第96話  武神VSザ・マシーン

『それでは皆様♪ これよりBブロックの試合を始めます! まずは組み疲れたら最後! オリンピックレスリング金メダリストが登場! ロシア企業! スターリ・カローリ代表! 身長二〇三センチ体重一三二キロ! ザ・マシーン! ラヴロフ・ラフスキー選手!」


 大柄ロシアンマッチョマンが登場。

 金メダリストに観客は惜しみない拍手を送る。


『そして続きまして! ついに! ついに登場! 我々は彼を待っていた! 二年前! 世界最強の男の称号を手に入れた我らが偉大な超英雄! 人類最強の空手家!』


 宇佐美は感極まって、目に涙を溜めながら、一拍置く。

 観客も不気味なほどに静まり返る。


『っ』


 宇佐美はマイクを持たない左腕を広げて声を大にする。


『日本企業! トライアングルエニックス者代表! 身長一八〇センチ体重一〇〇キロ! 武神! 虎山剛輝選手の! 入! 場! でーす!』


 歓声が轟音となって場内を揺るがす。

 選手入場口から剛輝が入場。

 太い手足、厚い胸板、精悍な顔立ち。自信に溢れた眼差し。

 チャンピオンらしく、右手を軽くあげてファンの声援に応える。


「私は運がいい」


 ラヴロフが不敵な笑みを浮かべる。


「現、最強選手虎山剛輝。優勝するに当たって、いつかは必ず当たる相手。ならばベストコンディションの今、当たっておくのがベストだ」


「そこまで勝ってくれて嬉しいねぇ。でもよぉ、それじゃあベストコンディションの俺と戦う事になっちまうぞ?」


 ラヴロフは冷静な口調を変えずに、


「口を慎めヤポンスキー。この戦いの勝利は我が祖国へと捧げる。貴様はこの私の勝利を飾る生贄だ。キズモノを祖国へ捧げるわけにはいかないだろう?」

「……お前、オリンピックで金メダルとったんだってな?」

「そうだ。悪いが私と貴様では根本的な戦力差があり過ぎる」


 剛輝は頭をかいてから、宇佐美を見る。


「おい宇佐美、早く試合初めてくれよ」

『あ、はい♪ では二人とも、構えて下さい』


 ラヴロフと虎山は互いに構えを固める。


『試合、始めぇ!』

「散れ! ヤポンスキー!」


 ラヴロフの超高速のタックルが、剛輝の足を狙う。

 レスリング金メダリストの全力タックル。

 並以上の選手でも一瞬で足を取られ、そのまま寝る技に持って行かれるだろう。が、


 

 剛輝の右前蹴りが、ラヴロフの頭を体ごと吹き飛ばした。



 歯と血しぶきと一緒に弧を描いて宙を飛ぶラヴロフ。

 人形のように、無抵抗に床に後頭部を叩きつけて、彼は動かなくなった。

 虎山は気取った風もなく、


「レスリングには打撃が無い、戦い方が平面、ルールが多すぎる……から負けたわけじゃない。相手を格下と決めつけて戦いに臨んだ。お前の敗因はそれ一つだよ」


 それだけ言って、虎山は軽い足取りでその場を後にした。


『しょ、勝者虎山剛輝選手ぅ!』


 再び湧きあがる会場。

 一撃。

 一瞬。

 一殺。

 秒殺。

 疑いようもない。

 圧倒的な実力差。

 これがチャンピオン。

 暫定、世界最強の人類。


 VIP席では礼奈がぽかんと口を開けたままで、羅刹でさえ苦笑しながら言葉を漏らす。


「剛輝さん……あいかわらずはんぱねぇなぁ」


 けれど、その口には笑みが吹きこぼれている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る