第7話 探索

「今からどこに行くの?」

ウィレナが訪ねる。

――このゲームはオープンワールド上で自由に行動できるが、まだある程度制約がある。姫の鎧を背負っているのがその証拠だ。これを何とかできる場所に向かう。

『まず川を遡上しよう。俺たちが落ちた馬車の残骸があるはずだ。ジラフィム達はそこにまだいるかもしれない。』

「そうね。じゃあ出発しましょう。」

メインクエスト:馬車の残骸の場所まで行こう!

ウィレナとJの二人旅が始まった。

川に沿って川上へ移動中、暗闇から狼型の魔物が出現する。Jは狼に対しジャストガードを決め、背中に回り込み急所を攻撃する『バックスタブ』で狼のダウンを取る。その間に走って逃げる。

――これが効率的な移動手段だ。おまけに不殺も達成できる。

 しばらく進むと洞窟が行く手に現れる。

――この世界はいたるところに洞窟がありそこが魔物の住処やダンジョンになっている。だがこの先の洞窟は休憩ポイントだ。

洞窟に向かう途中、川で魚を捕るJ。両手が魚でふさがってしまった。

――早く荷物をたくさん持てる落果遺物を手に入れたい。

――そうすれば背中に背負ってる姫の装備もしまえるってわけね。

洞窟内に入ると誰かが残した焚火のあとがある。Jが火をつけようとするとウィレナがJの前に立ち、話しかける。

「どきなさい。あなたに王族の魔法を見せてあげる。」

そういうとウィレナは焚火の前にしゃがみ込み、人差し指と中指の2本指で空中に文字を書き始めた。ウィレナの指先がポウッと明るくなり、空中に魔法陣のような円と幾何形体を組み合わせたものが描かれ、ウィレナは呪文らしきものを唱え始める。

「熱よ集まり火になり給え、チン!」

するとウィレナの指先から火が出て焚火に着火した。

「驚いた?王族は『魔法』を使えるの。今見せたのはほんの序の口よ。見れただけでも光栄に思うがいいわ。

Jはそこを利用し魚を調理してウィレナにふるまった。

『夜は魔物が出てきて危険だ。朝までここで休もう。俺が見張りをする。』

「あなたは眠くならないの?」

『どうやらそういう体質らしい。』

「そう、なら休ませてもらうわ。見張り、よろしくね」

そう言うと目の前が暗転し夜が明ける。

――姫のくせにこんな野宿でも寝られるなんてすごい胆力ね。

――その辺はほら、休んでくれないと話が面倒になるから。

洞窟を出発する。再び川沿いを上流にむかって進むが魔物の姿は夜より少ない。

――夜の方が魔物が多く昼は人間、主に野盗が徘徊している確率が高いんだ。ただ、人の数はそれほど多くないから、いったん昼にしてから進んだ方が結果的に早い。

しばらく進んでも野盗にエンカウントすることなく開けた場所に出る。そこは2本の川が合流する三角州地帯で三角州の部分には野盗の拠点が遠目で見える。

――今からあの拠点にいくぞ。

――寄り道?

――あそこにあるアイテムでこのあとすぐ使うものがある。

そういうとJとウィレナは草むらに隠れて中腰で移動し始める。

――これ3人称視点だと結構見つかると思うんだけど……

――問題ない。しゃがんだ時に頭が草の高さより低いならカモフラージュされる。ただし派手な色の装備だったり頭に大きな被り物をしていたら見つかってしまうけどな。

――なるほど、だからスキンヘッドなのね。

――それは関係ない。

野盗の拠点には6人の野盗がいる2人は川の両側を見張っていて中央の小屋に2人が酒を酌み交わしている。残りの2人は小屋の周りをウロウロ哨戒している。

拾っておいた石ころを手前の見張りの頭に投げてぶつける。

見張りは気絶しその場に倒れこんだ。

――いいエイムしてるね。

――見つかってない状態で今みたいな投擲、射撃武器は自動照準の補正がかかるんだ。だから移動しながらでも頭に自動ロックオンされてそこに投げることができる。もちろん、離れたところに石を投げて注意を逸らすこともな。

川の浅い部分を中腰で移動し三角州の草むらへ素早く身をひそめる。

反対側の見張りは無視していい。Jは小屋の周りを哨戒している二人のうち、小屋の入り口にいる奴は倒す必要があると判断し、中腰のまま素早く背後へ近づき首を絞め、落とす。背後からのチョークスリーパーは一瞬で相手の体力ゲージを0にできるこのゲームの必須テクニックの一つだ。

「お見事」

ウィレナがJを褒める。ウィレナも中腰でJの後を付いてきている。敵に見つかっていない状態は『ステルス』と言い、敵に見つかったら周囲の敵に声をかけ増援として集まってくる。そうすると途端にピンチになり今の装備では手も足も出ずやられてしまう。だからウィレナには見つかってほしくないのだが、そこはちゃんと見つからないように動いてくれる。というかパーティーメンバーは見つかりにくい補正がかかっているため、その心配はほとんど無用だが。

