第79話 身分制度


 紳士淑女の国として有名なイギリスだが、実は今でも階級制度の名残を見せている。


 プライドが高く、我が大英帝国こそが最高という思想。


 同じ白人でも英国人以外には摩擦を感じる国民性。


 そして、階級制度が無くなり貴族が消えた現代でも先祖が元何だったかで、世間体がある程度は決まってしまう。


 中世時代は貴族様だった家はそれだけで優遇され、入試や就職で有利になり、人望と尊敬を集める。


 引き換え先祖が農奴だった家は、それだけで世間目は少し冷たい。


 当然地域差はある、家柄や人種に寛容な地域もある。


 でも蔵人の育った地域は、特別家柄を重視する場所で、極東のイエローモンキーと結婚したとして蔵人の母は世間から蔑まれた。


 金髪碧眼だが、顔立ちが日本人の蔵人は学校で『猿顔』『平面顔』『島猿は帰れ』と罵倒された。


 毎日のようにクラスメイト達から殴られ、でも教師達は黙殺した。


 蔵人がバリツの技で一度投げ飛ばしてやれば、保護者が蔵人の家に文句をつけに来たし、学校側も蔵人の暴力行為を咎めた。


 地元住民から良く思われていなかった父は謎の銃殺を受け死亡。酔った男に撃たれたという噂があったが、警察は強盗に襲われた不運な事故として処理した。


 母と二人だけになった蔵人。

そんな蔵人にできる唯一の事が、やはりバリツだった。


 蔵人は中学に入るとボクシング部に入り、部活でバリツの突き技のみを使って全部員を圧倒。


 全国大会でも優勝し、最強の名を欲しいがままにした。


 すると、チャンピオンという身分が蔵人と母を守った。


 プライドと自尊心の高いイギリス人達のチャンピオンが日本人とのハーフという事実を叩きつけてやりながら、蔵人はNVTで勝ち続けた。


 だからこそ、


   ◆


 蔵人の背負うモノの大きさに、会場は静まり返り、ハンカチで涙を拭う人すらいる。


「だからこそ私はこの大会で優勝する。優勝して母が私の父を愛し合い私を産んだことが間違いではなかったと証明してみせる! 全ては我が母の為に!」


 声を大にしてから、蔵人はクールダウンする。


「熱くなって悪かったね。でもおかげで、半蔵さんもダメージを回復できただろう?」

「…………」

「仕切り直しです。第二ラウンドといきましょう」


 構えを変える。

 蔵人は左手を前に、右手を後ろに引いた、攻めの構えを取る。


「行きますよ!」


 蔵人が前進。

 蔵人の右ストレートが半蔵の顔面に直撃……半蔵は微動だにしなかった。


「!?」

「だいたい解った」


 半蔵が両手の人差し指と中指を伸ばし、ラッシュをかけた。

 連続で蔵人の胴体にヒットする指突き。

 その一発一発で道着が裂けて、肉に刺さる。

 比喩ではなく、本当に半蔵の指が肉を切り爪の根元までが刺さっている。


「ッッッ!?」

「お前のおかげで分かった。この大会のレベルの低さがな」


 半蔵の冷たい、機械的な声が蔵人を浸食する。


「世界大会というからどの程度かと観察していたがこの程度か、もういい」

蔵人は知ることとなる、闇の深さを。

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