第2話 アンラッキーボーイ
「よし、今日の練習を始めるぜ!」
いかつい男が道場に登場。
だが門下生が一人しかいない。
「おい、他の連中はどうした!?」
「今日は誰も来ませんよ、だって、ドラゴンファンタジーⅩⅤの発売日ですから!」
門下生の青年の言葉に、男は腕を組んで唸る。
「しょうがねぇなぁ。じゃ、俺らもやるか?」
男は懐からゲームソフトを取り出して笑顔を取る。
男は門下生の青年と一緒にテレビの前でゲームをプレイ。
二人の前に『ドラゴンファンタジーⅩⅤ ●月×日発売』という文字が映った。
礼奈がテレビを消して、応接室のソファに座った。
「貴方も知っての通り、今やNVT選手は企業にとってなくてはならないものよ」
テーブルを挟んで、反対側のソファには天城羅刹、そして、何故か田中好美も座っている。
好美は不思議そうな顔で『なんであたしここにいるの?』と首を傾げる。
理由は単純、あのあとすぐに賭けつけた彼女が羅刹の知り合いだと分かると、礼奈が勢いで無理矢理会社まで連行したのだ。
隣では、羅刹が旗大路フーズの商品である健康食品を一心不乱に食べている。飲み物は豆乳だ。
「でもうちは専属のNVT選手が食中毒で死んで以来業績が悪化。今や倒産の危機にあるの! でも起死回生のチャンスがあるわ! これを見て!」
礼奈は鼻息を荒くして、一枚のポスターを広げた。
そのポスターの内容は、今ではあまりに有名なイベントのものだった。
「来月、二年に一度の祭典、NVT世界大会が行われるわ! これに優勝すれば失った信頼も業績もなにもかも取り戻せるわ! 有力選手は全部大企業が独占しちゃっているけど、貴方にはわが社の選手としてこの大会に出て欲しいの! やってくれるわね!」
「いやいや、今日初めて会ったせっちゃんに普通頼みます?」
羅刹の幼馴染である好美が冷静に返すが、
「いいぞ、そのかわりさっきの健康ビスケットもっとあるか?」
「って、せっちゃん!? あっ、完食してる!?」
テーブル上の健康食品全てを喰い尽くした羅刹は指をくわえ、物欲しそうな目で礼奈を見つめる。
「タマちゃん、箱ごと持ってきて!」
「了解です!」
タマちゃんが元気いっぱいに応接室から出て行った。
入れ替わりに、部屋のドアがノックされてから違う女性は入って来る。
「礼奈」
「あ、姉さん」
入室してきたのは、礼奈をさらに大人びた雰囲気にした女性だった。
礼奈もスタイルがいいが、紺のスーツに包んだ体は、礼奈よりも大人びていて、胸元が苦しそうに見える。
「紹介するわ。私の姉で旗大路フーズ社長の、旗大路華奈よ。去年アメリカの大学を跳び級卒業したから今年一八歳なの」
「姉さんが社長なのか?」
「業績が傾いてから父様も母様も病気で死んじゃったから、今は姉さんが社長なの」
両親が死んでいる。
礼奈は特に気にした風もなく言うが、羅刹と礼奈はチクンと胸を刺された気分になる。
「こんにちは。旗大路華奈(はたおおじかな)です」
「あ、どうも」
「こんにちは」
やわらかい物腰の女性、いや、少女だ。
一八歳とは言うが、既に成人した女性の魅力がある。
華奈は礼奈の隣に座る。
「貴方が礼奈の見つけて来たファイターね。それで礼奈、どこまで説明したの?」
「うちの事情は全部話したわ」
華奈に問われて、礼奈は真面目な顔で羅刹へ向いた。
「天城羅刹。貴方の状況はだいたい察しがつくわ。でもどうかしら? わが社の選手になれば、当然給料は出すし、売れ残った商品でよければ好きなだけあげるわ」
「マジか!? お前マジでいいやつだな!」
「はわわ、せっちゃんが空腹の奴隷になっている!?」
礼奈は機嫌を良くしてにっこりほほ笑む。
「うふふ、じゃあ契約成立ね。それで、貴方はどうしてそんな事になっているのかしら? 一応聞かせてもらえる?」
「そ、そうだよせっちゃん。一体この一ヶ月何があったの?」
好美にせっつかれて、羅刹はぽりぽりと頬をかいた。
「あー、えーっと二人に解り易く説明するとー。まず俺の親父がNVT選手で、だけどド天年の放浪癖持ちだったから大事な試合すっぽかしてそのせいで会社首になって信用失って門下生もいなくなって破産。道場は差し押さえられて一家離散して高校行けなくなって先月中学の卒業式出てからずっとホームレスやってた。主食は公園の葉っぱと捨てられていたダンボール。あとアリな、アリはおいしかったな、唯一の栄養源だったかもしれん、でも量が少なくて餓死するところだったな。はっはっはっ」
礼奈と好美が石化する。
二人は同時に思った。
『そ、壮絶過ぎる!』
と。
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カクヨムで試しい読みを20話分読めます。
また、アニメイトで購入すると4Pリーフレットが
とメロンブックスで購入するとSSリーフレットがもらえます。
電撃オンラインにインタビューを載せてもらいました。
https://dengekionline.com/articles/127533/
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