第9話 最初に吊られた人

『ハーイ、投票終了♪ ではでは結果発表ですよー♪ ふんふんなるほどー、では皆さん、あちらの画面をどうぞ!』


 ニャルがびしっと手で指したほうを見る。

 会場の上の方に、いつのまにか巨大モニターが設置されていた。

 下ではバニーガールのシャンタ達がきゃーきゃーはしゃいでいる。


『今回の投票で処刑されるのはぁ……デンデデーン♪』


 ニャルの言葉に反応して、画面にはシャギーとアフロの顔が映った。

 シャギーの下には『2』。

 アフロの下には『7』と表示されている。


『投票の結果、村人はアフロさんを処刑することにしました♪ 残念ですねアフロさん♪』

「おいおいマジかよぉ。もうちょっとテレビに出たかったぜ」


 残念そうに溜息をはいて頭を抱えるアフロ。

 ニャルは相変わらず愉快そうに、


『それではアフロさんは処刑です♪』

「はいはい、それで脱落者の部屋はどこだ? バニーちゃんが案内してく」



 ザシュッ



 アフロの言葉が止まった。

 同じようにして、残る八人の言葉が消えうせる。

 俺は目の前の現状が理解できなかった。


 アフロの頭から、何か生えているぞ?


 アフロの、ニャルにつけられた名前通りのアフロヘアーから、赤く濡れた銀色の槍がにょっきり生えている。


 アフロの頭頂部も少し赤く濡れた、なんだか滑稽に見えた。


 でもアフロの目と口から血が流れて、


 顔が弛緩して、


 槍が引っ込むと、アフロの頭から湧水のようにして血が溢れた。

 積み木が崩れるようにして倒れるアフロ。


 円卓のせいで、アフロの姿をみえなくなる。

アフロの隣に座るミツアミが席から立って、敷居の板の上から覗きこんだ。


「い……」


 ミツアミが手で顔を覆った。



「いやぁああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼」


 

 ミツアミとは逆隣に座るオールバックも叫ぶ。


「おいおいなんだよこれ! マジで死んでんぞ! 特殊メイクじゃねぇぞこれ!」


 途端にみんなが慌てる。

 俺は体が凍りついたまま、逆に頭はめまぐるしく混乱する。


 は?

 なにこれ?

 どういう状況?

 トリック?

 えっと、これテレビなんだよな?


 俺は今まで見てきたテレビの罰ゲームを思い出す。


 水にドボンとか。

 穴に落ちるとか。


 そういえば奈落の底に落ちるってあったよな。


 でも当然あれは命綱があったり、下にクッションがあるわけで、本当に転落死するわけじゃない。


 でも違う。

 これは違う。


 頭から槍が生えて、血を噴いて。


 無理矢理考えるなら、ミツアミとオールバックが仕掛け人で、俺を騙す為に演技をしている可能性もある。


 俺一人を対象にしたドッキリ番組。


 アフロの槍と血は、それこそアフロヘアーにタネを隠した手品。


 仕掛け人のミツアミとオールバックが驚いたフリをする。


 そうだ、きっとそうに決まって……


 なのに俺の足は動かなかった。


 円卓を迂回して、アフロのところまで行けば本当かどうか解る。


 なのに、俺の足はそれを拒んだ。


 見れば、言い訳ができなくなる。


 心臓が破裂しそうになる。


 同時に、全身の血を一気に抜き取られたような錯覚におちいった。


『もう、あんまりぎゃあぎゃあ騒がないで下さいよう♪ 最初に言ったじゃないですかコロシアイゲームだって。それに処刑する人を決める投票なんですから、選ばれた以上は死ぬのが当然ですよ?』


 ニャルは頬に指をあてて、コロコロ笑った。

 笑顔のシャンタ達が大きな胸を揺らしながらアフロに歩み寄り、見下ろした。


『アフロ様の死亡を確認致しました♪』

『ですが残念、アフロ様は人狼ではございません♪』

『村人は後悔にさいなまれながら、また一晩を過ごす事になります♪』


 明るい顔で、

 たんたんと進めるシャンタ達。

 それがまたリアルじゃなくて、

 俺は思考が停止した。

 その時、


「ッ、大預言者はあたしだ! 騎士はあたしを守れ!」


 キンパツが叫んだ。

 みんながいっせいにキンパツに注目する。


「あたしの職業は大預言者! あたしは人狼が誰か知っている! だから兵士は今夜あたしを守れ! そんで明日の議論で、あたしが指名した奴に投票して処刑しろ! それでこのゲームは終わりだ!」

「ならどうして今、言わないの?」

「それは……」


 ロングに問われて、キンパツは黙った。


「なるほど、兵士と人狼が友人の場合ね」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る