縮退炉搭載機!」
「日本、いや世界唯一の全能特化型の万能甲冑!」
外では、思った通りのお祭り騒ぎだ。
「外部スピーカーON」
『了解です♪』
「ほいみんな、これが俺の専用機、オオクニヌシだ」
藤林が視線を上下させて、まじまじと眺める。
「へぇ、これがあの……知ってはいたけど、やっぱり軍事用って胴体も物理装甲で守っているんだ。なんか新鮮」
「そりゃスポーツと違って観客に選手の顔やスタイル見せる必要ないからな。そっちと同じで電離分子装甲(プラズマ・アーマー)はあるけど、物理装甲も必要だよ」
現代のアイドル化したスポーツ選手の中でも、MMB選手はその傾向が特に強い。
美と強さを競うとは良く言ったもので、抜群の美貌とスタイルで観客を魅了しながら戦うプロ選手は、年俸以外にもモデルやテレビ出演などで多くの収入を得ている。
でも俺は軍人だし、どうしてみんなからスター選手のような扱いをされているのか解らない。
戦場で戦果は上げているけど、それだけでこんなモテモテになるほど軍国主義だっけ?
まぁいい、とにかく今は。
「よし、じゃあ全員のレベル見るからまず飛行訓練だ」
俺は手足の筋肉同様、脳波で翼のスラスターを起動。
接触空間に対して斥力を生み出した翼の推進力で、エレベーターぐらいのGを感じながら弾丸のように上空へ飛び立つ。
一瞬で減速、反転、そして制止。強化された俺の視力は、上空一〇〇メートルからでもみんなの髪の毛一本一本を確認できる。
「とりあえずここまで来てみてくれ。それから俺の言った通りに飛んでから、全員一回ずつ軽く試合をしてみようか」
『はい♪』
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