第10話 予言者カミングアウト


「なるほど、兵士と人狼が友人の場合ね」


 ツインテが、冷静な顔でそう言った。


「ああ」


 キンパツがこくりと頷いたから当たりらしいけど、どういう意味だ?


「おいおいどういう事だよ、俺らにもわかるよう言ってくれよ」


 オールバックに言われて、ツインテが解説する。


「今、この場でキンパツが人狼の名前を言っても、既に投票は終わっているのよ。なら、ここで人狼の正体をバラしても、それは自分がなりすましではなく本物の大預言者だと人狼に知らせるようなものよ」

「だから兵士に守ってもらうんだろ? おい兵士、誰かはわからないけど今夜はキンパツを」

「兵士と人狼の仲が良かったらどうするの?」

「は?」


 オールバックが口を半開きにして首を傾げた。


「私達は昨日、ろくな自己紹介もせずにいたけれど、そうね、仮にキンパツがオールバック、貴方を人狼だと暴露したらどうなるかしら? もしも兵士が貴方と友人関係、もしくは私達の知らない間に、昨日一日の間に仲良くなっていたら、兵士は逆にキンパツが人狼だと疑うんじゃないかしら? 人狼と兵士のプライベーとな関係を疑えば、人狼の正体を暴露した上で兵士に守ってとお願いするのは危険よ」


 ツインテは冷静な、そして明瞭な声で機械的に説明する。

 その声には一切の迷いが無い。


「じゃ、じゃあどうするんだよ」


 オールバックは、ちょっと引き気味だ。

 キンパツが答える。


「だ、だからさ、とりあえず今夜はあたしを守ってくれよ。人狼はあたしを狙うはずだ。明日、誰も犠牲者が出なかったら、それは人狼があたしを狙って、それを兵士が食い止めたって証拠だろ? つまりあたしは人狼じゃない。そんで明日の投票で一人殺すことが……ゲームから脱落させることができる」


 ミツアミが、泣きそうな声で、


「でで、でもそれって、殺すって事だよね? あたし達の投票で、人が死んじゃうんだよね? そ、そんなのあたし……」

「っ、おいニャル、昨日の夜、人狼に襲われたパンクは、本当に死んだのよね!?」


 キンパツに、ニャルは笑顔を返す。


『もっちろんですよー♪ だってデスゲームですもん♪ 今夜も死にますよ♪ 一人死んじゃいますよ♪』


 キンパツは歯を食いしばってから、円卓を叩く。


「もう二人も死んでいるんだよ! みんなだって解っているんでしょ! これは本物だって! ならやるしかないじゃない! 警察が明日までにこの誘拐犯達を捕まえてくれればいいけど、そんなのわかんないじゃん! だったら、なんとかして犠牲者を少なくして助かるしか……」


 キンパツは絞り出すようにして言って、それからニャルを睨む。


「ニャル! ゲームをクリアしたら『これがご褒美です』とか『もう用済みです』とか言ってあたしら全員射殺したり、しないでしょうね!?」


『やだなぁキンパツさん。そんな事しませんよぉ。言ったでしょう? 勝者には、このゲームの秘密を教えると』


「秘密?」


『みなさんだって、不思議なんでしょう? どうして自分達がこんなところにいるのか? どうしてこんな事をやらされているのか? そして私は何者なのか? いえいえ、最後のはもう言っていますね♪』


 ニャルの全身から、黒い炎が噴き上がる。


 肉体はコールタールのように黒くグズグズになって、それを赤黒い炎が包み込む。


 みんなが絶叫じみた悲鳴をあげる。


 灼熱の炎の中で黒い人型が、目と口の形に穴が開いて邪悪な笑みを作る。


 バニーガール姿のシャンタ達の背中からコウモリのような翼が次々生えて羽ばたき、会場の天井まで一気に飛び上がる。


 手品なんかじゃない。


 立体映像でもない。


 リアル。

 本物。

 ニャルの炎で会場の温度が一気に上がって、俺の皮膚を焼いた。


 会場を自由に空飛ぶバニーガール達の中で、燃え上がるニャルが無重力に包まれて宙に浮かび、俺らを見下ろす。


『私は這い寄る混沌、邪神ニャルラトホテプ♪ 世界に絶望と混沌を振りまく者でございます♪』


 ニャルの体がみるみる膨張して、巨人へと姿を変える。

 天井を覆い尽くす巨体の周りで、シャンタ達がセクシーに笑いながらバニーガールの衣装が燃え尽きる。


 ニャルが笑う。


『それでは皆様、愉快に明るく楽しく、発狂してくださいね♪』


 炎の巨人が落下。

 俺達の全てを吞みこんだ。


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 オールジョブ人狼ゲーム


 ルール二


 ゲームの流れ


一日目 昼議論  今回は一〇人からスタート。

    夜    人狼に一人殺される:残り九人。


二日目 昼議論  

    投票

    処刑   最も多く投票された人が一人処刑される:残り八人。

    夜    人狼に一人殺される:残り七人。


三日目 昼議論  

    処刑   最も多く投票された人が一人処刑される:残り六人。

    夜    人狼に一人殺される:残り五人。


四日目 昼議論  

    処刑   最も多く投票された人が一人処刑される:残り四人。

    ゲーム終了


 これはあくまで一例。

 なので、人狼が二日目の投票でいきなり処刑された場合はゲームは二日目で終了。

 プレイヤーが四人以下になってもゲーム終了だが、人狼が夜にプレイヤーを殺すのを失敗し続けたら、処刑でしかプレイヤーが死なない。

その為、四日目以降もゲームが続く場合がある。

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