第10話 罠

「見て、立札があるわ。」

『左:タール渓谷 右:ジマリ村』

「村まであと少しだと思うわ。馬車の速度から考えると歩いて4分の1日ほどかしら。」

――実際は1分くらいでつく。

――差が激しい。

――ゲーム内時間は現実時間と違うからな。

Jとウィレナはジマリ村へ徒歩を進める。道中、野良野盗が現れたりもするが、二人の移動速度に追い付けずすぐに振り払うことが出来た。

――弓兵がいるとそうでもないけど、まだ弓兵がいる難易度の場所じゃない。

Jの言った通り1分ほどの移動距離で、通常の4倍の速度で移動したためすぐにジマリ村に到着した。

ジマリ村に到着すると住民が駆け寄ってくる。

「なんだこの変態どもめ!ここは貴様らのような露出狂がくるところじゃない!ここはティーア皇国の姫様、ウィレナ姫も来る由緒ある村なのだ!」

「村長さん!私です!ウィレナよ、先日この村を訪ねたウィレナ姫!」

「お?ぉお!姫様!なんという格好で!大変ですぞ姫様!先ほど王都の兵士が来て姫様の捜索がなされているとのことです!どうやら往路にて滑落なされたとか!しかし無事でよかった!ささ!お腹もお空きでしょう!狭いですがわが家へどうぞ!」

「よかったわ……やっぱりさっき兵士たちは何かの間違いだったのね……」

ウィレナが先行して村長の家へ進んでいく。

「J……ひとまず村長さんのところに行くわよ」

村長の家は他の家より少し大きめで木組みの2階建ての家だ。この村では2階建て以上の建物は村長の家以外見受けられない。他に高いところと言ったら飼料を保存するためのサイロくらいなものだ。後は牧草地帯の手前側に30メートルほどの間隔で小屋と母屋が建っている。

――まぁ村長も罠なんだけどね。

――そんな気はしてる。

Jとウィレナは村長の家へ入りリビングへ案内される。村長も奥さんもにこやかな笑顔を見せ高貴な客人におもてなししようと躍起になっている。

「先日、姫様がうちの牛たちとお遊びになった時にもお出しした料理をふるまいましょう!1頭の牛からほんの少ししか取れない貴重な肉にございます!わが村でも婚礼や祭りごとなどめでたい席でしかお出ししない料理にございます!大変美味だとおっしゃられたのが忘れられません。さぁ席についてお待ちください!」

Jとウィレナは上座に向かい合って座らせられる。

「あの村長さん。いくつかお聞きしたいことがあるのだけれどよろしいかしら?」

ウィレナは椅子を前に出し村長に食い入るように質問を投げかける。

「私たちが出立した後、ここの兵士たちは戻ってきたのかしら?確かこの村の護衛の兵士たちも私たちとともに王都までの護衛として任を預かっていたと思うのだけれど。」

村長は「にぃっ」という効果音がつきそうなほど口角をあげてにこやかに返答する。

「はい。村の兵士たちは先日帰ってきました。」

「その兵士は何か言ってなかった……?例えば……私達が渓谷に落ちてその捜索をジラフィム達が行っているとか……」

「はい!兵士たちから聞いたのはジラフィム殿の素晴らしい剣技!道中の仲良くなった王都の近衛兵との話、そして姫様が滑落なされたことです!姫様を発見されたら直ちに王都へ使いの者を走らせるようにと言付かっております!私もつい先ほど王都へ文を飛ばしました!」

「その……実はさっきジラフィムの命令と言われた王都の兵士らしきものに命を狙われたの。」

「なんと!それは何かの間違いでしょう!きっと野盗が兵士の死体から鎧をはぎ取ってきていたに違いありません。」

「ええ……そう……そうよね。」

「帰ってきた兵士たちもジラフィム様が心配して谷底の濁流に飛び込もうとするところを兵士10人で何とか押さえつけたという話をしておりました。それほど姫様を心配なされたのでしょう。だがもう安心してください。明日にでも王都からの使いの者が姫様をお迎えに参るでしょう。」

しばらくすると上質な肉が焼けるにおいが漂ってきてジュージューと鉄板で焼かれている霜降りのサシが入ったミディアムレアのステーキとパン、スープが運ばれたて来た。

「さぁ頂きましょう。我らが皇国の父、レーヴェリオン皇帝に感謝を込めて、頂きます。」

「おいしい……村長さん味付けは先日と同じなの?」

「はい、同じでございますよ。ウィレナ姫様。」

「そう……空腹は最高のスパイスと言うのは本当なのね。お城では空腹の時なんてなかったから知らなかったわ……」

「姫様、道中よほどお辛い旅だったかと思います。ですがご安心を。ここまでくればもう安全ですよ。」

「村長さん。感謝するわ。」

肉を数口、スープを一飲みしたあたりで、Jの視界が突然ぐらつく。

「え……何……途端に眠気が……」

姫がばたんと机に突っ伏す。料理が押し出され水の入ったグラスが倒れた。

Jも眠気にあらがおうとするが、耐えきれない。朦朧とする意識の中、村長の声を聴いた。

「フン……馬鹿な娘よ。人生最後に食う肉の味はうまかったかのぉ?」

目の前が暗転する。

――よく気絶するわねこの主人公。

――気絶系主人公って一部で言われてる。

暗転した状態でも声が聞こえる

「ささこちらへどうぞ。報告のあったにあったとおりウィレナ姫にございます!」

「よくやった!褒美を取らそう!」

「ありがたき幸せにございます……!」

そしてJの意識は途切れた。

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