第8話 最初のフラグメント
~エクヴォリ渓谷東のゴブリンの巣~
カメラがJの視界を離れダンジョン内を進める。中央を深い縦穴が奈落へとつながるように下は暗くどこまで深いか見えない。奈落の中央には土の橋が掛けられており、アリの巣のように入り組んだ地形で、小部屋同士は土の橋でつながっている。
巣穴の中にはゴブリンが数匹、肉をかこんで謎の言語で話を進めている。時折武器を持ったゴブリンが橋を巡回していて警備も厳重のようだった。
――どこまで行くつもり?
――一番下まで。
Jは目の前に掛けられている橋の右手を奈落に向かって足を踏み出し、落下していく。
――死ぬのが目的なの?
ヌルが少し驚いたように見える
――いや、ちゃんと下に足場の橋がある。
Jは着地するとすぐに前転して受け身を取る。こうすれば多少の落下ダメージを軽減できるからだ。ゴブリンの小部屋の前に着地したためゴブリンが驚き、そして武器を構えてJのもとへ襲い掛かってくる。Jは小部屋の中に入っていき4匹のゴブリンと対峙する。だが、Jは戦わない。
――目的は奥の積み荷の袋。その中に薬草が入っている。食えば生命力を回復できる。
右手のゴブリンが槍を持ってJへ突撃する!それをステップで躱しジャスト回避を行う。時間がスローになった瞬間に突撃してきたゴブリンの横を前転して進み奥にいる2体の間をさらに前転の無敵時間を利用して槍のダメージを無効にして進んでいく。難なく袋の前にたどり着き薬草を手に入れたJはさらに前転して敵の攻撃をかわし小部屋の入り口まで戻っていく。
そして追ってきたゴブリンをわき目に再び橋から飛び降り下へ落下していくのだった。
着地、そして落下。着地、そして落下。何度か繰り返すうちに周囲が熱を帯び熱く感じられるようになる。最初は奈落で底が見えなかったが、今ははっきりとわかる。奈落の底は溶岩が波打つ地上の生命を拒む広大な死の国、ここがモンスターたちのコロニーだ。マグマ近くには小さい山がいくつも点在していて、その小さい山が囲むように大きな山があり、その上に巨大な城が鎮座している。
縦穴の一番下のとこまできたJはフゥーッと息を吐き独り言をつぶやく。
「ここからが本番だ。」
――これより下は橋とかないみたいだけど?
――ああ、だからこの橋の先へ進みこの巨大な地下空間の壁の裏側を沿って移動することになる。ただ、今回は魔王城まではいかない。
――魔王城?
――ああ、ルートによってはラスボスになる魔物の王、すなわち魔王が住んでいる。
――またネタバレを喰らってしまったわ。
縦穴から橋をたどろうとすると突然この世の者とは思えない巨大な飛行物体が目の前を横切った。
――ドラゴン?
この世界の生態系の頂点捕食者。魔王の使い魔にして魔王城の番人。ドラゴン改めヘルカイトだ。
ヘルカイトはJを一瞥し火を噴きながら魔王城へ帰っていく。
――あのドラゴンは何しに来たの?
――単なるイベントムービーだ。メンチ切りに来ただけ。
橋を先に進むとゴブリンとは違うモンスターが現れる。巨大な大鉈を手に持ち、一つ目の巨人、サイクロプスだ。その両脇には二つ首でしっぽが蛇の狼、オルトロスが2匹待ち構えている。
――見るからに強そうなんだけど
――ああ、一撃でも攻撃を喰らったら即死だ。ゲームオーバー。このダンジョンで手に入れたものすべてロストして入り口まで返される。
――死んだらアイテムロストなのね。だから転送の落果遺物を入り口で使ったのね。ここで手に入れたいアイテムがあってそれを回収しに来たと。
――ああ、だんだん分かってきたじゃないか。
サイクロプスたちのところへ走って向かっていくJ、オルトロスが左右から攻撃を仕掛けるが、回避一本に集中したJをとらえることは出来ない。残りのサイクロプスも振り下ろし攻撃に合わせ左手で受け流す『パリィ』からの『パリングスルー』を決め颯爽と洞窟内に侵入していく。
――暗くて見えないんだけど。
洞窟内は本来松明や発光の落果遺物を持ってきての攻略になるのだが、それは初見プレイ時の話。何度もこの洞窟を通って来たJにとっては目をつむっても壁やトラップの配置が手に取るように分かっていた。ほとんど真っ暗で、見えると言ったら敵の目が光る蝙蝠型のモンスターがいること、サイクロプスやオルトロスは足音や鳴き声で場所を判断して攻撃を回避している。他にも、ゲーム内のコレクションアイテムが周りに光の粒子を纏わせふわふわと浮いている。
――すごい
――いいね。もっと褒めてくれ。
――スゴイスゴイネー
――あれ、ヌルさん?棒読みですよ⁉
ダッシュと回避、前転を駆使して真っ暗なダンジョンを進んでいくJ。移動経路にゲーム内の収集アイテム『フラグメント』があったためついでに回収する。一定数集めて特定の場所に行くとステータスのアップや貴重なアイテムを貰える収集イベントだ。
Jは浮いているフラグメントに手をかざす。すると視界が途端に明転し、あたりが光に包まれた。まぶしいと目を細めるJ。『B4X』をやりこんだJだがこんなことは今まで一度もなかった。目が慣れてくると、見慣れない白衣を着た二人の女性の姿が映し出されている。
一人は地味な印象の眼鏡文学女子っぽい見た目。もう一人はバリバリのギャルで褐色の日に焼けた肌に金髪と白衣がミスマッチした姿だった。二人はどこかの大学のキャンパスの表札の前でピースサインを出している。
――……なんだこれは……?こんなのゲーム内であったか?
突如、目の前がさらに明転して目の前に溶岩の海とそこに浮いている軽石のような足場が出現した。
「ふぅ……どうやら抜け出たようだな。クソ熱い。」
――でもさっきのは何だったんだ?バグ?それともプログラムのコメントみたいな部分の動画要素でも発現したのか?まぁいい。今は考えている余裕はない!
思考している暇はない。それほどの熱気だった。此処までノーダメージで一切の変動がなかった生命力ゲージがいるだけでみるみる減っていく。
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