第11話 村長ざまぁ

そして目が覚めるとJは円柱の部屋にいた。完全に真っ暗と言うわけではなく天窓から光が漏れてきている。手の触感、このにおい、から察するにこれは先ほど見たサイロの中のようだった。

――どうするの?出られる?

――問題ない。

Jが目を覚ますと同時にサイロの扉の外から声をかけられる。声の主はどうやら村長のようだ。

「お前は偽の姫と共謀して国家転覆を計画した罪で王都にて死刑に処される!自分の行った罪を反省しこれまでの人生を悔いるがいい!

――この主人公のこれまでの人生って短すぎない?

――最速でムービー飛ばせば10分くらいの人生だな

『村長!なぜこんなことをする!』

『ウィレナ姫はどこだ!』

『ここはどこだ!』

『このサイロちょっと掃除した方がいいんじゃないか?』

Jは1番目の選択肢を選んだ。

「貴様らが出立した後、王都の兵から連絡が来たのだ。王女ウィレナ姫は偽物!本物のj姫に成りすましこの国を裏から滅ぼそうとする悪逆の徒だとな!偽のウィレナ姫には懸賞金がかかっておる!生け捕りにすれば私は生涯働かなくてもよいほどにな!」

『俺をどうする気だ!』

『ウィレナ姫はどこだ!』

『ここはどこだ!』

『このサイロちょっと掃除した方がいいんじゃないか?』

Jは2番目の選択肢を選んだ。

「冥途の土産に教えてやろう。ウィレナ姫は今王都へ輸送中だ。今から1週間後、王都の城前広場にて公開処刑が行われる!」

『俺をどうする気だ!』

「ふん!我ら村人に人の殺し方は分からん。貴様はそこで餓死するまでいてもらう。死んだあとはその辺にでも埋めておけばよかろう。どこの馬の骨とも分からん者が偽の姫といたとは大変怪しい奴め。貴様を殺すようにと兵から命じられたのでな。」

『ここはどこだ!』

「村はずれのサイロの中さ。どんなに叫んでも誰にも声は届かないぞ!うぁっはっはっ!死にたくなければ牧草でも食っていればいいさ!はっはっはっ!」

『俺の持ち物はどうした!』

「儂の部屋にあるがもうお前には関係ないことさ!」

『もう聞くことはない』

村長は言うだけ言うとサイロから離れていった。

――ちなみに最後の選択肢を選ぶとどうなるの?

――天窓というか飼料の詰め込み口、天窓にあたるところから牧草用のフォークと熊手が投げ込まれる。

 Jの手足は拘束されていない。扉は頑丈で叩いてもびくともしない。

――どうするの?詰んでない?

 Jはサイロのサイロの壁のレンガの隙間に指を掛けた。

――こういう凹凸がある壁は体力ゲージを消費して上ることが出来るんだ。

クライミングのようにサイロの壁を上っていく。先ほど食事はしていたため体力ゲージは最大だ。飼料の取り出し口は板が打ち付けられており外すことが出来ない。一番上の詰め込み口から外に出る必要がある。

レンガがはがれて凹凸が見えている場所を探りながら上へ登っていく。そして詰め込み口まで到達しそこから外へ出る。外には牧草を投げ入れるための足場が組まれており、Jはその足場を伝って下に降りていく。

――ここからようやくオープンワールドに出られる。

――村長の話では1週間後にウィレナが処刑されるって言ってたけど間に合うの?

――余裕で間に合う。だからその間に一人でしか出来ないこととかいろいろやるのさ。まずは村長の家に行って装備の回収だ。

Jは本来なら来たことのない農道を走り始めた。変態挙動のグリッチに慣れているため、通常の移動速度が遅く感じる。

しばらく走ると村長の家にたどり着いた。村長の部屋は2階にあるため、Jは近くに生えている木を登り、枝を伝って窓からの侵入を試みる。村長の部屋に入ると1階から物音がする。

「どうぞどうぞ!兵士の皆さん!この肉は1頭の牛からほんの少ししか取れない貴重な肉にございます!わが村でも婚礼や祭りごとなどめでたい席でしかお出ししない料理にございます!」

1階には装備が整った王都の兵がいる。そのまま玄関から入ったら出くわして今のレベルだと返り討ちが関の山だ。

――あれが常套句なのね。

村長が王都の兵に媚びを売る声が聞こえてきた。

――あの村長ムカつくんだけど1発殴れないかしら?

――ヌル割と感情的だよね……

「ええ、これだけの報酬があれば……ヒヒヒっありがとうございます。」

――姫から金貨を貰った老夫婦がいただろ?そこに入る賊っていうのはここの村長なんだ。だからそのイベントを進めると最終的に村人から糾弾されて身ぐるみはがされて村を追い出される村長が見れるぞ。

――気持ちいいわね。是非やりましょう。

――やらないよ?

 Jは村長の部屋の宝箱を漁ると、姫の装備一式と『巨人の小鎚』が入っていた。

――容積と入っていたものの体積が合わない。

――そこはほら、ゲームだから。

 Jは小鎚を装備すると部屋を出て階段を下りる。

「な!貴様どうやってあの場所から出た!」

「お前が落果遺物の人間か!」

兵士が武器を構え襲い掛かってくる。Jは巨人の小鎚を背中から抜刀しいきおいよく平面部分で兵士に殴りつけた。兵士は吹き飛び壁に激突。あたりの小物が吹き飛び部屋の中は滅茶苦茶になった。

「あわわわわわ……」

村長は腰を抜かしてその場から動けないでいる。

『またくるぜ村長。』

「ひぃいいいい……ごめんなさいぃ……」

Jは玄関から堂々と退出する。

――ちょっとスカッとした。

ヌルは少しテンションが高くなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る