第97話 最新最高武芸者VS不可侵の姫巫女

『それではついにDブロック最終試合! 本日最後の試合を始めます! 本日のトリを飾るのはこの二人! シード選手! 最新科学が生み出した格闘技! 最強の日本拳法家! 日本企業! TBMテレビ! 身長一七八センチ! 体重七五キロ! 最新最高武芸者! 坂東鉄也選手ぅ!』


 余裕の溢れる顔で入場する道着姿の男性。

 その瞳は、既に勝利を捉えている。


『続いて最強現役女子高生! 今年で高校二年の合気道家! 優勝候補! 日本企業! GAIBAX代表! 身長一五五センチ! 体重四五キロ! 不可侵の姫巫女! 三島陽子選手ぅ!』


 大和撫子を体現したような美少女巫女の登場に観客席が湧きあがる。

 鉄也が不敵な笑みを浮かべる。


「ふっ、非効率的な級時代武術が、この私に勝てるとでも思うのかね?」

「あらぁ、科学的に解明できないという理由だけで多くの技術を捨てた人には言われたくありませんよ」


 綺麗な笑みで返す陽子。

 徹夜の笑みも崩れない。


「いいですよ、この試合で、日本拳法の力を見せて差し上げますから」

『それではよろしいですか?』


   ◆


「なぁ羅刹。お前知っているか?」


 VIP席で、剛輝が羅刹に問う。


「何をですか?」

「陽子の奴、すっげーきれぇな足してるんだぞ」

「へぇ」


 羅刹の反応に。礼奈と好美がムッとする。


「でもなぁ、格闘家とは思えない、酷使した事なんてないような、モデルみたいな足で、足の裏もぷにぷになのに、足の親指の裏だけ炭みたいに黒いんだ」

「え?」

『両者構えて!』


 戸惑う羅刹に、剛輝は告げる。


「酷使し過ぎて、高質化し過ぎて、黒く変質して戻らねぇのさ」

「それって」


   ◆


『試合、始めぇ!』


 陽子の全体重が右足の親指にかかる。

 陽子がゼロ秒で徹夜の前に現れた。


「射程、距離内ですよ?」


 にっこりほほ笑んだ。


「くっ!」


 徹夜は反射的に右拳で殴りかかり、陽子は僅かに身をひねるだけでかわし、両手で伸び切って手首を掴んだ。


「では」


 引き倒された鉄也が顔面から床に突っ込んだ。

 すぐに鉄也は跳び起きて、そのまま別の床に叩きつけられる。

 客席から見ると、鉄也が一人で勝手に転んでは起き、転んでは起きを繰り返しているようだ。

 でもそれをコントロールしているのは陽子。

 右手首をつかむ彼女が鉄也を引っ張り回して、鉄也は人形のようにして遊ばれている。

 陽子が手心を加えて、手を離してあげた。


「貴様!」


 鉄也がおおぶりな一撃を放った。

 それに合わせて陽子は右手人差し指を突き出して、鉄也の喉仏を直撃。

 体が硬直した鉄也の顔面をわしづかみ、前進して、体重をかけて後ろに倒した。

 仰向けに倒れる最中の徹夜の胸板を右足で踏み抜く。

 ただしこの時、カカトではなく、あえて親指で押した。


 ミシリ


 不自然な音がする。

 単純、陽子の親指の下で、鉄也の胸骨がへし折れたのだ。


「~~~~っっ!?」


 陽子の足の親指が、滑るように鉄也の喉を踏んだ。


「降参、してくれますね?」


 美し過ぎる悪魔の笑みに、鉄也は冷や汗をかいて頷いた。


『勝者! 三島陽子選手ぅ!』


 本日最後の戦いに、そして美し過ぎる戦いに、観客は湧きあがる。



   ◆


「圧倒的ですね」


 VIP席で羅刹がそう漏らした。


「おうよ、そんで、あいつが俺の三回戦の相手だ」

「あ……」


 前大会チャンピオンでアリ、二回戦を秒殺で終わらせた剛輝。

 一回戦二回戦と続けて、相手を遊び倒した陽子。

 この二人がぶつかった時、何が起こるか解らないと同時に、羅刹はとてつもなく胸が高鳴ってしまった。

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