――後は小屋の中の2人だが……

Jは小屋の前に移動しウィレナも後をついてくる。

『ここで待機してくれ』

『分かったわ』

ウィレナを小屋の入り口前に待機させ、ウィレナとは入り口を挟んだ反対側の小屋の入り口横の壁をノックする。

「なんだぁ?」

「ちょっと見てくらぁ」

敵がウィレナのいる入り口の方へ移動する。敵がウィレナに気づき声をあげようとした瞬間、Jが襟首をつかみ速やかに締め落とした。

このままでは哨戒中のもう一人が来て気絶している敵を見つけてしまう。気絶した敵兵を草むらに隠し、小屋の中に入る。そして持っていた石ころを頭にぶつけ気絶させ、小屋の中の安全を確保した。

小屋の中には武器や食料が保存されており、奥には宝箱がぽつんと鎮座している。

Jがその宝箱をあけると、『転送の落果遺物×3』を入手した。

小屋の反対側には『野盗の鎧』が掛けられていて、入手できるが、装備重量は少しでも軽いほうが移動速度が上がるため、それは拾わなかった。Jのプレイスタイルは基本パンツ一丁だからだ。

「野盗とはいえ物を奪うというのは気が引けるわね……」

その後、周りを哨戒している残りの野盗をスルーしてきた道を引き返す。

――手に入れたアイテムは何?

――使い捨てのファストトラベル用のアイテムさ。ワープホールって使った場所にロケーターを設置して、いつでもその場所に転送できるようになる。これは1回きりの消費アイテムだけど、この先で使うためにちょっと寄り道したのさ。

野盗の拠点を後にし、上流に進むと進んでいると二股に分かれている川の合流地点に到達した。

「どっちの川から流れてきたのかしら……?」

ウィレナはJに問いかける。

――調査パートだ

メインクエスト:右と左の川を調査せよ

『馬車と一緒に落ちたのなら何か痕跡が残っているはずだ。それを探してみよう。』

Jは河原にある流れ着いた木材に近づき腰を落として調べる。どうやらこれは馬車の車輪の一部のようだ。そこからあたりを見回すと右手の川の方に木材が点々と散らばっている。そっちの木材も調べてみると乗っていた馬車の意匠が施された梁が落ちている。

『どうやらこっちから流されてきたらしい』

「そう、なら進みましょう。」

 Jたちは右の川に進む。

河川敷に沿って進んでいくと川の反対側に洞窟が見える。洞窟の入り口には高台が接地されそこに人型の魔物、悪鬼『ゴブリン」が見張りをしている。

Jが川を泳いで渡ろうとすると、姫はちゃんと後ろを泳いでついてくる。川から上がるとすぐさま草むらに移動し、見張りのゴブリンに見つからないように身をひそめる。

「あれが……ゴブリン……」

「見たことないのか?」

「いつもお出かけ中は馬車の中だし、魔物に襲われたときはジラフィム達がやっつけちゃうのよ」

ウィレナは物珍しそうにゴブリンの巣を見る。

「フェレスが言ってたわ。ゴブリンの巣は根っこで繋がっていて地下に魔物の巨大なコロニーがあるって。」

――で、今からそのコロニーにカチコミをかけるってわけ。

「とても強い魔物がうじゃうじゃいてジラフィムも昔潜ったことあるらしいけど生きて帰るのが精いっぱいだと聞いたわ。行かないほうがいいわね。」

――夜になるとあの巣穴からゴブリンや他のモンスターが湧きだしてあたりを徘徊し始める。逆にいえば、今は正面に見える見張り台にいる3匹を倒せば拠点を制圧できるってことだ。

――3匹程度なら簡単にスルーできる。

Jは持っていた石ころを見張りの後ろめがけて投げた。すると音に反応して見張りのゴブリンが振り向き、その間にJとウィレナはダンジョンの入り口の前に立つ。

――ここでさっき手に入れたアイテム『転送の落果遺物』を使う。

Jが転送の落果遺物を使用するとカプセル状の落果遺物が5つに分解され、4つが地面に突き刺さり青く光る四角く地面を明るく照らし出した。残った一つを回収するとダンジョンへ足を踏み出す。すると引き留めるようにウィレナが止める。

「ダンジョンに入るつもり?やめなさい。あなたにはまだ早いと思うわ。」

①『問題ない。行こう。』

②『嫌な予感がする。引き返そう。』

③『どうした?怖いのか?』

④『怖いから一緒についてきてくれ』

Jは2番目を選択する。

『1人で行くからここで待っていてくれ』

「死ぬ気じゃないでしょうね?」

『必ず帰ってくる』

「待ってるから必ず帰ってきなさいよ。あなたは私の従者なんだから。」

――フラグにしか聞こえない。

ヌルのツッコミを尻目にJはダンジョンの中へ歩を踏み出した。

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