第6話 脱がされる姫騎士

「人の縄張りで勝手に魚取っていいわけないよなぁ⁉」

はじめは驚いていたウィレナだったが、自分の国の民だと気づくと毅然とした態度へ変貌し大男に向かって口を開いた。

「私はティーア皇国第3王女:ウィレナ・ラグナ・ハクバード・ティーアよ!あなたがティーアの民なら私に服従し命令を聞きなさい!」

ウィレナの毅然とした態度に一瞬キョトンとした大男だったがすぐに大きく口をあけ大笑いした。「バハハハハハハァッ!なんでこの国の王女様がこんなところにいるだべさ!嘘をつくならもっと騙すつもりでやれやぁ!バハハハハァッ!」

「な!嘘ではない!その証拠にこの王家に伝わるこの宝剣を……!」

姫は腰からぶら下がる小刀の鞘に手をかける。

「え……ない……?」

無かった……落果遺物として父上からプレゼントされ、さやからの抜刀時に光の線が対象を切断する古の落果遺物である『リネアの剣』が、無かった。

「そうかあの時……!」

渓谷で馬車に落石が当たった時、フェリスを助けようと落石が当たった自分側だけ谷底に落ちるように馬車を切断したときに、自分と一緒に落ちたはずだが……。

「お父様ごめんなさい……!」

「何一人でごちゃごちゃ言ってるだァ?もしお前さんが違うのならばそれでも良し!本物の姫ならもっと良し!おいらにとっては嘘だろうが本物だろうがどっちでも構わねぇべ!」

「あなたはいったい何を言ってるの?」

「姫様なら隣国へ高い金で売る!そうじゃないなら、人買いへ売る!どちらにせよおいら達とってもラッキー!丸儲けだァッ!」

「ひっ!」

「てなわけでその鎧とか武器危ないべ!ほれ!行け!まずは剣を取り上げるだァ!」

大男がリードを手放し狼を姫へけしかける。

「きゃあ!」

狼がウィレナに嚙みつこうとするその瞬間!

「ギャンッ!」

狼が大男の方へ吹き飛んだ。

『悪いな。俺はこの姫様の従者のJだ。あいにく俺は記憶喪失でね。手加減の仕方は忘れちまったよ。あんた、運がないね』

――キャーカッコイイー。

――棒読み!俺の意思で言ってるセリフじゃないからね⁉

イベントシーンからシームレスに戦闘へ移行していく。

「J!これを使って!」

ウィレナがJに向かって細剣を投げ、それをタイミングよくキャッチする。

『ウィレナ姫の細剣』を入手した!

狼がJに向かって突進してくる。Jはそれをジャスト回避で躱しながら狼の背に向かって突き攻撃を連打する!

「ギャギィッ!」

狼がノックバックで後方へ吹き飛ぶ。狼の上部にはライフポイントが表示されおり、攻撃がヒットするたびに5,6,7と数字が表示される。その分だけ狼のライフポイントが削られていく。Jは前転ローリングで狼に近づき立ち上がった瞬間に大ぶりの切り下ろしからの切り上げの連携を見せ落ちてきたところに後ろ蹴りで追撃する!

――すべての敵にはダウン状態からの起き上がりの際に一定時間無敵状態が付与されている。だからその間にため攻撃や攻撃前の隙が大きいモーションの技を使うと隙なく連撃が可能だ。そしてゲームシステムの一つとして『決殺』がある。これは敵のライフポイントが一定割合以下の時にコンボ数が規定量に達すると残りのライフポイントを無視してとどめの一撃として1発で殺すことができるシステムだ。

蹴り飛ばされた狼が再び起き上がろうとするが、狼のライフが点滅し始め視界内にコンボ数が3と表示され周囲の動きがスローモーションになる。狼を中心に白い集中線がカーソルとなって発生しそれが『決殺』の合図となる。

この時に攻撃を行うと専用モーションで対象を殺害することができるのだが……

――クリアまでの最速プレイは「不殺だ」

 Jは細剣を鞘に納め起き上がった狼の頭に向かって前転宙返りからのかかと落としで気絶させる。

――なぜ殺さないの?殺意を持って襲ってきたのに。

――このゲームは敵を倒すのに2パターンあるんだ。『殺害』と『戦闘不能』で、殺傷能力のある武器で攻撃すると敵のライフポイント、すなわち生命力ゲージが削られていく、その下にもう一本ゲージがあるだろ?それが体力ゲージだ。体力ゲージは非殺傷武器で攻撃すると効率よく減らすことが出来て0になると戦闘不能状態になる。殺傷武器は生命力ゲージと体力ゲージのどっちも減らすことができるが、それだけ使っていると戦闘不能より先に「殺害」してしまうからな。

