第11話 邪神
「!?」
気が付くと、俺らは全員、ホールのソファに座っていた。
ハゲが叫ぶ。
「おいなんなんだよさっきのあれは!?」
『ハゲ様、おちついてください』
見れば、ホールの片隅にはバニーガール姿の爆乳美女、シャンタがいた。
「てめぇ、さっき羽生えてたよな!? ありゃいったいなんだ!?」
『何って、これですか?』
シャンタが振り向く。
背中の大きく開いたセクシーなバニーコスチュームから覗く、白くきめこまかい肌。
そこから突然、こうもりのような形の、灰色の翼が生えた。
『わたくし共はシャンタク鳥でございますから、翼があれば飛ぶことも可能なのでございます。ぱたぱた』
可愛らしく笑って、実際に翼を動かすシャンタ。
ハゲの、いや、みんなの顔が青ざめる。
俺も息が止まった。
「てめぇらなにもんだ……アフロが言ってたみたいにテレビの人間……じゃねぇよなぁ……」
ロングがためらいがちに、
「ま、まさか、マフィアとか、裏の組織とか、それとも政府の生物実験場とかそういう怪しい人達じゃ」
『何をおっしゃいますか皆様♪ あんまりおバカなことをいうのはメーですよ♪ 何度も言っているように、ニャル様は邪神ニャルラトホテプ。そして我々シャンタ達は皆、ニャル様の眷属、シャンタク鳥なのでございます♪』
シャンタは、笑みを絶やさずに続ける。
『だから警察も軍隊も来ませんよ♪ この建物、この空間は人間界からは一切観測できない場所にありますれば、まったくもって不可能なのでございます♪』
ハゲがシャンタに殴りかかる。
「ふざけてんじゃ、ッッ」
シャンタの目が一瞬光ると同時に、ハゲの体が吹っ飛ばされた。
俺の頭上を通り過ぎて、ハゲの体はホールの壁に背中から激突した。
息が止まっていた俺は、心臓まで止まりそうな思いだった。
逆に、口から肺の中の空気がゆっくりと漏れていく。
『みゃは♪ ゲーム中の暴力と過度な恐喝行為は禁止でございますぅ♪ というわけで補足事項を』
シャンタは右手の人差し指を立てて、左手でかけていない眼鏡をくいっとあげる仕草をした。
『まず暴力恐喝行為。施設の破壊。これはトラップなど間接的なものも含めます。そして自身の職業カードを見せる行為。他、ゲームの進行を意図的にいちじるしく妨げる行為。これらをしたプレイヤー様はその場で処刑致します。いいですか皆様、これはあくまで人狼ゲーム。言葉巧みな弁舌術と推理力で人狼を見つけ出してくださいましね♪ 加えてですねぇ……』
シャンタは自らのひとさしゆびをくわえ、エッチな視線を送って来る。
『わたくし共へのセクハラ行為もペナルティ対象とさせていただきますので、男性とレズビアーンな方々は我慢してください。でも、プレイヤー様同士での合意の上による嬉し恥ずかしい行為はOKです。ゲームから始まる恋があってもいいじゃない、だって人間だものでございます♪』
シャンタの言う事が頭に入らない。
ハゲは壁際にうずくまったまま、苦しそうに咳き込み、弱々しく立ち上がろうとしている。
『それでは皆様、人狼と騎士様の元へは、殺す人と守る人をあとでうかがいに参りますので、ゲームを存分に楽しんでくださいね♪』
それだけ言って、下がろうとするシャンタ。
直前。
俺の喉から声が出た。
「まってくれシャンタ!」
『はい? なんでございましょうかメガネ様?』
「その……人狼に選ばれた人は……パンクは本当に死んだのか?」
みんなが息を吞むのが解る。
シャンタは少しの間、不思議そうに俺を眺めてから、
『証拠がいるです?』
と言って、天井から何かが落ちて来た。
女子であるミツアミとシャギー、ロングが悲鳴を上げた。
オールバックも小さく悲鳴を上げて、歯を鳴らした。
俺の目の前に落ちて来たモノ。
それは、全身を食いちぎられたパンクの死体だった。
まるで氷の触手が俺の中に根を張って、心臓にからみつくような悪寒がした。
死体ぐらい、映画のセットでいくらでも作れるだろう。
でも、そのパンクの死体には、特殊メイクやセットにはないような、妙な生々しさがあった。
死んだのが朝だからだろう。
今更、血なんて流れないが、天井から落下した衝撃で、死体のすぐ下だけで体液でぐちょりと濡れたようだ。
ロングがホールの片隅に駆けこんで、絨毯に胃の中を吐しゃする。
『吐いても漏らしてもかまいませんよ♪ この空間はどんなに汚れても自動的に洗浄されるスペシャルな空間でございますから。もちろん死臭も取り除きます♪ では皆様、グッドラックでございます♪』
シャンタが下がると、壁の中へと溶け消えた。
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