第9話 VSジャッカル
次の日の午前。みんなで狩りへ行ったが、残念なことに今日は鹿が見つからなかった。
兎や狸、狐は獲れだけど、獲物の量は昨日よりも少ない。
今日はアオイに、お腹いっぱいご飯を食べさせてあげられないな。
俺はちょっと肩を落とした。
午後になって集落へ帰る途中、メンバーの一部が水を欲しがったので、昨日とは違うルートを通った。
森と集落の間には、背の高い草が生えた地帯がある。俺よりも背の高い草むらのなかを、リーダーに率いられて進むと、大きな湖に出た。
「よし、一度ここで休憩だ。しっかり水飲んどけよ」
リーダーの指示通り、俺らは背中に担いだ獲物を下ろすと、みんなで湖の水を飲み始めた。ここの湖は安全だが、集落の長老によれば、世の中には危険な生物の住む湖もあるらしい。
リーダーを含めて数人の大人たちは辺りを警戒している。
この湖にも危険な動物がいるのかな?
俺は湖に顔をつっこみ、十分に水を吞むと、槍の点検をする。石槍は、鋭く削った石を丈夫な木の棒にヒモで縛りつけたものだ。
ヒモが弛んでいないか、石が欠けていないかは重要だ。俺が自身の槍の健康ぶりに満足すると、突然悲鳴があがった。
急いで槍を構えて立ちあがる。
草むらから現れたのだろう。
大人たちの前に、三匹のジャッカルがいた。
何度か遠目に見たことがある。狐に似ているが、狐よりも大きくて、凶暴そうな面構えだった。
「マズイ、全員逃げろ!」
リーダーの指示で、大人たちは逃げ出した。俺と同年代の奴も逃げ出して、体力に自信のある奴は下ろした荷物、今日の獲物をしっかりと脇に抱えてから逃げ出した。
肉食動物で、俺らが獲物にしているのはせいぜい狐まで。
ジャッカルは危険だから、基本的には見つけ次第逃げるよう言われている。
なのに、俺の頭に最初に浮かんだのは逃亡じゃなかった。
こいつら、牡鹿よりも強いのか?
チリチリと、昨日の興奮が蘇る。
ジャッカルを倒せば、俺はもっと強くなれる。そんな予感を穂先に乗せて、俺は槍を握りこんだ。
三匹のジャッカルが一度吼え、俺に跳びかかって来た。
俺は最初の一突きで一匹のジャッカルを撃退。素早くしゃがんで、残る二匹をかわした。
最初に一匹は仕留めたと思ったが、致命傷ではないらしい。
肩から血を流しながらも起き上がり、吼えて威嚇してくる。
「マジかよ」
心地よい緊張感を吞みこんで、俺は両手で槍を握り直そうとした。
殺気を感じて振り返る。
背後から迫るジャッカルに俺は戦慄。
これが多対一だ。
敵は、常に視界にいるとは限らない。
俺は反射的に、無我夢中で槍の穂先を向けるが間に合わないだろう。何せ俺は槍を握り直そうとして指を緩め、ちゃんと槍を握れていないのだから。
冷たい死の風に首筋をなでられ、俺の槍がジャッカルの腹を刺し貫いた。
「え?」
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