――だから攻撃にキックとかパンチとか挟んでたわけね。

――ああ、そして全クリするまでには殺傷数を0にしておかないと後で時間がかかるルートに入る。だからこれからの戦闘は殺害することはない。

狼は戦闘不能状態となり体が青く縁どられその場に倒れこむ。

「オオオオオオオッ!」

大男が雄たけびを上げる。

「よくも!よくもォッ!オラの飼い犬をよくもォッ!許さねぇ!ぶっ殺してやる!」

次は人型の敵だ。

「J!私も戦うわ!」

突如、ウィレナがスカートを割き動きやすい格好に身を変えJの隣へ並ぶ。

「こんな状況になったのは私のせいだし、戦ってる方が退屈しないで済みそうだもの!」

「嬢ちゃんの細腕で何が出来る!」

「あら?落果遺物ってご存じない?」

ウィレナは髪飾りのかんざしを一本抜き取り大男の方へ投げる。かんざしが大男に接触した瞬間。

「あびゃびゃびゃびゃ!」

大男を中心に雷がはじけ飛ぶ。そしてひゅるりとかんざしがウィレナのもとへ戻る。

「王家に伝わる魔法の力!見せてあげる!」

――なお使われるのはここだけの模様。

『身を守れ!』

Jは命令口調でウィレナに指示をだす。

――「戦う」って言ったのにいきなり待機。

――ウィレナの落果遺物にも殺傷と非殺傷がある。デフォルトだと殺傷武器のままで攻撃するため、AIに指示を出して行動パターンを変更する必要がある。

「分かったわ!」

――敵は基本的に『プレイヤー>近くにいる敵』の優先順位で攻撃するためウィレナが攻撃されることは現状殆どない。範囲攻撃に巻き込まれたりすることはあるが。

大男は上体を低く構え腕を広げJに襲い掛かる。

Jは男の脇をステップの無敵時間を利用し躱し背中へ周り込む。膝に向かって前蹴りを行い体勢を崩す。襟首をつかみさらに体制を崩し下がってきた頭部にチョークスリーパーを極める。

「グギギギギギギッ!」

大男は抵抗しようと暴れるがJは離さない。2,3秒ほどの時間が経ち大男は落ちた。

「ありがとう。助かったわ。」

ウィレナは続けて言う。

「この後どうする?こいつ、たぶんこのあたりを根城にしている野盗よ。きっと哨戒で見回りに来てたに違いないわ。ここにいると危険だと思うのだけれど。」

『夜も深い。このままここで夜明けを待とう。』

『そうだな。すぐにここを出発した方がいい。』

『野盗なら退治するのが王族としての務めでは?』

『こいつの身ぐるみをはぎ取ってから行こう』

Jは2番目の選択肢を選んだ。

『そうだな。すぐにここを出発した方がいい』

「ええ、そうね。J、あなたが先行しなさい。従者としての務めよ。」

Jが川にそっ進み始める。まだ夜は深い。

――道中夜だと魔物とか野盗に襲われる。ランダムエンカウントが、壁を左手にして進めば右手側だけに注意をすればいい。基本的に襲われてもスルーで行く。

「ああ、了解した。」

『後を付いてきてくれ、あと、危険だから俺の指示に従ってほしい。』

「頼りにしてるわ」

『ウィレナ姫が仲間になった!』

――よし、服を脱がそう。

――何を言っているの?

Jはゲームメニューの画面が出るように思考する。

するとウィレナ姫が表示された装備メニューが開かれ、武器、防具の装備が表示される。

武具はメイン武器は装備されておらず、サブ武器のかんざしのみとなっている。

防具は姫の鎧と豪華なボロボロのドレス。それをどちらも『外す』コマンドを選択する。

「きゃあ!いきなり何をするの!?」

すると目の前の姫自体も鎧と服をはがされガーターベルトにニーソックス、上下そろった豪華な下着のみの姿となる。腰から下げたソードベルトには何も携えていない。そこにJが受け取った細剣を装備させ、ウィレナが装備しているものは武器のみとなった。

Jの背中には姫のと防具が畳まれて背負う状態になっている。

「いきなり服を脱がせるなんて信じられない!王族をなんだと思っているの!」

『必要なことなんだ。指示に従ってくれ。』

「そうなのね……何かあったら許さないから。」

――なぜ脱がせた?

――まず戦闘では味方はほとんど狙われない。ただそれは敵が1体の時限定だが。そして味方のライフポイントが0になったら死亡するのではなくその場に倒れて時間経過で一定までライフが回復して復活する。だから装備を持たせて移動速度が少しでも低下するのを防ぐのが目的だ。

――合理的な理由ね。でもパーティメンバーが全員下着姿なのはどうかと思う。

パンツ一丁のスキンヘッドの男に下着姿に剥かれた美少女姫の変態御一行がそこにいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る